赤眉餘衆、東向宜陽。上勒軍待之。樊崇以劉盆子・丞相徐宣等、肉袒降。上陳軍馬、令盆子君臣觀之。謂曰、得無悔降乎。宣叩頭曰、去虎口歸慈母。誠歡誠喜無限。上曰、卿所謂鐵中錚錚、庸中佼佼者也。各賜田宅。
雎陽人斬劉永降。劉永在更始時、立爲梁王。更始亡、永稱帝。至是敗。
漁陽太守彭寵奴、斬寵以降。初上討王郎、寵發突騎、轉糧不絶。自負其功、意望甚高、不能滿。幽州牧朱浮、與書曰、遼東有豕。生子。白頭。將獻之。道遇羣意豕。皆白。以子之功、論於朝廷、遼東豕也。
上徴寵。寵自疑遂反。至是敗。
赤眉の余衆、東の方宜陽(ぎよう)に向かう。上、軍を勒(ろく)して之を待つ。樊崇は劉盆子や丞相の徐宣等を以(ひき)いて、肉袒して降る。上、軍馬を陳(ちん)し、盆子の君臣をして之を観しむ。謂って曰く、「降を悔ゆること無きを得んや」と。宣、叩頭して曰く、「虎口を去って慈母に帰す。誠歓誠喜限り無し」と。上、曰く、「卿は所謂(いわゆる)鉄中の錚錚(そうそう)、庸中(ようちゅう)の佼佼(こうこう)たる者なり」と。各々田宅を賜う。
雎陽(すいよう)の人劉永を斬って降る。劉永は更始の時に在って、立って梁王となる。更始亡ぶや、永、帝と称す。是(ここ)に至って敗る。
漁陽の太守彭寵(ほうちょう)の奴(ど)、寵を斬って以って降る。初め上、王郎を討つや寵、突騎を発し、糧を転じて絶えざらしむ。自らその功を負(たの)み、意望(いぼう)甚だ高く、満つること能わず。幽州の牧朱浮、書を与えて曰く、「遼東に豕(いのこ)有り、子を生む。白頭なり。将(まさ)に之を献ぜんとす。道に群豕(ぐんし)に遇う。皆白し。子の功を以って、朝廷に論ぜば、遼東の豕也」と。上、寵を徴(め)す。寵、自ら疑いて遂に反す。是に至って敗る。
赤眉の残党が東に帰ろうと宜陽まで来た。光武帝は陣容を整えて、待ち構えていた。樊崇は劉盆子や丞相の徐宣(じょせん)等を引き連れ、片肌を脱いで降伏してきた。光武帝は軍馬を整列させて、劉盆子の君臣に見せつけて、こう言った。「降伏したことを後悔することは無いかな」徐宣が頭を地につけて「虎口から脱して慈母のふところに帰った心地にて、誠にこの上なき喜びでございます」と。光武帝は、「そなたは、いわば鉄の中でもまあ良い響きのする部類、凡人の中でも少しはましな方である」と言って、各々田宅を与えた。
雎陽の人が劉永を斬って降伏した。劉永は更始が帝であった頃、自ら立って梁王となり、更始が亡ぶと、皇帝と称していたが、ここに至って滅びたのである。
漁陽の太守彭寵の召使いが主人の彭寵を斬って降った。嘗て光武帝が王郎戦ったとき、彭寵が精鋭の騎兵を出し、食糧を運んで絶やさないようにした。その功績を自ら多とし、恩賞の望みが高すぎて、常に不満をくすぶらせていた。幽州の長官の朱浮という者が書を送り諌めて言った。「遼東に豕がいて、子を生んだら頭が白いので、これは珍しいと喜び早速献上して恩賞に預かろうと出かけたところ、途中で豚の群れに出会ったらどれもまっ白だったという。君の功績も、朝廷で論じたならば遼東の豕と同じだよ」と。その後、帝が彭寵を召し出したところ、寵は誅されるかと疑って、遂に謀反を起こしたが、ここで敗れたのであった。
肉袒 謝罪の意をあらわすため肌脱ぎして鞭うたれる覚悟を示した。
錚錚 よく鍛えた金属の響き。衆にすぐれたもの。 庸中の佼佼 庸は凡庸、佼佼は人格や才能のすぐれたさま。 突騎 敵軍に突き入る騎兵。
遼東の豕 世間ではありふれたことを知らずに自分一人で得意になること。ひとりよがり。