梅之芝居日記

歌舞伎俳優の修行をはじめてから15年がたちました。
日々の舞台の記録、お芝居ばなし等、お楽しみ下さい。

崩壊する御殿

2006年12月07日 | 芝居
昼の部の2演目め『忍夜恋曲者 将門』は、朝廷に反乱を起こしたものの、野望を達せぬまま討ち死にした平将門の娘である滝夜叉姫が立てこもる相馬の古御所が舞台です。傾城に化けて近づき、色仕掛けで味方に引き入れようとする滝夜叉姫が駆使する蝦蟇の妖術に、さしもの勇者大宅太郎光圀もたじたじ、両者睨み合ったまま幕ーとなりますが、この一幕の最後のほうで、<屋台崩し>という大道具の演出法が使われまして、非常にダイナミックに舞台面が一変します。

正体を現した滝夜叉姫と、からみの<力者>の立廻り、続く光圀との一対一の闘いが終わりますと、滝夜叉姫は御殿(高足の二重屋台)上手側の壁の中に煙とともに消え、光圀は気を失います。光圀がいるままの御殿の御簾がスルスルと降りると、風雲急を告げる<テンテレツク>の鳴り物となり、照明も一気に落ちます。やがて御簾をくぐって現れるのは滝夜叉が使役する蝦蟇。これに先ほどの力者がからみますが、化性の魔力にこれも気絶。鳴り物もいよいよ凄みを増してきますと、御殿の柱がメキメキと折れ、屋根が沈んでまいります。あわせて四方の壁は崩れ、蔀(しとみ)も倒れ、最後は荒御殿になってしまうのです。
皆様おそらくお察しでしょうが、この演出には<大ゼリ>を利用いたします。大ゼリを取り囲むように御殿の縁側部分を作り、逆に柱や御殿背後の壁はセリの内側につくります。つまりこの御殿はもともと内側と外側にわかれているわけで、キッカケが来たらセリを沈めることで、屋根が下がってくるのですね。
柱が折れたように見えるのは、実際の柱の前面に、柱と同じ幅、色みのごく薄い板をたて、この上部は沈む屋根側に、下部は沈まない縁側のほうに取り付けているので、セリ下げと同時にだんだんとたわみ、最終的には圧力で折れてしまうというわけです。壁の崩落は、もともとがジクソーパズルのように破片が嵌っているところを、後ろから突き落としますし、倒れる蔀は、やはり裏から操作できる仕掛けになっており、これらは大道具さんの担当でございます。
力者役で出演しておりますと、この<屋台崩し>の間は、舞台正面に気絶のていで座り込んで控えておりますから、これら柱が折れる音やら壁が落ちる音がドスンガタンバコンズダンと聞こえ、それは凄まじいです。ときには折れた柱のかけらが飛んできたりすることもあり、なかなかスリルもあるのです。

また、この演目の上演時は、舞台設営では大ゼリを舞台前面に持ってこなくてはいけないわけですが(回り舞台を使うわけですね)、そうなりますと以外と狭くなるのが<踊れるスペース>です。舞台の縁から御殿の縁側までの間隔は一間ちょっとでしょうか。さらに御殿の中央には、三段の階段がついておりますから、舞台中央部は、本当にごく限られた奥行きとなります。立廻りでは、一同気をつけながら演じております。
『将門』に出演させて頂きますのはこれで4度目です。また日を改めて、お話しさせて頂きます。

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1 コメント

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バリバリメリメリ (SwingingFujisan)
2006-12-07 23:33:06
すぐにでも見たくなってきました!! でも、昼の部は千秋楽に入れてしまったから・・・。
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