九卿百司郡縣之吏、守一職者、任一職之責。宰相諫官繋天下之事、亦任天下之責。然宰相九卿而下、失職者受責於有司。諫官之失職也、取譏於君子。有司之方行乎一時、君子之譏著之簡册而昭明、垂之百世而不泯。甚可懼也。夫七品之官、任天下之責懼百世之譏、豈不重邪。非材且賢者不能爲也。
近執事始被召於陳州、洛之士大夫相與語曰、我識范君知其材也。其來不爲御史必爲諫官。及命下果然。則又相與語曰、我識范君知其賢也。他日聞有立天子陛下直辭正色面爭廷論者、非他人必范君也。拜命以來、翹首企足、竚乎有聞而卒未也。竊惑之。豈洛之士大夫能料於前、而不能料於後也、將執事有待而爲也。
范司諫学士に上書 (四ノ二)
九卿・百司・郡県の吏、一職を守る者は、一職の責めに任ず。宰相・諫官は天下の事に繋(かか)わり、亦た天下の責めに任ず。然れども宰相九卿よりして下(しも)、職を失するものは、責めを有司に受く。諫官の職を失するや、譏(そし)りを君子に取る。有司の法は一時に行われ、君子の譏りはこれを簡冊に著して昭明にし、これを百世に垂れて泯(ほろ)びず。甚だ懼(おそ)るべきなり。夫れ七品の官にして、天下の責めに任じ百世の譏りを懼る、豈重からずや。材にして且つ賢なる者に非ずんば、為す能わざるなり。
近頃執事の始めて陳州より召さるるや、洛の士大夫相与(とも)に語りて曰く「我は范君を識り、その材なるを知るなり。その来るや御史たらずんば、必ず諫官たらん」と。命の下るに及びて、果たして然(しか)り。則ちまた相与に語りて曰く「我は范君を識り、その賢なるを知るなり。他日天子の陛下に立ち、辞(ことば)を直くし色を正しくして、面争廷論する者有りと聞かば、他人には非ずして、必ず范君ならん」と。
命を拝せられて以来、首を翹(あ)げ足を企(つまだ)てて、聞く有らんことを竚(ま)つも、卒(つい)に未だしなり。窃(ひそか)にこれに惑う。豈洛の士大夫の能く前(さき)に料(はか)りて、而も後に料る能わざるか、将(は)た執事の待つ有りて為すか。
有司 官吏。 簡冊 書き物。 御史 官吏を監察する。 陛下 宮殿の階段。 面争廷論 天子の面前で過ちを諌め、朝廷で論争する。 企 つま先立ちして待つ。
中央の大臣・百官から、地方の官吏など、一つの職務に責任を持たされる者は、その一つの職務に責任をとります。宰相と諫官は国家の政治に関わる職務ですからその全般について責任を取らねばなりません。一方宰相大臣以下、職務をしくじる者は、責めを官吏より受ける。諫官がしくじった場合は、その譏りを君子から受けるのです。官吏による責めはその時限りのものですが、君子の譏りはこれを書き物にして明らかにして百代後まで伝えて消えません。誠に懼れるばかりであります。
七品の官でありながら天下の政治に責任を負い、百世の非難までもおそれる、何という重責でしょうか。才能があり賢明でなければつとまらないことであります。
先ごろあなたが陳州から召し出されたときには洛陽の士大夫たちがこのように話し合っておりました「私は范君をよく知っているが、まれに見る逸材だ。この度の来朝は御史か諫官になるためだろう」と。辞令が下ると果たしてその通りでありました。またこうも申しました「私は范君を知っているが、賢明な人物だ。いつか宮殿の階下に立って率直な言葉と端正な顔つきで天子と朝廷で論争する者があると聞けばそれは范君に違いない」と。
諫官を拝命以来、私は首を長くし、爪先立ちしてあなたのご活躍を待ち望んでおりますがまだ聞こえて参りません。これはどういうことでしょう、洛陽の士大夫の前の予見が当たっており後の予想が当たらなかったのでしょうか、あるいはあなた様の期して待つ所が有るのでしょうか。
