梅之芝居日記

歌舞伎俳優の修行をはじめてから15年がたちました。
日々の舞台の記録、お芝居ばなし等、お楽しみ下さい。

道中の面々

2006年09月13日 | 芝居
『籠釣瓶花街酔醒』序幕での花魁道中。大勢の供を従えて、まず傾城九重、そして傾城八ッ橋が舞台を練り歩いてゆきます。
八ッ橋側でいえば、金棒引きの茶屋廻り二人を先頭に、禿(かむろ)二人、若い者三人(提灯、肩貸し、傘)番頭新造一人、振袖新造四人、詰袖新造四人。そして芸者二人に遣り手婆一人、太鼓持ち二人と、総勢二十一人という大所帯。ときには若い者がもう二人ほど加わることもありますから、次郎左衛門、治六ならずとも度肝を抜かれる豪華さです。

同じ新造でも、<振袖><詰袖><番頭>と分かれておりますのは、当時の廓の風習で、新入りの女郎(つまり若年)はまず<振袖>からはじまり、やや年期をつみ、それほど人気も出なかった者たちが<詰袖>となり、さらにそうした女たちの中から、物事の取り仕切り、世話仕事にたけた者が、一人の太夫について<番頭>となったのです。ある種の階級と申してもよいかもしれませんね。禿は幼年でこの世界に入った少女たちが、小間使いのように太夫のもとで働いていたもので、ゆくゆくは<振袖新造>から先の道をたどることになります。
芸者は吉原の中ではもっぱら歌舞音曲の演奏、実演専門(文字通り<芸>の者)のみで、色を売るのは御法度です。遣り手はお客との応対、庶務全般。太鼓持ちについては皆様ご存知でしょうが、座の取り持ちとおかしみの芸を見せる仕事です。

新造は、八ッ橋付きか、九重付きか、また<振袖>か<詰袖>かで、地色や柄の違う着付となります。それぞれのデザインを見比べるのも一興でしょう。また、遣り手婆以外の女性陣は、皆着付をお引きずりに着ますが、舞台では褄を持ち、端折ったかたちで歩きます。新造役はその際に、端折った着付の裾から、下に着ている<蹴出し(けだし。長襦袢を着ているよう見せる腰巻き状のもの)が三寸から四寸ほど見えるくらいに端折るのが綺麗な端折り方です。そして蹴出しの裾からは踵が見えないようにすること。足がニュッと見えては色気も何もありませんので、ちょっと長めに着ておくと、あとでちょうど良くなります。

ところで、この序幕<仲之町見染めの場>の道中からはじまり、続く<立花屋店先の場>、<兵庫屋八ッ橋部屋 縁切の場>の計三場に通して出演する<八ッ橋付き振袖新造>が、二人ございます。各場で衣裳もかえ、鬘の差し物も変わりますが、短い時間で拵え替えをしなくてはならなかったり、舞台上での禿の動きの介錯があったり、さらには長時間正座しっぱなしだったりと、なかなか仕事は大変のようですね。これからご見物の方々には、そんな彼らの姿も、ご覧頂けたらと存じます。