梅之芝居日記

歌舞伎俳優の修行をはじめてから15年がたちました。
日々の舞台の記録、お芝居ばなし等、お楽しみ下さい。

酒は飲んでも飲まれるな

2008年12月05日 | 芝居
朝から風の強い一日でしたね。楽屋口の前のイチョウの葉も、ハラハラと散りしきっていましたが、「金色の小さき鳥のかたちして…」の与謝野女史の歌を思い出しました(ところは朝の昭和通りでしたが)。

さて今回は夜の序幕の『石切梶原』から、剣菱呑助さんにご登場願おうと思います。



六郎太夫が持ってきた刀の切れ味を試すために、梶原が提案したのは<二つ胴>。文字通り、人間二人をいっぺんに断ち切ることができるかを調べる鑑定法、なんとも残酷ですが、もっと多くの人体を斬ったという記録もあるそうで…。
あわれ剣菱呑助は、その試し切りの“実験台”として命を落とすことになるわけですが、浅葱布子に身をくるみ、ゲジゲジ眉、月代もぼうぼうに伸びた髪形、なんとも情けない格好に違わず、性格もずいぶんお間抜けだったよう。
…ちなみに写真は<二つ胴>で斬られる時の吹き替えの人形ですよ、念のため(間違えるわけないか)…。

最期の時を迎えての身の上話は、いわゆる<酒尽くし>になっております。日本酒や焼酎の銘をいくつも織り込んで、お客様の笑いを誘う趣向です。呑助役をお勤めになる方によって、自由なアレンジがゆるされるこのくだりは、芝居がだんだんと深刻になってくる一歩手前でお客様の息抜きとなり、続く場面へ気を変える大事なアクセントです。
いろんな方の呑助を拝見してまいりましたが、日本酒にしろ焼酎にしろ、銘柄は大変な数ですし、ビールやウィスキーなど、洋酒の名前も入れて楽しませてくださる方もいらっしゃいますから、オリジナルの台詞作りは、いくらでもバリエーションが生まれる可能性がありますね。
この度は橘屋(家橘)さんがお勤めになっておりますが、お馴染みの銘が沢山出てきます。是非ご来場の上お確かめを! 私がいつも飲んでるあのお酒も出てきてます。

どなたか<カクテル尽くし>でなさらないかな。
「酒が敵ーラサンライズ」「罪人ゆえの義務レット」「死ぬるこの身モザんねん至極」「これで息の根止マルガリータ」…。
お粗末様でした。