【仲村和代】日本にファミリーレストランが誕生して、40年あまり。憧れの洋食を味わえる家族のだんらんの場は少しずつ姿を変えてきた。いま、その名とは裏腹に「おひとりさま」の居場所になっている。

 時計は、午前0時を差そうとしている。東京・吉祥寺の駅前にあるファミリーレストラン「ガスト吉祥寺元町通り店」。オレンジ色に彩られた店の奥の4人掛けのテーブルで、黒いコートを羽織ったままの男性がスポーツ新聞を広げ、たばこをくゆらせていた。 近くの飲食店に勤める伊藤緑さん(50)。立ちっぱなしで一日働いた後、毎晩立ち寄る。家に妻はいるが、この時間に夕飯を用意してもらうのは悪い。ここなら遅くまで開いているし、気を使わずに済む。 「居酒屋で新聞読んでると、周りがしらけちゃうでしょ。ここなら店員と適度な距離感がある。似たような人、よくいますよ」 店内には、他にも男性の1人客がちらほら。本を読んだり、パソコンを広げたり。

顔見知りだが、言葉を交わしたことはない。 面倒だから、コートは脱がない。シーザーサラダとピザをつまみながら、ビールを1杯だけ飲み、1時間ほどで席を立った。会計は千円ちょっと。翌日も午前7時から仕事だ。 ガストを経営するすかいらーくが、日本初のファミレス「すかいらーく」1号店を東京都府中市で始めたのは1970年のことだ。マイカー向けに広い駐車場を備え、窓越しに食事の様子が見える開放的な店構え。家族4人でも3千円以内で済む価格設定。子連れの若い夫婦の間で爆発的な人気を呼んだ。 しかしバブル崩壊後は売り上げが落ち、90年代には低価格路線のガストへと転換を進めた。680円だったハンバーグランチは380円に。店員を呼び出すベルやセルフサービスのドリンクバーを導入した。

 この店の店長、石黒和美さん(48)は高校生だった80年代、神奈川県内のすかいらーくでアルバイトをしていた。盆や正月には三世代が集い、にぎやかだったことを思い出す。子育てが一段落し、再びパートで働き始めたのは96年。8年後、正社員になった。

 30年で、店も客も変わったと感じる。ファミレスは家族が憩う場所から、人の目を気にせず長居できる場所になったのかもしれない。「1人のお客さんが本当に増えました」。昔はなかったカウンター席を備えた店が今は当たり前だ。

 午前9時前、アパレル店員の女性(57)がモーニングを頼んだ。出勤前、ちょっとゆっくりしたい時にやってくる。「子どもが小さい時は一緒に来たけど、もうみんな独立したので。コーヒーを何杯も飲めるし、朝の唯一の楽しみ」

 午前10時過ぎに、配送の仕事の空き時間に訪れた男性(63)は「長くいられるし、安いしさ。小遣い、少ないからねえ」と話し、ドリンクバーでコーヒー2杯と野菜ジュースを飲んだ。ほぼ毎日利用している。

 この店の営業は午前7時から午前2時までの19時間。ランチタイムはどんなに混んでいても、9分以内に料理を出すのが目標だ。機械化が進んでも、最後の盛りつけは人の手を大切にしているという。「料理は愛情」。キッチンではそんな言葉が飛び交う。マニュアルで、接客は必要以上に立ち入らないことになっているが、お年寄りの身の上話を聞くこともある。

 午後7時、夕飯を食べに来た女性(61)はスポーツジムの帰りだった。「離婚して、今は1人。食事を作るのが面倒な時に寄ります。ぜいたくはできないしね」。仕事帰りにスーツ姿で立ち寄る女性も目立つ。

 店長の石黒さんの人生も大きく変わった。正社員になったころ、離婚。アルバイト学生には「女性も自立が必要よ」と説く。「お客さんを見ていても思います。女性が強くなったなあって」

 ランチタイムの混雑が落ち着いた午後2時過ぎ、テーブルにビールが運ばれた。主婦の小林卯月さん(44)が「山盛りポテト」をつまみにグラスを傾ける。一緒に来た津山浩子さん(39)はココア、6歳の息子はアイスと、思い思いのメニューを楽しむ。

 子連れ飲み会は、もはや常識だ。小林さんは、中2になる娘の幼稚園や小学校を卒業する際のお別れ会も、ファミレスだったという。「子どもが少々騒いでも、昼から飲んでも気にする人いないし、便利。ストレス発散も必要だから」

 おもちゃの車で遊ぶ子どもの脇で、好きなアーティストの話で盛り上がりながら、3杯目のグラスが空いた。この日、一番にぎやかなテーブルだった。

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 〈ファミリーレストラン市場の変遷〉 2012年の売上高(見込み)は、1兆3694億円(富士経済調べ)。07年以来、5年連続で減少していたが、わずかに増加に転じた。イタリアンやステーキ・ハンバーグなどの専門料理を出す店が業績を伸ばしているが、05年と比べると9割以下に落ち込んでいる。』

日本にファミリーレストランが誕生して、40年あまり。憧れの洋食を味わえる家族のだんらんの場は少しずつ姿を変えて来て、「おひとりさま」の居場所になっているのは、ファミリーレストランは、日本の核家族化や少子高齢化出子供の数も少なくなり、女性が強くなり経済力付離婚した独身女性、独身男性の増加、結婚しない男性、女性も多くなった結果で、日本の時代の移り変わりと世相の反映、人間模様の様々な投影と思います。専門店でお一人様鍋が流行るのもうなづける今の世相の現実でしょうか。ファミレス、おひとりさま天国と言うより一人で食事を取り、一人で気持ち休める所になってしまったのでしょうか。今の日本の社会の人間疎外と家族や人と人のつながりの希薄さによる心の寂しさ、孤独感を痛感します。国道沿いに有り、広い駐車場のファミリーレストランも全国的に姿を消した所も多いのでしょうね。交通機関の便利な駅前で無いと残っていけない時代でしょうか。