梅之芝居日記

歌舞伎俳優の修行をはじめてから15年がたちました。
日々の舞台の記録、お芝居ばなし等、お楽しみ下さい。

闇の夜に 吉原ばかり…

2006年09月09日 | 芝居
『籠釣瓶花街酔醒』の序幕「吉原仲之町見染めの場」の幕開きは、<チョンパ>といわれる演出が見られます。開幕を告げる柝が「チョン チョン」と入りますと、下座囃子がはじまり、ゆっくりと客席の照明が落ちます。真っ暗になったまま幕が開けられ、やがてひときわ大きく「チョンッ」と柝が入った瞬間、一気に舞台と客席の照明が入り、中央に桜の植え込み、左右は全盛の茶屋が立ち並ぶ、仲之町のメインストリートがお客様の目に飛び込んでくるのです。

柝の「チョン」をきっかけに「パッ」と明かりが入ることから<チョンパ(チョンパアとも)>と呼んでおりますが、西洋から照明技術が伝わってから生まれた演出です。
私ども序幕の出演者は、開幕の十五分くらい前から舞台裏に控えておりますが、柝が入って、だんだんと舞台裏が暗くなりますと、さあ始まるぞ、という気持ちが高まってまいります。そして照明が入った瞬間の、お客様のどよめき、歓声が、ますますこの芝居の雰囲気を盛り上げてくださっております。

舞台左右の書割に描かれた茶屋の軒先には、いくつもの提灯も書き込まれておりますが、実はこの提灯、ちゃんと火が入っている、と申しましたら驚かれるでしょうか。といっても消防法厳しい現在、実際の炎は使えません。書割の裏側に、ちゃんと提灯の位置にあわせて沢山の電球が取り付けられており、表からはほんのりと火が灯っているように見せているのです。描かれた提灯は大変な数ですが、それとほぼ同じだけの電球がズラリと並んださまは、ちょっと壮観ですよ。

ちなみに茶屋の入り口には、それぞれの店名が書かれております。「曾我屋」「山口巴」「蔦屋」などなど…。これは当時仲之町に実際にあったお店の名前です。