思惟石

懈怠石のパスワード忘れたので改めて開設しました。

『料理通異聞』の時代

2017-07-10 17:04:34 | 日記
町人文化が隆盛を極めたと言われる
江戸時代の文化・文政年間に、
「一両二分のお茶漬け」が存在したそうで。

お茶漬けは、当時でも手軽で廉価なファストフード。
酔狂な客がそれを高名な料理屋で「極上の茶漬けを」と注文。
すると、確かに美味しい茶漬けが供されたけれども
出てくるまでには半日以上座敷で待たされ、
さらに一杯のお代は一両二分なり。
というのも、お茶漬けに使う宇治の玉露に最適な水を
早飛脚を立てて玉川上水まで汲みに行ったためと。
客も、その味と理由に納得して、快く支払ったと言います。

その舞台が山谷にあった高級料亭「八百善」です。

というエピソードが、ちょっと味付けは変わっているけど
松井今朝子『料理通異聞』に載っていて、
こういう時代の出来事だったのだなあと
しみじみ読みました。

というのも、これは八百善創始者の善四郎の生涯を描いた小説で、
彼が生きたその時代背景を読むのがまた面白いのです。

「一両二分のお茶漬け」は確かに豊かな時代の出来事なんですが、
その数十年前、善四郎の若かりし頃は、天明の大飢饉があり
大阪や江戸で打ちこわしが頻発する時代です。

当時のお店は先代の営む「福田屋」という精進料理屋で、
(どこまでが小説内の設定が調べてませんが)
近所で打ちこわしが起こった夜の描写は、やっぱり怖い。
戸の隙間から「見知った顔」が殺気立った口調で
襲う店を物色している風景なんか、ヒヤヒヤッとします。

料理屋なのに食べものが仕入れられず開店休業状態だったり
お寺での炊き出しでの人々の疲弊した様子など、
殺伐とした時代の空気感が行間からにじみ出ています。

その後、田沼意次が失脚して、松平定信の時代になって、
白河の清きに魚のすみかねて もとの濁りの田沼こひしきってなって、
文化文政時代に至って、「一両二分のお茶漬け」が現れるわけです。

社会のテストだと100年200年くらい
さくさくっとまたいでしまいますが、
ひとつひとつの時代は繋がっているんだなあと。

ちなみに、12年ぶりに開催された深川八幡祭りで、
殺到した人の重みで永代橋が崩落したのが、文化4年。
こういった歴史的な事件も、ひとつの流れのなかで読むと
リアリティを感じますね。コワイ。
12年ぶりのお祭りって、そりゃ行きたくなりますもん。

あと、個人的な感想は「鶴って食べれるんだ…」です。
年末には将軍が鷹狩りで、朝廷に献上する鶴を狩ったのだそうです。
いわゆる鷹狩りで「何を」狩るのかって、考えたことなかったので
「へえええええ」と思いました。
しかし、あまり食指は動かない。
コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« かくれ○○さん | トップ | 『剣客商売』を、粛々と読ん... »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

日記」カテゴリの最新記事