邯鄲卜者王郎、詐稱成帝子子輿、入邯鄲稱帝。徇下幽冀、州郡響應。秀北徇薊。上谷大守耿況子弇、馳至盧奴上謁。秀曰、是我北道主人也。薊城反應王郎。秀趣出城、晨夜南馳、至蕪蔞亭。馮異上豆粥。至饒陽乏食。至下曲陽。聞王郎兵在後。至滹沱河。候吏還白、河水流澌、無船不可濟。秀使王覇視之。覇恐驚衆、還即詭曰、冰堅可渡。遂前至河。冰亦合。乃渡。未畢數騎而冰解。
邯鄲の卜者王郎、詐って成帝の子子輿と称し、邯鄲に入り帝と称す。幽冀(ゆうき)を徇下(じゅんか)し、州郡饗応す。秀北のかた薊(けい)を徇(とな)う。上谷の太守耿況(こうきょう)の子弇(かん)、馳せて盧奴(ろど)に至って上謁す。秀曰く、是れ我が北道の主人なり、と。薊城反して王郎に応ず。秀、趣(すみや)かに城を出で、晨夜(しんや)南に馳せ、蕪蔞亭(ぶろうてい)に至る。馮異(ふうい)、豆粥(とうじゅく)を上(たてまつ)る。饒陽(じょうよう)に至り食に乏し。下曲陽に至る。王郎の兵後に在りと聞く。滹沱河(こだか)に至る。候吏(こうり)還って白(もう)す、河水流澌(りゅうし)す。船無くば済(わた)る可からず、と。秀、王覇をして之を視しむ。覇、衆を驚かさんことを恐れ、還って即ち詭(いつわ)って曰く、冰(こおり)堅くして渡る可し、と。遂に前(すす)んで河に至る。冰も亦合う。乃(すなわ)ち渡る。未だ数騎を畢(おわ)らずして冰解く。
占い師の王郎という者が先の成帝の子の子輿と偽って、邯鄲に入って皇帝と称し幽州・冀州を説き降し、近隣の州や郡が呼応した。劉秀は北方の薊城(けいじょう)を説いてまわっていたが上谷郡の太守耿況の子耿弇が、馬を駆って盧奴県(ろどけん)にかけつけて目通りした。劉秀は「そなたこそ北方の良き案内者だ」と喜んだ。ところが一旦降った薊が寝返って王郎についたので、劉秀は支度もそこそこに薊城を抜け出した。昼夜を分かたず南に逃げ蕪蔞亭に至ってはじめて馮異が豆粥をさしあげた饒陽県に来たころには食糧が底をついた。下曲陽に来ると、王郎の軍がすぐ後ろに迫っていると伝わってきた。さらに滹沱河にさしかかると、斥候が引き返して、「氷が解けだしてきて船がなければ渡れません」と報告した。劉秀はさらに王覇を遣って確かめさせた。覇は全軍の兵が不安に陥ることを恐れて、引き返すと「氷は堅く張っていて渡ることができます」と偽って報告した。そこで進軍して川べりまで来てみると、運よく氷が張りつめていた。ほとんど渡り終わる頃、ついに氷が割れた。
候吏 もの見、斥候の兵。 流澌 氷が解けること。 白 もうす、独白、告白の白。 合 かたまる
邯鄲の卜者王郎、詐って成帝の子子輿と称し、邯鄲に入り帝と称す。幽冀(ゆうき)を徇下(じゅんか)し、州郡饗応す。秀北のかた薊(けい)を徇(とな)う。上谷の太守耿況(こうきょう)の子弇(かん)、馳せて盧奴(ろど)に至って上謁す。秀曰く、是れ我が北道の主人なり、と。薊城反して王郎に応ず。秀、趣(すみや)かに城を出で、晨夜(しんや)南に馳せ、蕪蔞亭(ぶろうてい)に至る。馮異(ふうい)、豆粥(とうじゅく)を上(たてまつ)る。饒陽(じょうよう)に至り食に乏し。下曲陽に至る。王郎の兵後に在りと聞く。滹沱河(こだか)に至る。候吏(こうり)還って白(もう)す、河水流澌(りゅうし)す。船無くば済(わた)る可からず、と。秀、王覇をして之を視しむ。覇、衆を驚かさんことを恐れ、還って即ち詭(いつわ)って曰く、冰(こおり)堅くして渡る可し、と。遂に前(すす)んで河に至る。冰も亦合う。乃(すなわ)ち渡る。未だ数騎を畢(おわ)らずして冰解く。
占い師の王郎という者が先の成帝の子の子輿と偽って、邯鄲に入って皇帝と称し幽州・冀州を説き降し、近隣の州や郡が呼応した。劉秀は北方の薊城(けいじょう)を説いてまわっていたが上谷郡の太守耿況の子耿弇が、馬を駆って盧奴県(ろどけん)にかけつけて目通りした。劉秀は「そなたこそ北方の良き案内者だ」と喜んだ。ところが一旦降った薊が寝返って王郎についたので、劉秀は支度もそこそこに薊城を抜け出した。昼夜を分かたず南に逃げ蕪蔞亭に至ってはじめて馮異が豆粥をさしあげた饒陽県に来たころには食糧が底をついた。下曲陽に来ると、王郎の軍がすぐ後ろに迫っていると伝わってきた。さらに滹沱河にさしかかると、斥候が引き返して、「氷が解けだしてきて船がなければ渡れません」と報告した。劉秀はさらに王覇を遣って確かめさせた。覇は全軍の兵が不安に陥ることを恐れて、引き返すと「氷は堅く張っていて渡ることができます」と偽って報告した。そこで進軍して川べりまで来てみると、運よく氷が張りつめていた。ほとんど渡り終わる頃、ついに氷が割れた。
候吏 もの見、斥候の兵。 流澌 氷が解けること。 白 もうす、独白、告白の白。 合 かたまる