思惟石

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『巨鯨の海』伊東 潤

2017-10-23 15:22:32 | 日記
今春に「読むぞ!」と思ってから、早半年。
秋もすっかり深まりましたね…。

まあ、「読みたい本メモ」に書かれたまま
数年を経ている本も多々ありますから、
たった半年で読んだなんて、私、偉い!
とポジティブに考えるのもひとつの手です。
(マインドコントロール…)

というわけで読みました『巨鯨の海』。
鯨漁を生業とする和歌山県太地(たいじ)の
殷賑を極めた江戸時代中期から、落日の明治まで。
全6編の短編集です。

すべてのお話しが、「太地」という
ひとつの(閉じた)社会を舞台にしていますが、
それぞれバラエティに富んだ物語というか
全く彩りの違う人生が描かれていて、とても面白かったです。

最近では、熊谷 達也『邂逅の森』でも感じましたが、
民俗学的というか、その時代その場所の風俗がリアルで
細やかに描かれているのが、
知識欲が気持ちよく満たされるというか。
勉強になって面白かったです。

鯨漁に関しては、まったく知識がなかったので
江戸時代に確立したという「古式捕鯨」の描写は
「こんなんで獲れるのか…?」という驚きや、
鯨の賢さや生命力への感動や、
一度の漁に200人以上で挑む難しさや矜持や、
果ては、狭い社会で生まれ暮らすことの
葛藤やら安寧やら欲やら諦めやら。

にしても、海なし県で育ったせいか
(それだけが原因ではないけどな)
私が「鯨」から連想するのは
「父母の時代に給食で出ていたらしい」
くらいの乏しいイメージしかなくて。

『恨み鯨』に出てくるように
家族を獲られた鯨の荒れようや
子連れ鯨の絆などのエピソードは、けっこう衝撃的でした。
一方で、それでも鯨を生活の糧として
命のやりとりをし、命をいただく、太地の人々が
鯨を「夷様」と呼んで敬う姿勢とかも印象的です。

収録されているのは以下6編。
『旅刃刺の仁吉 』
『恨み鯨 』
『物言わぬ海 』
『比丘尼殺し 』
『訣別の時 』
『弥惣平の鐘』

『旅刃刺の仁吉 』『訣別の時 』は、
鯨漁への貢献度イコール存在意義である狭い村で
居場所を探している10代の葛藤の物語。

『比丘尼殺し 』はちょっとだけミステリ風味ですが、
核にあるのはやっぱり、閉じた社会のルールや価値観で。

ひとつの村で、様々な人生。

勉強になる一冊でした。
コメント
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