満月に聴く音楽

宮本隆の音楽活動(エレクトリックベース、時弦プロダクションなど)及び、新譜批評のサイト

FUJI-YUKI  「One Butoh」

2024-01-01 | 新規投稿

【お互いの育った土地に根付いた古来の感性を探求、交感、共有した2人のパフォーマーが作り上げた空間インスタレーションは、声と舞踏を軸に2人の息遣い、美しく精緻な空間、そして静謐な沈黙で作られたものです。その研ぎ澄まされた簡素な空間で人間の根源的な感覚を演者、観客と共に体感することにより、私達は超自然的な音や気配、沈黙そして空間をより鮮明に感じるのです。】

【歌う時、自我は無く、空間にあらゆるものが、憑依する。深い眠りの中で覚醒する。地を踏み、太鼓を鳴らし、混沌の中で舞い踊る古代人のように】

FUJI-YUKI  「One Butoh」より

 

英語として世界的に定着する'Butoh"を声のパフォーマーであるFUJI-YUKIが実践する旅、それは'Butoh'の故郷でもある祖国、日本の地を離れ、遠くフランスでの実りあるコラボレーションを実現させたようだ。古代人の感性への触手の手段としてFUJI-YUKIは'Butoh"を選んだ。舞踏家ではない彼女は声と身振りによる'Butoh'を舞ったのであり、その真意は今日のように様々な表現が細分化される以前の太古の時代の表現の在り方を顕在化する事であろう。古代においては発声も打音も舞いもジャンルとして分かれてはおらず、一体であった筈でその意味でも'Butoh"とはFUJI-YUKIにとって全き表現行為の象徴的なワードなのであり、世界化した'Butoh"がワールドワイドな精神の紐帯となる想いを声と身振りに籠めたのであろう事は想像に難くない。いみじくもFUJI-YUKIは

「お互いの育った土地に根付いた古来の感性を探求、交感、共有した」と記している。

民族固有の感性が遠方の地の人々と共振する事例は各地の神々の物語が何故か似通うストーリーを多く持つ事例や等しい製法で作られた土器の遠隔地での発見に見られる古代世界の"大地の無限性"というテーマに直結するであろう。

昨今の科学的解析法により縄文時代の生活や人のダイナミックな動きが解明され続けているが、どうしても解明不可能なのは人の声であると思われる。発語、発声だけは推測に頼るしかなく、おそらくは人骨の断片からのDNA解析による口、顎の形状から推測される現代人とは異なる発声法があったのかもしれない。そんな事を想起したのも

FUJI-YUKI「One Butoh」の楽曲であり、更に付け加えればブックレットに収められた写真家、はたさちお氏による24部に及ぶ秀逸なFUJI-YUKIのポートレイトなのである。ここでFUJI-YUKIは様々な表情と手の動きによる歌い舞い踊る表現行為を無音で再現した。全身写真でないにも拘らず、身体表現と発声が不可分であるかのような全的表現の発露とした正に'Butoh"を体現する強い意志を示した事になる。このブックレットに曲や録音データ等の記載がない事からも、レコードと一対の作品であり独立したオブジェと位置付けた事は明白だ。

レコード音源はA面にscene1.B面にscene2.scene3.scene4と4曲で構成されている。映像作品でないにも関わらず〈scene=場面〉とタイトルを付けた事は今作を象徴するだろう。即ちそれぞれの音源トラックは決してサウンドトラックではなく、sceneという視覚世界であり、それは聴感覚も内包したトータルな舞台芸術と目されるものに違いないのである。

それは各トラックの性質によっても明らかである。即ち20分近くに及ぶscene1は仏具のオンビートに唱名のように反復されるヴォイスが重なる呪術的な空間。そしてscene2の地底と天上を結ぶ声の往来、scene3の仏具と声の共鳴による憑依、scene4の静的な安寧への祈祷的世界とそれぞれが、何かしらの精神世界のビジュアル化をコンセプトとし、可視化された古代の魂の行方なるものを現代に通底させる為のドキュメント的性格を持つ録音である事に気付かされるだろう。

FUJI-YUKI及び彼女と夫君WameiとのDUOユニットであるSARRYの音楽に長く顕著であったサイケデリックという要素がここに至り、そのジャンル的衣装をもはや脱ぎ捨て、

高度な交感のマジックアートに昇華したと感じる。従って陶酔感という個人の快楽性を歴史的な縦軸と遠隔的な横軸に拡大させた表現世界に辿り着いた印象である。

しかも何よりも強く推察するのは、そのような表現を発しているリアルタイムのFUJI-YUKIは恐らくは限りない無の状態の中でコンセプトという概念を考慮すること無く、憑依と放心、無我の境地に至る無意識の作用に在るであろう事なのである。

 

2024.1.1





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