洛陽祖逖、少有大志。嘗與劉琨同寝。中夜聞鷄聲、蹴琨起曰、此非惡聲也。因起舞。及是南渡、請兵於睿。睿素無北伐之志。以逖爲豫州刺史、與兵千人、不給鎧杖。逖渡江、中流撃楫而誓曰、祖逖不能清中原、而復濟者、有如此江。
愍帝又以睿爲丞相、都督中外諸軍事。長安陥。睿出師露次、移檄北征。實不行。羣臣勸即晉王位。明年遂即皇帝位。
洛陽の祖逖(そてき)、少(しょう)より大志有り。嘗て劉琨(りゅうこん)と同じく寝(い)ぬ。中夜鶏声を聞き、琨を蹴って起(た)って曰く、「此れ悪声に非ざるなり」と。因って起って舞う。是(ここ)に及んで南に渡り、兵を睿(えい)に請う。睿、素(もと)より北伐の志無し。逖を以って予州の刺史と為し、兵千人を与えて、鎧杖(がいじょう)を給せず。逖、江を渡り、中流にして楫(かじ)を撃って誓って曰く、「祖逖、中原を清むること能(あた)わずして、復済(わた)らば、此の江の如きもの有らん」と。愍帝、又睿を以って丞相と為し、中外の諸軍事を都督せしむ。
長安陥ちる。睿、師を出だして露次し、檄を移して北征せんとす。実は行かず。群臣、勧めて晋王の位に即かしむ。明年遂に皇帝の位に即く。
鎧杖 防具と武具。 此の江の如きもの この流れのように元に戻らない、生きて帰らぬこと。
洛陽の祖逖は若い頃より大志を抱いていた。ある時劉琨と同じ部屋に寝ていたが、夜中に鶏の声を聞いて、劉琨を蹴飛ばして言った「夜中に鶏が鳴くのは乱世の兆しというが俺には吉兆の美声に聞こえるぞ」と言って踊りだした。この時になって、南に向かい、揚子江を渡り、司馬睿に奪回の兵を請うた。睿は北伐の意志はなかったので、祖逖を予州の刺史に任命して兵千人を与えたが、甲冑や武器を支給しなかった。祖逖は江を渡るとき、中流にさしかかった時、楫を叩いて誓った「この祖逖がもし中原を平定することができずに再びここを渡るようなことになったら、この揚子江の流れが二度と帰らないように、生きてはいないだろう」と。
愍帝は又睿を丞相とし、中外のすべての軍事を統率させた。やがて長安が陥落すると、睿は兵を出して、露営させ、檄をとばして北伐の構えを見せたが、実際には動かなかった。さらに臣下達に勧められると晋王の位に即き、翌年愍帝が殺されるの報がはいると、遂に皇帝の位に即いた。