Sightsong

自縄自縛日記

喜多直毅クアルテット「文豪」@公園通りクラシックス

2018-10-28 22:14:05 | アヴァンギャルド・ジャズ

今回の喜多直毅クアルテット2デイズのタイトルは「文豪」。2日目に足を運んだ(2018/10/28)。

Naoki Kita 喜多直毅 (vln)
Satoshi Kitamura 北村聡 (bandoneon)
Shintaro Mieda 三枝伸太郎 (p)
Kazuhiro Tanabe 田辺和弘 (b)

1. 月と星のシンフォニー
2. 孤独
3. 死人〜酒乱
4. 文豪
5. 疾走歌
6. 厳父

曲間に緊張を解かず、通しの演奏を1時間続けるという独特のスタイル。コンサートのたびに言葉で縛りをかけるのもそれと無縁ではないだろう。

「月と星のシンフォニー」(『Winter in a Vision 2』所収)では、ふと訪れた静寂と、そこでの震えるヴァイオリンの声に、いきなりこのドラマに惹きこまれる。そこからの悦びの盛り上がり。と思うと、喜多さんは弦を激しくはじいて安寧を許さない。「孤独」はバンドネオンが主導してはじまり、全員で感情のレベルを持ち上げてゆく。タンゴのタテの強いノリと、そこから脱出せんとする意図との相克といった印象を持つ。それと関係してか、各人の音が複数の層を成して、それらが合致するときの濁りとハーモニーという矛盾が共存しているように聴こえた。そのような矛盾を抱え込むことが、このクアルテットの魅力に違いないとも思えた。

「死人」から「酒乱」へ(『Winter in a Vision / 幻の冬』所収)。静かなバンドネオンからはじまり、ノイズも使いながら騒乱的となってゆく。喜多さんは弦にクリップを挟み、短い音を出す。コントラバスもノイズを発し、三枝さんは内部奏法を行う。ときに激しい展開があって、ときに静かな間があり、そのたびに楽器の肉声が届いてくる。「文豪」が今回の新曲だろうか、音風景がめまぐるしく変わってゆき、ヴァイオリンとバンドネオンとが前面に出ては退いてゆくようだ。四者による厚みに驚く。野太いドラマというのか。

そして「疾走歌」(『Winter in a Vision / 幻の冬』所収)。文字通り疾走するように小刻みにはじまるのだが、それは精神的な焦燥感でもあるようで、聴いていると、演奏者がこの音楽を全員で創出し、一方ではそれに呑みこまれることへの抵抗もあり、それがスリリングなものに感じられた。ピアノが撒く火花も素晴らしい。コントラバスは終始音楽に酸素を注入している。(このあたりで田辺さんが勢い余って譜面台を倒したのだが、サウンドに強さがあって何の影響も受けなかった。)

「厳父」は前回コンサートのテーマだった。三枝さんのピアノが力強く下から持ち上げ、上でさまざまな感情と結びついた旋律が何本も踊る。やがて安寧の時間があるのだが、再び、四者が激しいドラマを創出する。聴く方も切れそうな迫力がある。最後は和解のようなイメージを持ったのだが、果たして何がこの曲に込められたのだろう。

演奏後の床には、楽譜の数々が散乱している。過ぎ去っていく時間や棄てられていく感情の痕跡にもみえた。

Fuji X-E2、XF35mmF1.4、XF60mmF2.4

●喜多直毅

ロジャー・ターナー+喜多直毅+齋藤徹@横濱エアジン(2018年)
ファドも計画@in F(2018年)
齋藤徹+喜多直毅@板橋大山教会(2018年)
齋藤徹+喜多直毅+外山明@cooljojo(2018年)
齋藤徹+喜多直毅+皆藤千香子@アトリエ第Q藝術(2018年)
ロジャー・ターナー+喜多直毅+齋藤徹@横濱エアジン(JazzTokyo)(2017年)
翠川敬基+齋藤徹+喜多直毅@in F(2017年)
喜多直毅+マクイーン時田深山@松本弦楽器(2017年)
黒田京子+喜多直毅@中野Sweet Rain(2017年)
齋藤徹+喜多直毅@巣鴨レソノサウンド(2017年)
喜多直毅クアルテット@求道会館(2017年)
ハインツ・ガイザー+ゲリーノ・マッツォーラ+喜多直毅@渋谷公園通りクラシックス(2017年)
喜多直毅クアルテット@幡ヶ谷アスピアホール(JazzTokyo)(2017年)
喜多直毅・西嶋徹デュオ@代々木・松本弦楽器(2017年)
喜多直毅+田中信正『Contigo en La Distancia』(2016年)
喜多直毅 Violin Monologue @代々木・松本弦楽器(2016年)
喜多直毅+黒田京子@雑司が谷エル・チョクロ(2016年)
齋藤徹+かみむら泰一、+喜多直毅、+矢萩竜太郎(JazzTokyo)(2015-16年)
うたをさがして@ギャラリー悠玄(2015年)
http://www.jazztokyo.com/best_cd_2015a/best_live_2015_local_06.html(「JazzTokyo」での2015年ベスト)
齋藤徹+喜多直毅+黒田京子@横濱エアジン(2015年)
喜多直毅+黒田京子『愛の讃歌』(2014年)
映像『ユーラシアンエコーズII』(2013年)
ユーラシアンエコーズ第2章(2013年)
寺田町の映像『風が吹いてて光があって』(2011-12年)
『うたをさがして live at Pole Pole za』(2011年)


