梅之芝居日記

歌舞伎俳優の修行をはじめてから15年がたちました。
日々の舞台の記録、お芝居ばなし等、お楽しみ下さい。

『勧進帳』のデザイン

2010年01月12日 | 芝居
『勧進帳』のそれぞれのお役の衣裳にあしらわれた模様が面白いので、ちょっとまとめてみましょう。

まず弁慶。いちばん上に着ているのは黒の<水衣(みずごろも)>ですが、そこに散らしているのは金糸で縫われた“梵字”。
多分に装飾的に変形していますが、「カ(ー)ン マン」、すなわち<不動明王>の意でございます。
大口袴には“輪宝”の模様で、これはどの演目でも、弁慶役には必ずといっていいほど使われている柄でございます。

富樫は薄納戸色の素襖、長袴(これも大口袴と同じように仕立てられています)。“松皮菱”の破れ(とぎれとぎれに描く)に、向い鶴と亀という模様。このカメさんが、近くで見るととても可愛らしい。後見しているおかげで気がつきました。

義経は、紫一色の水衣に鶸一色の大口袴で,模様らしい模様はあまり目につきませんが、水衣の上から締めている石帯(せきたい)には、笹竜胆が刺繍されていますので、お見逃しなく。

ユーモアがあるのは3人の番卒さんたちで、軍内さんは“蕪”、兵内さんは“雁窓(がんまど)”、権内さんは“雲板(うんぱん、くもいた)”というもの。
蕪はそのものズバリですが、雁窓というのは不思議な名前ですな。鳩サブレのエックス線写真みたいなデザインですが、ありゃ雁なのですか…?
雲板は、禅宗で使われる金属製の銅鑼のようなもので、これを鳴らして作務の合図にしました。

太刀持ち音若の肩衣(かたぎぬ)には、背面に大きく“蝙蝠”が羽を広げています。富樫の「いかにそれなる強力、止まれとこそ」のくだりになると、客席に背を向けて控えますから、是非見てみて下さい。
いまでこそ気味悪がられる蝙蝠は、かつては縁起のよい生き物。蝠→福に通じるからだそうですが…。
市川家にとっても、蝙蝠は由縁の柄でございます。

以上ざっとで失礼いたしますが、歌舞伎のデザインって、本当に面白いですね!


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2 コメント

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なるほど。 (amelie)
2010-01-14 23:48:51
ご解説ありがとうございました。
蝙蝠が演技の良い柄なんて知りませんでした。
歌舞伎の衣装デザインって本当に洗練され、しかも様々な意味があるのですね。
今月はもういけないけれど。よーく覚えときます。寒くなってまいりました。ご自愛下さいませ。
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弁慶つながりで (ごんた)
2010-01-16 20:49:04
はじめてカキコします。
正直、たまたま「松浦の太鼓」をちょっと調べててココに行き着きました。
で、勧進帳とはつながらないけど、弁慶つながりで…
権太や団七の衣装である大幅の弁慶格子の浴衣。最近、すっかり見なくなった浴衣地でして、呉服屋で生地を探しても、まあ、みつからないことで…下手したら、店員に聞いたら「柄」がわからないという始末。
毎年、今年こそは夏の浴衣に弁慶格子って思っているんですけど、探し続けてもう早4年目。
弁慶格子というごく単純なデザインの浴衣地がなくなり、かわって変な柄物が横行しているのがとっても残念。
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