梅之芝居日記

歌舞伎俳優の修行をはじめてから15年がたちました。
日々の舞台の記録、お芝居ばなし等、お楽しみ下さい。

珍しい演目

2005年08月05日 | 芝居
午後四時から銀座一丁目の「京橋プラザ」内の和室で歌舞伎フォーラム公演『松王下屋敷』の<立ち稽古>でございました。
このお芝居、本興行ではなかなかお目にかからない演目です。聞けば大正五年帝国劇場で上演されたのが大歌舞伎での最後の上演とか。何年ぶりになるのでしょうね。もっと、いわゆる<小芝居>や<地芝居>では、人気演目になっていたそうでございます。
三大名作の一つである『菅原伝授手習鑑』の「寺子屋の場」を増補する形で、後からつくられた浄瑠璃ですが、菅相丞(菅原道真)の恩を受けながら、はからずも相丞一家を滅ぼそうとする藤原時平の家来となっている松王丸が、相丞の一子菅秀才の首を打てとの命を受け、苦悩の末にわが子小太郎を身替わりにすることを決意する、という、親子の愛と主従の義理の葛藤を描いた作品です。
私は菅相丞の奥方の役でございます。わが子菅秀才を家来にたくし、松王丸の屋敷に隠れているのですが、松王の子供である小太郎の姿をみては、遠い地にあるわが子を思い涙に暮れる、優しくもまた哀れな母親の役どころです。
子を持つ親の役は、まだ結婚もしていない身にとっては、なかなか実感がわきにくいところもございますけれど、母が子を思う気持ちを充分に出せればと考えておりますが、この奥方は、この一幕の登場人物の中では一番位が高い役でもあります。いわば皆にかしずかれる立場。そういう立場の人間が持つ、生来の品格、気高さも感じさせねばならず、かえってこれが一番難しいことではないでしょうか。品や格は、出そうと思って出せるものではございません。いわばオーラのように、おのずと体からたちのぼるもの。心して勤めたいと存じます。
今日のお稽古は、とりあえず動きながらの芝居をし、要所要所で段取りをきめながら行いました。相手がどう動くのか、どうセリフをいうのかで、自分の演技も変わってまいります。もちろん演出の兼元末次さん、奥様の多恵子さんが、御自身が記憶する先人の演技を教えて下さいますので、それに基づいての芝居作りとなります。
とは申せ、今日ははじめて立って動いてみた、という状態です。皆々おおよその流れを掴むことはできましたが、芝居としての完成は、まだまだ先のこととなります。今日でしばらくこのお芝居のお稽古はございません。次は私達の勉強会が終わってからになります。

これからは勉強会に専念し、勝頼にもっともっと近付けるよう精進いたします!

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