ムー展@池袋パルコミュージアム

2018-10-28 20:31:56 | アート・映画

はっと気が付くと、大注目の「ムー展」が終わりそうになっている。しかも、なぜか、ドラマーの井谷享志さんや地下音楽の剛田武さんなど意外な方々が報告をアップしている。これはダメだと思い焦って池袋のパルコミュージアムに駆けつけた。

わたしは高校1年生の1年間だけ『ムー』を愛読した(1986年)。別冊のムックや新書版のムーブックスも結構熱心に読んだ。従ってオカルトには結構詳しくなった。のちに『X-Files』というアメリカのドラマが流行ったとき、そんなこと前から知ってるわ、子供だましだな~と、何故か上から目線で見ていた。あとから考えると実にくだらない。

というようなご同輩が多いのかなと思ったのだが、意外にかなり若い人たちも会場で熱心に観ている。オカルトはすたれないんだな。

そんなわけで、展示はなかなか楽しかった。ビッグフットの足型。1986年、山形市西川町に突如出現したミステリーサークル(つまり、草むらが円形になぎ倒されたもの)の取材のため『ムー』取材班(笑)が使ったガイガーカウンター。

生頼範義の原画もある。その絵を使った、KAMIYAによるレコード『ムー』。いや知らないし。帰ってから調べると何曲か聴くことができた(>> リンク)。なかなか味わいがあって宇宙的で未来的で過去的でいいじゃないですか。えっジャズギタリスト?

横にはサイババが出した砂も展示されている。そしてユリ・ゲラーが曲げたスプーン。サインが書いてある。欲しい。

出口にはTシャツが売られていて、昨夜浦安の某バーで某氏から3500円以下なら買ってきてくれ、好みは怪獣系か宇宙系だと頼まれたのだが、値段はそれよりも高かった。わたしも断念したが、その代わりに、宇宙人が捕獲された有名な写真のトートバッグを手に入れた。その足で行ったライヴ会場で、やはりムー的な喜多直毅さんたちに自慢した(馬鹿)。

ふっふっふっ。


長沢哲+近藤直司+池上秀夫@OTOOTO

2018-10-28 19:31:26 | アヴァンギャルド・ジャズ

東北沢のOTOOTO(2018/10/27)。

Tetsu Nagasawa 長沢哲 (perc)
Naoji Kondo 近藤直司 (ts, bs)
Hideo Ikegami 池上秀夫 (b)

3人の名前を見ればどフリーなのか即興なのか、しかしそのような分類には意味がない。OTOOTOは満員。

ファーストセット。長沢さんはマレットで柔らかく音を出し、呼応して、他のふたりはマージナルな部分の音で手探りをするようなはじまりの印象。池上さんは指から弦に移行し、軽く擦るようにも動く。近藤さんは次第に音を得る。そしてスティックによりサウンドが前に動き出した。ピチカートとブラシとの重なりの中にテナーが入り、鳥のごときマルチフォニックを発する。

やがて短いリズムの時間があった。長沢さんは静かにリズムを変え、ふたりがコントラバスを手で、テナーをマウスピースのカバーで叩く。近藤さんはテナーで突っつくような音、それがここに来てフラジオ、フリーキー、そして痺れる咆哮へと歩を進めてゆく。パーカッションもコントラバスも咆哮にあわせてエネルギーを高めた。

静まって、複数のシンバルによる複層の響き(!)があり、弦のピチカートとさらに重なる。ふたたびマレットの柔らかい響きで演奏が終わった。

セカンドセット。一転して、3人ともノイジーに攻める。やがて呼吸が合ってきて、タイミングを同調させてのリスタートを繰り返す。円環を思わせるブラシ、音域の広いコントラバス。近藤さんはバリトンで風を起こし、池上さんもこそげるようにしてやはり風を起こす。音を精製したような美しいブラシの音。バリトンによるフレーズの繰り返しが素晴らしい。

また静かになり、ここからシンバルの響きとともにバリトンがブルージーに入ってきて太くうねる。長沢さんがブラシで走ってもバリトンは執拗にうねるうねる。そして池上さんはというと、一音一音を入念に選び、確信犯的に刻む。このあたりがもっとも動悸のする時間だった。

長沢さんは、左右のマレットで微細なずれ(!)をひき起こす。(いちいち「!」を付けるのにはわけがあるのだ。)バリトンのフラジオ、コントラバスが入っても、長沢さんは執拗に叩いた。

Fuji X-E2、7artisans 12mmF2.8、XF35mmF1.4

●長沢哲
齋藤徹+長沢哲+木村由@アトリエ第Q藝術(2018年)
#07 齋藤徹×長沢哲(JazzTokyo誌、2017年ベスト)
長沢哲『a fragment and beyond』(2015年)

●近藤直司
のなか悟空&人間国宝『@井川てしゃまんく音楽祭』(2016年)
のなか悟空&元祖・人間国宝オールスターズ『伝説の「アフリカ探検前夜」/ピットインライブ生録画』(1988年)

●池上秀夫
種まき種まかせ 第2回ー秋の手-@Ftarri(2018年)