溪雖莫利於世、而善鑒萬類、瑩秀、鏘鳴金石、能吏愚者喜笑眷慕、樂而不能去也。余雖不合於俗、亦頗以文墨自慰。漱滌萬物、牢籠百態、而無所避之。以愚辭歌愚溪、則茫然而不違、昏然而同歸。超鴻蒙、混希夷、寂寥而莫我知也。於是作八愚詩、紀于溪石上。
渓世に利する莫しと雖も、而れども善く万類を鑒(てら)し、清瑩秀(せいえいしゅうてつ)、鏘(そう)として金石を鳴らし、能く愚者をして喜笑眷慕(きしょうけんぼ)し、楽しんで去ること能わざらしむるなり。余俗に合わずと雖も、亦た頗る文墨を以って自ら慰む。万物を漱滌(そうでき)し、百態を牢籠(ろうろう)して、これを避くる所無し。愚辞を以って愚渓を歌えば、則ち茫然として違わず、昏然として帰を同じゅうす。鴻蒙(こうもう)に超(のぼ)り、希夷(きい)に混じ、寂寥として我を知ること無し。是に於いて八愚の詩を作り、渓石の上に紀(しる)す。
鑒 鑑の別体、かんがみる。 清瑩秀 清く明らかに 鏘 金属の鳴る音。 眷慕 眷は目をかける。 漱滌 すすぎ洗う。 牢籠 一まとめにする。 鴻蒙に超る 根源的な真理に至る。 希夷 老子十四にこれを視れども見えずもれを夷といい、これを聴けども聞こえずこれを希というとある、形も音もない世界。 寂寥 同じく老子二十五章に物ありて混成し、天地に先立ちて生ず。寂たり寥たりとある、絶対の虚無、亡我の境地。
この谷は世の役に立たないけれど、よく万物を映し出し、清く透きとおり楽器を鳴らすような美しい音を立てて流れ、愚かな私を喜ばせ慕わせて、楽しんで立ち去ることが惜しくなるのです。私は世俗には合わないけれども、詩文をつくって自分自身を慰めているのです。詩文をもって全てのものを洗い清め、あらゆる物の本態を筆に留めてこれを見逃さない。愚かな私の文辞をもって愚渓をうたえば、ぼうとしてとりとめ無く合致し、道理に暗いところは愚渓と行き着くところは同じです。根源の気に至り、形も音もない世界に入って絶対の虚無に我を忘れてしまうのであります。
そこで八愚の詩を作り、愚渓の石に刻んだ。
渓世に利する莫しと雖も、而れども善く万類を鑒(てら)し、清瑩秀(せいえいしゅうてつ)、鏘(そう)として金石を鳴らし、能く愚者をして喜笑眷慕(きしょうけんぼ)し、楽しんで去ること能わざらしむるなり。余俗に合わずと雖も、亦た頗る文墨を以って自ら慰む。万物を漱滌(そうでき)し、百態を牢籠(ろうろう)して、これを避くる所無し。愚辞を以って愚渓を歌えば、則ち茫然として違わず、昏然として帰を同じゅうす。鴻蒙(こうもう)に超(のぼ)り、希夷(きい)に混じ、寂寥として我を知ること無し。是に於いて八愚の詩を作り、渓石の上に紀(しる)す。
鑒 鑑の別体、かんがみる。 清瑩秀 清く明らかに 鏘 金属の鳴る音。 眷慕 眷は目をかける。 漱滌 すすぎ洗う。 牢籠 一まとめにする。 鴻蒙に超る 根源的な真理に至る。 希夷 老子十四にこれを視れども見えずもれを夷といい、これを聴けども聞こえずこれを希というとある、形も音もない世界。 寂寥 同じく老子二十五章に物ありて混成し、天地に先立ちて生ず。寂たり寥たりとある、絶対の虚無、亡我の境地。
この谷は世の役に立たないけれど、よく万物を映し出し、清く透きとおり楽器を鳴らすような美しい音を立てて流れ、愚かな私を喜ばせ慕わせて、楽しんで立ち去ることが惜しくなるのです。私は世俗には合わないけれども、詩文をつくって自分自身を慰めているのです。詩文をもって全てのものを洗い清め、あらゆる物の本態を筆に留めてこれを見逃さない。愚かな私の文辞をもって愚渓をうたえば、ぼうとしてとりとめ無く合致し、道理に暗いところは愚渓と行き着くところは同じです。根源の気に至り、形も音もない世界に入って絶対の虚無に我を忘れてしまうのであります。
そこで八愚の詩を作り、愚渓の石に刻んだ。