梅之芝居日記

歌舞伎俳優の修行をはじめてから15年がたちました。
日々の舞台の記録、お芝居ばなし等、お楽しみ下さい。

朧夜に憎き物は、男女の影法師

2009年01月13日 | 芝居
音羽屋(菊五郎)さん、萬屋(時蔵)さんがお出になっている『十六夜清心』は、河竹黙阿弥の作による世話狂言ですが、第1場は清元節の浄瑠璃とともに進行してゆくというのが面白く、また情緒のある場面でございます。

幕開きの、中間、酒屋、町人の3人によるひとくさりが、とても歌舞伎らしい演出です。
酒代を払わない中間と酒屋の喧嘩を町人がとめる。酒屋が落としたという証文を拾って読んでみると、これが、これから演奏される浄瑠璃『梅柳中宵月(うめやなぎ なかもよいづき)』の“浄瑠璃ぶれ”の口上書きで、3人仲良く読み上げて退場、やがて浄瑠璃のはじまりとなる…。

“浄瑠璃ぶれ”は、義太夫、清元、常磐津などの、語り物の音曲によるひと場面の始まりに先立って、語り手である<太夫>、演奏担当<三味線>の名前、さらには出演俳優の配役までを申し述べるものです。
もともとは、開幕時に一座の<頭取>が勤めていたそうで、古い台帳(台本のこと)を拝読しましても、「ト、頭取出で浄瑠璃の口上ぶれあって…」なんて記述を見ることができます。

つまりは劇が始まる前の演奏者紹介のようなものなんですが、これを頭取ではなく劇中の登場人物にやらせ、芝居仕立てで見せるというのは、幕末からはじまったものなのだそうです。

…町人が連名を読み上げるのに合わせ、さっきまで争っていた中間と酒屋が、仲良く「東西、東西~」と声を張り上げるのがなんともおおらか、洒落っ気に富んでいますね。

浄瑠璃ぶれにつきましては、次回もお話しさせて頂きたく存じます。




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