梅之芝居日記

歌舞伎俳優の修行をはじめてから15年がたちました。
日々の舞台の記録、お芝居ばなし等、お楽しみ下さい。

高崎でした

2010年07月14日 | 芝居
ホテルから歩いて通える<群馬音楽センター>での2回公演でした。

この会場は定式幕がなく、備え付けの、えんじ色の“絞り緞帳”を使いました。
『重の井』の幕開きは、下座の琴唄につれてスルスルと幕が上がってゆくという、不思議な雰囲気ではじまりました。こういうのも、巡業ならではですね。

しかし『勧進帳』の幕切れとなりますと、さすがにこれは難しい(幕開きは本興行でも緞帳ですが)。弁慶が金剛杖をトンと突くのが柝の頭(かしら)、本舞台では見送る富樫の立ち姿、そこをスーッと定式幕が引かれてゆく…というイキが、この場面ではとても大事なのです。
そこで大道具さんと狂言作者さんがお知恵を絞り、この幕切れのみ特別に定式幕を使うことになりました。
本舞台では、富樫や番卒は絵面に決まるだけで動きがないので、その立ち位置ギリギリを通るように仮設のレールで定式幕を用意。ただしこれは上演中は上手の書き割りの裏側に隠されています。
いよいよ幕切れ、柝が入ると、狂言作者さんの合図とともに、大道具さんがその書き割りを素早く移動、と同時に幕引きさんがその中から出てゆき、いつも通りに幕ー。
その仕事の鮮やかさ! 各セクションが一体となってのチームプレイに、頭が下がる思いでした。
どんな劇場でも、その機構に合わせて道具を組み立てて下さる大道具さん、そしてそれを監督する狂言作者さんのお力は、本当にすごいものがあります。
照明さんも、とくに夜の部の各演目では、搬入時の明かり合わせができませんから(搬入時には昼の部の演目しか準備できませんので)、短い幕間に全ての調整をして下さっております。はたで拝見しておりましても、時間とのたたかいなのだということが実感されます。

劇場ごとの稽古をしないのが歌舞伎の巡業ですが、それがきちんと成り立つのも、スタッフの皆様のお陰! 本当に有難いことだと思います。