満月に聴く音楽

宮本隆の音楽活動(エレクトリックベース、時弦プロダクションなど)及び、新譜批評のサイト

SALIF KEITA 『REMIXES FROM MOFFOU』

2008-06-12 | 新規投稿

また、ボノが日本にやって来てアフリカの事でごちゃごちゃ言っている。
各国首脳が恐れる男。
今回も総理、その他、要人に面談している。誰も断れない。以前、「忙しいから」と会おうとしなかったカナダの首相は、後で「アフリカ援助が進展しないのは彼のせいだ」と名指しで非難され、あわてて陳謝した。ボノに批判されたら、政治生命にも影響しかねない。彼の一派はもはや圧力団体か。政治のポピュリズム化の世界的流れは、ここまで影響力を持ってしまった芸能人を生んだ。NGO全盛時代の一断面と解すれば良いのだろうか。

ボノは日本政府を批判したようだ。
曰く「2国間のODAではなく、国連などを通じた多国間援助を倍増すべきだ。」
ジュビリー2000という債務帳消し運動もその批判の矛先を日本に向けている。世界トップの90億ドルを援助しているにも関わらず、まるで非人道扱いだ。
「返す努力だけはしていただきたい」
「先進国の中で日本だけはアフリカに武器輸出をしていない」
これら日本政府の主張はいずれも、‘非寛容的態度’として、退けられている。
債務帳消しに応じたイギリス政府などの思惑は‘日本からの援助金で武器購入代金は払ってくれよ’という事だろう。フランスもそうだ。大体、イギリスなど、援助額は日本の900分の1でしかない。
欧米各国は国益に沿って判断しているだけで、アフリカでのプレゼンス確保の為には、もはやNGOやボノら有名人の‘善意’をも取り込んで、計算している。そもそもアフリカの貧困の根源に部族間闘争があるのに、兵器商売をする矛盾を説明できていない。せいぜいが「勢力均衡の為」だろう。列国にとってアフリカの債務帳消しとは利益範囲内でしかなく、本当は痛くもかゆくもない。むしろ債務帳消しという破産宣告はアフリカの貧困という現状維持=ヨーロッパによる影響力確保という利益構造の一環なのだ。

アフリカでの様々な現地報告を少しでも読めば、その一筋縄ではいかない病巣がイメージできるだろう。かれこれ25年以上も関わっているタマネギ頭のおばさんも、もはや諦めの心境なのだ。何故、変わらないのか。
止まぬ内戦。ヨーロッパによる収奪の構造が形を変えて残存している事。援助が依存心を持たせてしまう温床になっている事。これら根深い現状は債務帳消しによる一時的措置をはるかに超えた、理不尽の構造に変化がない事を示している。自助努力をスルーして援助物資を待つメンタリティを育てたのは誰か。アフリカには安直なヒューマニズムではなく、自立心を育成、自覚させる‘闘い’こそが必要なのだろう。

自助努力と向上心の促進以外の解決策はないと思う。アジアの多くの後進国でそれが実現したように。
‘返済不可能な重債務は先進国の援助の構造に問題があるのだからこれを帳消しにするのが人道上においても妥当である’とする主張はもっともだが、じゃあ、その構造を招いた欧米のアフリカ政策こそを問題にするのが先ではないか。具体的には武器輸出の全廃に向けて何らかの国際的合意を図る会議があるべきだ。中国が大々的にアフリカの武器市場に参入した今、これをジャッジできるのは日本しかないだろうが、もっともそんなリーダーシップを取る力量も気概もまるでないのが日本という戦略なき国の姿だが。
しかし、少なくとも‘ジュビリー’(免罪)などというユダヤーキリスト教の概念を適用されても困る。そんなものに共感する日本人はあの坂本龍一をはじめとする‘地球市民’達だけだろう。

「 今こうしている間にも、世界の重最貧国では子供も大人も飢えや病気で死んでいる。飲み水さえないところもある。でも、ぼくたち日本人は簡単にそれらの国の債務をチャラにできる。」坂本龍一

税金逃れの為にニューヨークに移住する人間にこれを言う資格があるか。何が‘簡単に’だ。国の金を何だと思っているのか。国民の労働によって蓄積された税金の使い道を‘亡命者’坂本がいともたやすく意見する厚かましさは反体制主義者特有の放言でしかない。同じくボノに至っては、アーティスト育成に力を入れるアイルランド政府の印税無税が高額所得者に際しては課税する方針へ変更されるや否や版権管理会社をオランダに移して納税を避けるという、共同体への背信行為を働いている。かくの如き行為を日本では恩を仇で返すと言う。しかも、政府に談判し、アフリカ援助の倍増を実現させている。他人よりも稼いでいるんだから率先して母国に納税すればそれも誇れるが、ボノのやる事は常に政治家に圧力をかけて金を動かす事だけだ。アイルランドの国庫がそれほど潤っているとは思えない。ブッシュから50億を引き出した事も英雄気取りで吹聴している。坂本やボノ。こやつらには自分の財布のひもは決して開けないという共通点があるようだ。

