梅之芝居日記

歌舞伎俳優の修行をはじめてから15年がたちました。
日々の舞台の記録、お芝居ばなし等、お楽しみ下さい。

「幕を切って落とす」の語源

2008年12月25日 | 芝居
『高時』の2場目、『佐倉義民伝』の4場目、そして『石切梶原』で行われる演出、幕の<振り落とし>。
舞台一面を覆う幕を、柝の音を合図にバラリと落として、その向こう側に用意されていた舞台装置や居並ぶ役々を一瞬でお客様に見せる手法です。

幕の上部に縄がついており、この縄を、<振り竹>と呼ばれる長い棹にある突起に引っ掛けておきまして、いざ落とす段には、<振り竹>についている綱を舞台上から引きますと、棹が半回転して突起から幕の縄が外れて落ちてゆくという仕組み。操作は大道具方が担当いたします。
1枚の幕で覆うこともあれば、2枚になっているものも。落ちた幕の撤収の仕方で、景色の見え方も変わってまいりますね。

一番ポピュラーなのが写真の<浅葱幕>。なんにもない空間、意味をもたせたくない状態を浅葱色で表した先人のセンスには脱帽です。
『高時』では、土塀に木立を描いた<道具幕>。塀だけだったら<網代幕>となります。他に夜の闇を表す<黒幕>や海辺の場面で使われる<浪幕>も使われます。

…いつぞやの『演劇界』の播磨屋(又五郎)さんの聞き書きで、「昔は<振り落とし>といったら、幕を完全に舞台上に落としてから取り去ったのが、今は落ちきる前に(幕の裏側にいる)大道具方が受け止めて引っ込めるようになった」という旨のお話が載っていました。
確かに、今の<振り落とし>には、常に数人の大道具方さんが幕の裏側で待機していらっしゃり、落ちてくる幕を見事に受け止め、スムースな撤収をしてくださっております。そして、<完全に落とす>というやり方は拝見したことがございません。

どういう経緯で、いつからそうなったのか?
『高時』第2場の開幕前、侍女として待機している私も、ついつい幕の裏側で考えてしまうのです…。

(2月に上演の『蘭平物狂』の奥庭の場では、鳴り物にあわせて<網代幕>を上手から徐々に落としてゆくやり方を見せます。これは大変古風な演目や演出でみられるやり方で、仕組みも通常の<振り落とし>とは違っております。ぜひ来春の舞台でお確かめを!)