以前、「芥川賞がつまらない」という記事を書いた。
なぜつまらないかは記事を読んでいただきたい。
http://blog.goo.ne.jp/suttie2807/e/15c9fc8fcffa2474aabb9929aa01372a
今回、直木賞受賞作を読んだが
大変に面白かった。
恩田睦氏の「蜜蜂と遠雷」である。
私が購入した時は帯にデカデカと直木賞候補作とあったが
その後、みごとに「直木賞受賞作」となったのはご存じの通りである。
3年に一回行われる
世界的なピアノコンクールを舞台に
人間の運命と才能、そして音楽のすばらしさを描き切った
青春群像小説の傑作である。
養蜂家の父とともに各地を転々とし自宅にピアノを持たない少年・風間塵15歳。
かつて天才少女として国内外のジュニアコンクールを制覇しながらも
母の突然の死去以来、長らくピアノが弾けなかった栄伝亜夜20歳。
音大出身だが今は楽器店勤務のサラリーマンをしながら
コンクール年齢制限ギリギリの高島明石28歳。
完璧な演奏技術と音楽性で優勝候補の筆頭と目される
名門ジュリアード音楽院のマサル・C・レヴィ=アナトール19歳。
この4人の若きピアニストを中心に
物語はコンクールの結果とともに息づまるような展開を見せる。
当たり前のことだが・・・
音楽とは「耳で聴く」ものである。
それを文章で表現するのは至難の業である。
音楽の素養がある人なら
オタマジャクシの羅列を見ただけで
たちまちその曲のイメージが拡がったりするかも知れないが
音符が読めない読者はそういう訳にはいかない。
クラシック音楽を聴いただけで眠たくなってしまう私など
とてもこの小説を読む資格はないのだが・・・
作者の恩田氏は言葉に置き換えるのが至難である「音」の世界を
みごとに言葉で表現してくれた。
バッハ、ベートーベン、ショパン、シューベルト・・・
偉大な作曲家たちが生み出した夢の世界を
若きピアニストたちが奏でる美しく情熱的な演奏を
珠玉の言葉で表現してくれている。
クラシック嫌いの私ですら思わず陶然とするような
言葉の旋律であった。
大変な力量と言わざるを得ない。
それだけでもこの小説を読む価値があるのではないか?
「私はまだ音楽の神様に愛されているのだろうか」
本選を勝ち抜きコンクールの栄光を手にするピアニストは誰か?
ぜひ一読をおすすめしたい。