張蘊古獻大寶箴。有曰、以一人治天下、不以天下奉一人。又曰、壯九重於内、所居不過容膝。彼昏不知、瑤其臺而璚其室。羅八珍於前、所食不過適口。惟狂罔念、丘其糟而池其酒。又曰、勿没没而闇。勿察察而明。雖冕旒蔽目、而視於無形。雖黈塞耳、而聽於無聲。上嘉其言。
張蘊古(ちょううんこ)大宝の箴(しん)を献ず。曰(い)える有り、「一人を以って天下を治む、天下を以って一人に奉ぜず」と。又曰く、「九重を内に壮(さかん)にすとも、居る所は膝を入るるに過ぎず。彼(か)の昏(くら)くして知らざるものは、その台を瑤(よう)にして室を璚(けい)にす。八珍(はっちん)を前に羅(つら)ぬとも、食する所は口に適(かな)うに過ぎず。惟だ狂にして念(おも)うこと罔(な)きものは、その糟(かす)を丘にしてその酒を池にす」と。
又曰く、「没没として闇(くら)きこと勿れ。察察として明らかなること勿れ。冕旒(べんりゅう)目を蔽うと雖も、而(しか)も無形に視よ。黈(とうこう)耳を塞ぐと雖も、而も無声に聴け」と。上(しょう)其の言を嘉(よみ)す。
大宝の箴 大宝は天子の位、箴はいましめ箴言。 九重 宮中。 昏 暗君、桀と紂のような君主。 瑤も璚も美しい玉石。 八珍 数々の珍味。 没没 沈み込むこと。 察察 万事に通暁すること。 冕旒 天子の冠の前後に垂れた飾り。 黈 黄綿でつくった耳覆い。
張蘊古という者が「大宝の箴」という天子の戒めを説く文を献じた。それには、「天子は一身をもって天下を治めるもので、その天下が天子一人を支えるものであってはならない。また、幾重にも甍を連ねて宮殿を壮麗にしても居るところはわずか膝を入れるに足る程度。しかしあの桀紂のような君主は高殿を瑤でちりばめ、宮室を璚で飾る。数々の美味珍味を並べても、口に入るのは限られる。ただわが身を忘れた桀や紂は酒かすで堤を築き、酒で池を満たす」。さらにこうもあった「天子たるもの沈みこんで暗くてはいけない、細かいところまで気付きすぎて口うるさくなってもいけない。冠の前飾りで目を覆っても心眼で視よ、飾りで耳を塞がれても、声無き声を聴け」と。太宗はこの箴を喜んで受け取った。
張蘊古(ちょううんこ)大宝の箴(しん)を献ず。曰(い)える有り、「一人を以って天下を治む、天下を以って一人に奉ぜず」と。又曰く、「九重を内に壮(さかん)にすとも、居る所は膝を入るるに過ぎず。彼(か)の昏(くら)くして知らざるものは、その台を瑤(よう)にして室を璚(けい)にす。八珍(はっちん)を前に羅(つら)ぬとも、食する所は口に適(かな)うに過ぎず。惟だ狂にして念(おも)うこと罔(な)きものは、その糟(かす)を丘にしてその酒を池にす」と。
又曰く、「没没として闇(くら)きこと勿れ。察察として明らかなること勿れ。冕旒(べんりゅう)目を蔽うと雖も、而(しか)も無形に視よ。黈(とうこう)耳を塞ぐと雖も、而も無声に聴け」と。上(しょう)其の言を嘉(よみ)す。
大宝の箴 大宝は天子の位、箴はいましめ箴言。 九重 宮中。 昏 暗君、桀と紂のような君主。 瑤も璚も美しい玉石。 八珍 数々の珍味。 没没 沈み込むこと。 察察 万事に通暁すること。 冕旒 天子の冠の前後に垂れた飾り。 黈 黄綿でつくった耳覆い。
張蘊古という者が「大宝の箴」という天子の戒めを説く文を献じた。それには、「天子は一身をもって天下を治めるもので、その天下が天子一人を支えるものであってはならない。また、幾重にも甍を連ねて宮殿を壮麗にしても居るところはわずか膝を入れるに足る程度。しかしあの桀紂のような君主は高殿を瑤でちりばめ、宮室を璚で飾る。数々の美味珍味を並べても、口に入るのは限られる。ただわが身を忘れた桀や紂は酒かすで堤を築き、酒で池を満たす」。さらにこうもあった「天子たるもの沈みこんで暗くてはいけない、細かいところまで気付きすぎて口うるさくなってもいけない。冠の前飾りで目を覆っても心眼で視よ、飾りで耳を塞がれても、声無き声を聴け」と。太宗はこの箴を喜んで受け取った。