近執事始被召於陳州、洛之士大夫相與語曰、我識范君知其材也。其來不爲御史必爲諫官。及命下果然。則又相與語曰、我識范君知其賢也。他日聞有立天子陛下直辭正色面爭廷論者、非他人必范君也。拜命以來、翹首企足、竚乎有聞而卒未也。竊惑之。豈洛之士大夫能料於前、而不能料於後也、將執事有待而爲也。
范司諫学士に上書 (四ノ二)
九卿・百司・郡県の吏、一職を守る者は、一職の責めに任ず。宰相・諫官は天下の事に繋(かか)わり、亦た天下の責めに任ず。然れども宰相九卿よりして下(しも)、職を失するものは、責めを有司に受く。諫官の職を失するや、譏(そし)りを君子に取る。有司の法は一時に行われ、君子の譏りはこれを簡冊に著して昭明にし、これを百世に垂れて泯(ほろ)びず。甚だ懼(おそ)るべきなり。夫れ七品の官にして、天下の責めに任じ百世の譏りを懼る、豈重からずや。材にして且つ賢なる者に非ずんば、為す能わざるなり。
近頃執事の始めて陳州より召さるるや、洛の士大夫相与(とも)に語りて曰く「我は范君を識り、その材なるを知るなり。その来るや御史たらずんば、必ず諫官たらん」と。命の下るに及びて、果たして然(しか)り。則ちまた相与に語りて曰く「我は范君を識り、その賢なるを知るなり。他日天子の陛下に立ち、辞(ことば)を直くし色を正しくして、面争廷論する者有りと聞かば、他人には非ずして、必ず范君ならん」と。
命を拝せられて以来、首を翹(あ)げ足を企(つまだ)てて、聞く有らんことを竚(ま)つも、卒(つい)に未だしなり。窃(ひそか)にこれに惑う。豈洛の士大夫の能く前(さき)に料(はか)りて、而も後に料る能わざるか、将(は)た執事の待つ有りて為すか。
有司 官吏。 簡冊 書き物。 御史 官吏を監察する。 陛下 宮殿の階段。 面争廷論 天子の面前で過ちを諌め、朝廷で論争する。 企 つま先立ちして待つ。
中央の大臣・百官から、地方の官吏など、一つの職務に責任を持たされる者は、その一つの職務に責任をとります。宰相と諫官は国家の政治に関わる職務ですからその全般について責任を取らねばなりません。一方宰相大臣以下、職務をしくじる者は、責めを官吏より受ける。諫官がしくじった場合は、その譏りを君子から受けるのです。官吏による責めはその時限りのものですが、君子の譏りはこれを書き物にして明らかにして百代後まで伝えて消えません。誠に懼れるばかりであります。
七品の官でありながら天下の政治に責任を負い、百世の非難までもおそれる、何という重責でしょうか。才能があり賢明でなければつとまらないことであります。
先ごろあなたが陳州から召し出されたときには洛陽の士大夫たちがこのように話し合っておりました「私は范君をよく知っているが、まれに見る逸材だ。この度の来朝は御史か諫官になるためだろう」と。辞令が下ると果たしてその通りでありました。またこうも申しました「私は范君を知っているが、賢明な人物だ。いつか宮殿の階下に立って率直な言葉と端正な顔つきで天子と朝廷で論争する者があると聞けばそれは范君に違いない」と。
諫官を拝命以来、私は首を長くし、爪先立ちしてあなたのご活躍を待ち望んでおりますがまだ聞こえて参りません。これはどういうことでしょう、洛陽の士大夫の前の予見が当たっており後の予想が当たらなかったのでしょうか、あるいはあなた様の期して待つ所が有るのでしょうか。
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