満月に聴く音楽

宮本隆の音楽活動(エレクトリックベース、時弦プロダクションなど)及び、新譜批評のサイト

9.2 (sat) 千野秀一×半野田拓「Voicelessness」リリースLIVE

2017-08-18 | 新規投稿
●千野秀一 (broken out-harp、keyboard) × 半野田 拓 (electric guitar, sampler)

guest Act:
●中田 粥 (bugsynthesizer) × 竹下勇馬 (selfmade electro-bass)
● Zero Prizm (S-NOI:electronics / 宮本 隆Miyamoto Takashi:bass,sampler)

@environment Og [zero-gauge]
open 19:00 start 19:30 charge 2000yen (exclude 1drink)

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5月にduoアルバム「Voicelessness」(jigen-017)をリリースした千野秀一と半野田拓の実質的なレコ発ライブである今回、千野秀一はアルバムで演奏した壊れたオートハープ(broken autharp)を持参する。それは弛んだ弦をかき鳴らすような無機質な音であり、ギターの空ピックのような、しかも指盤に弦が当たりまくって、打楽器のようなパーカッシブな一種、異様な音でもある。「もともと壊れていたのでオートハープとしては使っていません。弦が30本ほどあり携帯用インサイドピアノといったところです。コンタクトマイクで増幅しています。」彼のコメントから想起するのはピアノの弦を直接、タッチするいわゆるプリペアドピアノのような質感を求めた事と、壊れていたことで音階は弾けず、カシャカシャと響くその音そのものに着目し、コンタクトマイクで増幅する事によって、逆にオリジナルな音響機器としてしまったという事だろうか。70年代からの長いキャリアを誇り、ポピュラーミュージックから映画音楽、ジャズ、実験音楽など数多のジャンルを横断してきた千野秀一は‘壊れたオートハープ’によるノイズ音響的インプロビゼーションに行き着いた。その音はかなり即物的で限りない無調の世界とも言える。私は一度、その演奏を観た時、一見、異様な機器を一心不乱に掻き鳴らす千野氏にある種の突き抜けた到達点を見る思いがした。氏によるピアノやキーボードによる即興演奏とは違う様相を示すその演奏は千野氏による音響への目覚めなのか。その意味でポイントになるのが、共演者の半野田拓なのである。二人は実に15年の長きに渡ってduoによる演奏を続けてきた。半野田氏が登場したのは内橋和久氏が神戸ビッグアップルで行っていた即興ワークショップnew music actionであるが、そこで皆が注目したのは並み居る演奏巧者によるインプロバイズとは別の切り口を持った演奏によるインパクトであったと思う。通常の楽器演奏による試行錯誤に満ちた即興演奏(苦闘にも似た)ではなく、音響機器的ギターを扱い、驚きのサウンドを奏でるそのセンス、発想の豊かさにあった。シンセでもなく電子音的な質感を持ったその奏法、音そのものの面白さで人を惹きつける、その独自の世界が驚異感を持って登場したのである。しかも彼が時折奏でる風変りなメロディ、童謡的なデジャブ感を持つ、独特でユーモラスな音階は、半野田拓というアーティアストの個性を決定つけ、もはや半野田拓と言えば‘あの可愛らしいメロ’とノイズが交差するサウンドによって認知される場合が多い。私が感じるに半野田氏は即物的なものから始まって、旋律に行き着くといういわば、千野氏とは逆の経緯を体現した表現者なのである。したがって千野秀一が調性音楽から即興演奏へ、そして、即物的音響へと到達したのに対し、半野田拓は音響的本質を有する演奏から音階へと横断する。
千野秀一と半野田拓。
二人の演奏から‘先端’という慣用句を思い浮かべる事も可能であろう。しかし、それは私達を取り巻く音楽シーンにおけるある種、‘出尽くした感’を突破するのではなく、‘先端’の基準そのものを溶解させるような熱烈な快楽性を更新するものとして、立ち現われるのかもしれない。


中田 粥Kayu Nakada ×竹下勇馬Yuma Takeshita

中田粥×竹下勇馬はレギュラーユニットではないが、音楽における同様の方向性を持つ者同士と認識して間違いないと思われる。その音楽性は既成の楽器や電子機器から離れ、独自のインスツルメントを入手し、かつ、それらを順次、解体、改良し続ける事によって、斬新性を目指すものだ。彼等のサウンドを言葉で言い表すことは困難で、それを試みようとしても徒労に終わりそうだ。それくらい、彼らの演奏は既成のエレクトロ、即興、ノイズというカテゴリーと一線を画していると私は感じている。表出されるサウンド以前に彼らの姿勢、感覚に新しさを感じるとしたらそれはノイズの文脈ではどうしても逃れる事ができないカタルシスの発散という一要素がまず、消去されている点だ。何らかの内面性や思い、そういったパッションをノイズの激越性に昇華させる従来のノイズという範疇にはとてもおさまらない、ある種の制御の感覚を有している。そういった感性が作品至上主義の現代音楽やアカデミックな電子音楽から生まれているのではなく、あくまでもストリート感覚を有したライブシーンの現場で生成されている事にも意義を感じている。
■中田粥
1980年、東京で生まれる。洗足学園音楽大学作曲科卒業。サーキットベンディングをピアノの内部奏法の延長上にあるものと捉え直し、シンセサイザーやリズムマシンなど電子楽器数台分の剥き出しにされた回路基板を「バグシンセ」「bugsynthesizer」と名付けてリアルタイムにショートさせる方法で演奏や展示を行う。2013年、東京の実験音楽シーンで活動。2016年、拠点を大阪に移動。現在、アートスペースFIGYAの運営に携わる。ディスコグラフィー《《》》(metsu)1st album『《《》》』Flood/FLD-02/2015《《》》(metsu) 2nd album『Relay』doubtmusic/dmf-161/2015。ソロ『A circuit not turning』(KYOU-002)
■竹下勇馬
1980年大阪生まれ。2001年頃から大阪府内のライブハウスを中心に音楽活動を始める。バンドや即興演奏を軸とした活動を続けた後、2011年東京に拠点を移す。以降現在に至るまで自作の音響装置を搭載した改造エレクトリックベース”electro-bass”を主に使用、独自のアプローチによる活動を続けている。2015年には即興演奏グループ《《》》metsu(大島輝之、中田粥、竹下勇馬、石原雄治)にてアルバム2作を立て続けにリリース。2016年春には石原雄治とのデュオTumoにて欧州ツアーを行うなど、活動の場を海外にも拡げつつある。8月には中村としまる氏とのduoアルバム"Occurrence, Differentiation (Yuma Takeshita + Toshimaru Nakamura)がKYOU RECORDSからリリースされる。


Zero Prizm(S-NOI / 宮本 隆)
トラックメイカー、DJ、音響、ノイズ、電子音楽の作家としての顔、ライブ活動ではフロア寄りのミニマルサウンドを展開する一方、古川正平名義では即興演奏家や舞踏家など様々なアーティストとのコラボレーションを展開しているS-NOIに時弦プロダクションの主宰者でベーシスト宮本 隆が合体。ハーシュノイズからグルーブビートへと転換する新しいフロアーサウンド。https://www.youtube.com/watch?v=RBaMrKaTYrY

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