もう一つの共通点がある。行動原理主義者である点だ。
「アフリカへの援助。これは知性ではなく、モラルの問題だ。」ボノ
「先進国ではたくさんの人がジュビリー2000を支持している。でも、かんじんの日本ではあまり知られていない。もっとたくさんの人、特に若い人に知ってほしい。だって、これからの世界を生かすも殺すも、若い人の生き方にかかっているから。」坂本龍一

アフリカ援助への無関心とはモラルの欠如であり、ジュビリー2000を支持する事はこれからの世界を生かす試金石であるらしい。「考えるだけじゃなく、行動で示して下さい」というエセモラリスト(プロ市民とか言うらしいが)特有のこのような物言いには明確に反論したい。

私にはモラルを形成するのは良識であり、それは知性とリンクすると思っているし、ジュビリー2000というたった一つの運動への支持/不支持を問う事を一つの例として個人の‘生き方’を示す如き党派主義的感覚の古さを疑う。ましてやそれが‘これからの世界を生かす’などという三段跳びの如く単純化された踏み絵的発想に嫌悪を感じる。

慈善活動、政治活動が個人の信念に基づくものである以上、それは社会性を帯びる以前に個人の哲学的行為であると言える。その生き方が他者による内政不干渉を約束されるなら、同時に他者への非―強制性とも一体でなければならない。
‘善意’の活動は常に道徳的優位を装いながらやってくる。しかも多くの場合、それは‘世界’という普遍性を盾にしている。恐れる事はない。良識を盾に対処すればいい。‘地球市民’も良いがその前に我々はまず、国民である事を自覚するべきだ。共同体への義務遂行が全ての政治的行為や思考の前提になる。もっとも個人の主義、哲学によってそれを拒否するのも一つの‘生き方’であり、否定はしない。先述した通り。しかしそのような‘生き方’の者が、自国の政治をサジェスチョンし、社会性をまといながら、思潮を動かしていく事には警戒が必要だ。

共同体への義務遂行とは何か。下世話レベルの話だが、それは確定申告と納税。それと選挙への投票なのだ。これで我々は既に、いわゆる‘アンガージュ’(参加)を果たしていると考える。個人が内面に生きると同時に社会性を獲得すべく意志を表明する最低限の機関がこの‘参加’である。これを果たす者に対し「お前は世の為に何もやっていない」という批判は‘良識なるものの形成’に無自覚な者であり、ただの‘勘違い野郎’と見る。

アフリカ援助ではなく、国内の問題に取り組む者は程度が劣るのか。赤い羽根募金とジュビリー2000に優越があるのか。更にそれら‘活動’を何もしていない者は道徳心に欠けるのか。そんな事はない。あるのは各々の‘自己主張’だけであり、モラルの重さではない。むしろそこに優越をつけるドグマ主義者こそが、偽善なのである。めいめいが固有の考えに従って、政治的行為や思考をすれば良い事なのに、ドグマ主義者は自らの信念を他者に強要する。こやつらにとって政治活動は宗教なのだ。
以前、流行ったホワイトバンド運動など意味ある運動なら継続しているはずだが、その後どうなったのか。‘善意’で洗脳する商売以外の何物でもなかったんじゃないのか。

サリフケイタの『REMIXES FROM MOFFOU』は2004年リリースの再発。傑作『MOFFOU』(2002)の様々なクリエイターによるリミックス集である。『MOFFOU』(2002)はワールドミュージック寄り(フランスカテゴリーの)だった80年代以降のサリフケイタが汎アフリカ世界に回帰した作品だった。この作品が選ばれたのは、サリフケイタ作品でしばしば見られた欧米ポップ的なビートをバックにしたものではなく、アコースティックサウンドだったからだろうか。その方が欧米のDJ,リミキサーにとって、はるかにイマジネーションが湧くのは道理だろう。エスノサウンドを欧米のアーティストがリミックスする時、決まってそのエキゾチズムがソフトサイケの方向に向くのだが(ガリアーノ、琉球アンダーグラウンドなどその例多数)、ここでのサリフケイタはよりリアルな覚醒的音象が印象に残り、快楽に身を委ねるトリップ感はむしろ希薄である。これはオリジナルのコンセプトの重さに拮抗するリミキサー達の真摯な対応であり、‘対決’に等しい緊張関係があるからだと感じる。それほど全体に大胆なサウンド構築が施され、サリフケイタのボイスの重量感を浮き彫りにしている。特にラストのdoctor Lによる「here」は圧巻だ。

アフリカの‘現実’に欧米が対決するコラボレーション。
ここにある解体と構築。或いはそれに抗い、自己再生するダイナミズム。
現実世界の遠い投影であろうか。アフリカと欧米の共闘のメッセージがきこえる。

2008.6.12

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