うてん通の可笑白草紙

江戸時代。日本語にはこんな素敵な表現が合った。知らなかった言葉や切ない思いが満載の時代小説です。

昨日みた夢~口入れ屋おふく~

2014年08月12日 | 宇江佐真理
 2014年7月発行

 馬喰町の口入れ屋・きまり屋に舞い込む、訳ありの奉公先に、決まって行かざるを得なくなってしまう、出戻りのおふくが見聞きした、それぞれの家の内状と人々。そしてそれによって成長していくおふくの姿を描いている。


慶長笹書大判
粒々辛苦(りゅうりゅうしんく)
座頭の気持ち
名医
三日月
昨日みた夢 計6編の短編連作


慶長笹書大判
 斡旋する女中が長続きしない、横山町の八百屋・八百竹で、今度は女中が3日で逃げ出したという。
 きまり屋としては、放っておけずに代わりが見付かるまで、おふくが代役に。
 だが、八百竹の内状を知ると、女中が逃げ出すのも得心出来る、主・竹松のしわい屋ぶりと、女房・おしずの奔放さ。
 奉公する中、竹松とおしずの会話から、八百竹では、慶長大判を保有している事を知る。しかも、それは公には出来ない、見世の前で行き倒れとなった去る武家の懐からくすねたものだった事が発覚する。

粒々辛苦(りゅうりゅうしんく)
 ひと月かひと月半ほどの短い女中奉公ではなり手がなく、またもおふくが引き受ける運びとなった。
 今度の奉公先は、主と番頭が伊勢参りに出掛ける間、内儀も子どもを伴い実家へ戻るため、隠居の面倒をみる女中が欲しいといった大伝馬町の橋屋・桶正である。
 当初から、内儀・おちかやほかの女中たちの棘のある態度に苛立つおふくだったが、隠居とは仲良く勤めていた。
 だが、月が改まると、桶正の扱いに憤懣を抱いていた職人たちが揃って姿を眩ませた。
 残されたおふくたちは、隠居の指示を仰ぎ箸を拵え始める。
 粒々辛苦=こつこつと地道な努力を重ねることが、大切である事を隠居から学ぶ。
 
座頭の気持ち
 おふくは、米沢町で按摩・鍼灸を営む、座頭の福市の診療所で、女房のおよしが出産の為里帰りをする間の女中奉公を勤め上げたが、福市はその給金を支払う気がなく、彦蔵はおろか友蔵・辰蔵までもが追い返される始末。
 金銭が絡んだ福市は、奉公中の温和な人柄とは別人であった。
 たまらずにおふく自身が乗り込むが、福市の杖で額にたん瘤が出来た程に打たれたのだ。盲人を監視する総録屋敷に訴え出、福市は位を剥奪されるが、普段何気なく感じている事柄も、盲人からみれば馬鹿にされていると受け止められたりと誤解もある事をおふくは悟る。

名医
 近所の町医者・岸田玄桂の母・玉江が捻挫したため、女中依頼がきまり屋に舞い込んだ。玉江のきつい性格から、これまで女中が長続きした試しもなく、また代替わりし長崎帰りの玄桂が継いでこの方、閑古鳥が鳴いている始末。
 難しい案件は、自ずとおふくに回される。玉江の気難しさも、人使いの荒さも、卒なくこなすおふくを気に入った玉江は、おふくを玄桂の嫁に迎えたいと言い出すのだった。
 おふくにとって玄桂の人柄は認めるものの、男として見ることはできず…。だが、勇次を諦めようと決意すると同時に、玄桂の人柄に触れ、彼に向ける眼差しに変化が生じ始める。

三日月
 豊島町の酒屋・藤川屋に病いのため里帰り療養中の娘・おみねの看病に駆り出されたおふく。
 噂に違わぬ我が侭なおみねにうんざりするが、町医者の娘でおみねの幼馴染み・千鶴によれば、おみねは病いの万屋であり、そう長くはないだろうと聞かされる。
 一方、両国広小路でおふくを借金と共に置き去りにした、元夫に勇次と再開を果たす。大伝馬町の醤油問屋・摂津屋の手代をしている勇次は、おみねを置き去りにした止むに止まれぬ事情を打ち明けるのだった。

昨日みた夢
 八丁堀の同心・高木家に奉公に上がったおふく。身形から女中と思っていたのが若奥様のかよであると知るが、身形同様いやそれ以上に高木家のかよに対する扱いは女中そのものであった。それでも愚痴もこぼさず働き続けるかよに、おふくは同情を寄せる。
 その頃、勇次から寄りを戻さないかと持ち掛けられたおふく。勇次が不実な男ではないと分かったが…。

 宇江佐氏の新作。今作は、おふくと父親の友蔵は、友蔵の実家で、双子の兄・芳蔵の家族と暮らしながら、稼業の口入れ屋・きまり屋を助けるといった設定。
 訳ありの奉公先を引き受ける羽目に陥るおふく。だが、この主人公、単に大人しく気働きの出来る女子ではない。正しい事は正しい。間違いは間違いだと己を曲げる事はないのだ。
 そして胸に、引っ掛かったままの亭主であった勇次の失踪の謎が明かされるのはいつか、おふくと勇次はどうなるのかを、読者に期待と不安を抱かせながら、物語は進行する。 
 おふくにとってはいとこに当たる彦蔵のキャラが光り、脇役としてのスパイスを十分に感じさせ、物語を引き締めている。
 一気に読める面白さである。一見軽いタッチながらその実は、計算された文章。江戸事情の子細さなど、これまで以上に宇江佐真理子を敬愛して止まなくなるだろう。
 「口入れ屋おふく」に関しては元夫・勇次との関係は、ひとまずの結論を得ているので、シリーズ化されるか否かは微妙なところではあるが、是非ともシリーズ化して欲しい作品である。
 
主要登場人物
 おふく...きまり屋の手伝い、友蔵の娘
 友蔵...きまり屋の番頭、おふくの父親
 きまり屋芳蔵...馬喰町二丁目・口入れ屋の主、おふくの伯父(友蔵の双子の兄)
 おとみ...芳蔵の女房
 辰蔵...芳蔵の長男、刀剣商の奉公人
 彦蔵...芳蔵の二男、きまり屋の跡取り
 権蔵 岡っ引き、公事宿・三笠屋の主
 勇次...おふくの元亭主、元京橋小間物屋の手代
 おみさ...馬喰町・居酒見世めんどりの女将



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