うてん通の可笑白草紙

江戸時代。日本語にはこんな素敵な表現が合った。知らなかった言葉や切ない思いが満載の時代小説です。

すえずえ

2014年08月12日 | 畠中恵
 2014年7月発行

 大妖である皮衣を祖母に持つ事から、妖や付喪神が見えるが、滅法身体の弱い若旦那と、若旦那命の妖たちが織りなすファンタジー小説第13弾。

栄吉の来年
寛朝の明日
おたえの、とこしえ
仁吉と佐助の千年
妖達の来月 計5編の短編連作


栄吉の来年
 一太郎の幼馴染み・栄吉の見合いの話を、貧乏神の金次が聞き付け、長崎屋に持ち込んだ。守狐や鳴家、屏風のぞきたちは早々に聞き込み開始。一太郎は栄吉に問い質すが歯切れが悪い。
 金次が、栄吉の見合い相手のおせつを探ってみると、おせつの見合い相手の男には情婦がおり、貢いでいた金の返済を求められ、おせつが立て替えたと驚くべき話だった。栄吉がそのような男でないことは明らかである。
 一太郎も乗り出し真相を探ると、おせつの言い交わした相手は、櫛職人・正之助で、情婦・女髪結いのお富への借金は櫛の収集のためと分かる。
 一方、栄吉は、おせつの妹の千夜とどうにも、良い感じだ。2人の様子から、好き合っているのでは? 一太郎はそう思う。

 輿入れは未だ先になるが、栄吉の縁組みが整う。「しゃばけ」シリーズも13弾。いよいよ、登場人物も第二段階に入っていった。
 
寛朝の明日
 妖退治で高名な、上野広徳寺の高僧・寛朝の元を天狗・六鬼坊の連れ合いを名乗る黒羽坊が訪った。聞けば、小田原宿で高僧2名が、何者かに喰い殺される怪異が起きたと言う。宿場の人を救う為に、是が非でも寛朝に足を運んで貰いたいと懇願するのだった。
 居合わせた一太郎は、小田原宿へ向かう寛朝に、猫又のおしろと、貘の本島亭場久を伴に付け、夢の中で場久と連絡を取り合う策に出る。
 だが、小田原宿の手前、戸塚宿でも川崎宿でも怪異の噂は無く、不信に思った一太郎は、一向に足止めを伝えるが、ひと足遅く、寛朝は天狗に拉致されてしまっていた。
 妖術の衰えたた老天狗が、妖退治の出来る僧の肉を喰らえば、再び人の姿に戻れると信じての暴挙だったのだ。
 彼らを説き伏せた寛朝は、羽が千切れ山へは戻れないと懇願する黒羽坊を、同じく妖の見える東叡山寛永寺の寿真の弟子へと託す。

 寛朝が主役を張り、旅に出るといった新しいストーリに、貘の夢を使って一太郎が参加し謎解きをするといった、巧みに捻った一編。

おたえの、とこしえ
 藤兵衛が上方へ出向いた留守に、大坂で米会所の相場師・赤酢屋七郎右衛門が長崎屋を訪ない、藤兵衛が、上方からの荷を期限までに江戸に運べなかった弁財として、長崎屋を貰い受けるとの証文を突き付ける。
 藤兵衛が不在で詳細の分からないおたえであったが、その証文に花押がないことから、赤酢屋の企みであると見抜くが、この一件に関し、藤兵衛の身に良からぬ自体が生じていると怪しんだ一太郎は、仁吉、佐助、金次らを伴い大坂へと向かうのだった。
 そして、おたえの守狐のネットワークにより、大坂での出来事は瞬時に江戸に知れ、赤酢屋の悪巧みが白日の下になる。
 
 おたえを主役に、凛としたおかみ姿がメインとなる。前編「寛朝の明日」同様、出番は少ないが、解決には一太郎が縁の下の力持ち的存在で、遠距離での推理を担当。
 「しゃばけ」シリーズも回を重ね、舞台も江戸府内には収まらなくなり、飛脚以外の通信のない時代の工夫が「寛朝の明日」共々、妖を交えて物語のキーとなっている。

仁吉と佐助の千年
 近頃丈夫になったと評判の一太郎の元に、あちらこちらから縁組話が持ち上がり、中でも家柄の釣り合った3人の娘との見合いが、半ば強引に行われようとしていた。
 そんな折り、仁吉は銀に呼ばれ荼枳尼天の庭へ。佐助は弘法大師修行の地である四国の小龍寺へと旅立つ。
 煩い兄やの留守となれば、仲人たちがやっきになり、一太郎との見合いをまとめようと長崎屋の離れを訪なうのだった。

 人である一太郎の元を離れ、それぞれに荼枳尼天の庭、小龍寺で妖として暮らさないかといった話であったが、千年後になろうとも、一太郎の輪廻天性を待ち続けると、2人は決断する。
 これにて連載に影がとは思えないが、進行形の物語なので、いずれは避けて取れないテーマとなった。センチメンタルな感動的、仁吉と佐助の物語と一太郎の縁組み話がコメディタッチで同時進行。

妖達の来月
 長崎屋が家主の二階屋に金次、おしろ、本島亭場久が3人で住まうことになった。屏風のぞきや鳴家、守狐など長崎屋の妖たち総出で引っ越しの手伝いの最中。引っ越し祝いにと一太郎に貰った各々の長火鉢、仁吉からに鉄瓶、佐助がくれた湯飲み、守狐が用意した布団がそっくり失せてしまったのだ。
 早速、日限の親分共々、盗人探しに走り回る妖たち。その行く手には、妖を見世物にする興行師たちがいた。

 人間と同化していこうとする妖。また、人間社会への憂いを抱く妖。それぞれの生き方が描かれる。
 また、同一冊中、一太郎はほとんどを脇に回り、「しゃばけ」シリーズもいよいよ大詰めか…と思わせるが、十分に主役を張れるほどに各々のキャラがひとり立ちしているにほかならず、シリーズの幅は更に広がりそうである。

主要登場人物
 一太郎...日本橋通町廻船問屋・薬種問屋長崎屋の若旦那
 仁吉(白沢)...妖、薬種問屋長崎屋の手代
 佐助(犬神)...妖、廻船問屋長崎屋の手代
 おたえ...一太郎の母親 
 藤兵衛...一太郎の父親、長崎屋の主
 皮衣(ぎん)...一太郎の祖母、妖
 屏風のぞき...付喪神
 鳴家(小鬼)...妖
 鈴彦姫...付喪神
 金次...貧乏神
 おしろ...猫又
 守狐 長崎屋の稲荷に住まう化け狐
 日限の親分(清七)...岡っ引き
 美春屋栄吉...日本橋菓子屋の嫡男(安野屋で修行中)、一太郎の幼馴染み
 寛朝...上野広徳寺の僧侶
 寿真...東叡山寛永寺の僧侶
 秋英...上野広徳寺の僧侶、寛朝の弟子
 黒羽坊...小田原の天狗
 本島亭場久...貘の妖、噺家
 黒羽...天狗
 山童...妖
 おせつ...菓子屋中里屋の番頭・権三郎の長女
 千夜...権三郎の二女
 於りん...深川材木問屋・中屋の娘


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