思惟石

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朝倉かすみ『コマドリさんのこと』他人事じゃない

2017-10-27 11:53:56 | 日記
朝倉かすみの『コマドリさんのこと』を読みました。
すごいものを読んでしまった……。

内容だけさくっと書くと、痛い話しっぽいんですが、
そういう話しではないのです。

肝心の内容(さくっ)は、
主人公は、40歳になるまで男性との交際も触れ合いもなく、
それでも恋愛や結婚や出産に夢をみがちな女性。
そんな「コマドリさん」の半生と現在を入り交えた
中篇小説。

って書くと、もうね、痛い!居たたまれない!
って感じですが、
実際に読んでも、ある種の居たたまれなさが凄いです。

でもね!それがね!良いんです!!
その居たたまれなさが、フシギと気もち良いし
愛らしいし可笑しいし、笑える。
何よりも「他人事じゃない」感がすごい。
私の中の「コマドリさん」が小説のあちこちに垣間見えて
笑ってる場合じゃないと思う。でも笑っちゃう。

私が「見つけた」と思ったホンダくんが自分を「見つけない」ことに
業を煮やして告白して大空振りするコマドリさん。
新入社員時代に「いい嫁になる」とオジサンたちに言われて
幸福な予感で胸がいっぱいになるコマドリさん。
結婚式では新郎新婦の趣味の紹介があると知り、
着付けとフラワーアレンジメントを習っちゃうコマドリさん。

恋愛経験も交際経験も皆無なのに地味な挫折を重ね、
それでも現実を考察したり自分を鼓舞したりして
「選ばれたい」「見つけたい」「恋人ではなく花嫁になりたい」
と意志を持って行動しつづけるコマドリさん。

痛いし愛しいし、もうね、私の中のコマドリさんが喧しい。

コマドリさんの妹が姉に向けて放つ罵声
「乙女と年増が一番どんくさい配合でミックスされてる」
には、もう笑うしかない。
私に向けて言っているのか、妹よ。

『コマドリさんのこと』は『肝、焼ける』という
著者のデビュー短編集に収録されています。
私的には、コマドリさんがぶっちぎりすぎて
他の作品もそれぞれ良いんですが、まあね、という感想。
いや、表題作は結構良かったですが。

余談ですが、
津村記久子『君は永遠にそいつらより若い』を読んだときも
主人公ホリガイの、自分を「女童貞」と捉える複雑な自意識の中に、
絶妙な「笑える&他人事じゃない」のバランスがあって
この作者に夢中になった記憶があります。

朝倉かすみ氏は、数年前に『田村はまだか』を
読んでいたものの、あまり印象に残っていなかったんですよね。
もう少し他の作品も読んでおこうかな。
コメント
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