しろくま日記

読んだ本の感想を記録してみたいと思います。
なんだか忘れてしまうので。

殿さまの日 星新一著 新潮文庫

2015-02-03 | 日本小説
本書が2014年最後に読んだ本になりました。
カムイの剣」と同じくSF作家の書く時代小説ですが…まぁ大分違いますね。(笑)

初読は小学校高学年のとき古本屋で単行本を買って読みました。
(当時まだ文庫化されていなかった)
この単行本も実家にあるとは思います。
今回読み返して内容殆ど覚えていたので結構読み返した本だったんだろうなぁと思います。
なお今回読んだのはブックオフで文庫版を108円で購入したもの。

現在KINDLE版での販売のみで紙の方は絶版のようです。

内容紹介(裏表紙記載)
ああ、殿さまなんかにはなりたくない。誤解によって義賊になった。泣く子も黙る隠密様のお通りだい。どんなかたきの首でも調達します。お犬さまが吠えればお金が儲かる。医は仁術、毒とハサミは使いよう。時は江戸、そして世界にたぐいなき封建制度。定められた階級の中で生きた殿さまから庶民までの、命を賭けた生活の知恵の数々。――新鮮な眼で綴る、異色時代小説12編を収録。


久々に読んだ「殿さまの日」、どうなることやらと思いましたが….。

冒頭の「殿さまの日」最高でした...。

星新一らしい徹底したドライな作風でかなりシニカル。
「あっ」という視点での作品構成。
主人公の殿さまを通じてなにやらいろんなことを考えてしまいました。
陳腐ですが「人間の幸福とは?」といったようなもの。
「星新一ってやはり天才だ!!」という感を強くして次作以降を読んだのですが...。

次作以降はいかにも「星新一らしい」ウィットと意外な結末の作品なのですが...あまりに星新一的過ぎてこれを「時代小説というジャンルでやる意味があるのかなぁ」と感じてしまいました。
普通のショート・ショートで書いてもいいようなアイディアを無理やり時代物にしているような…。

時代物にする必然性がある=良かったなぁとしてみると「殿さまの日」以外では「ああ吉良家の忠臣」と「厄除け吉兵衛」が良かったです。
「吉良家の忠臣」は幕藩制のバカバカしさ「厄除け吉兵衛」は「厄」というような概念を通じて人間の可笑しさを描いている感じですね。

また「意外な結末」がキモの作品が多いのに、かなりネタバレしている解説を先に読んでしまったのも悪かったかもしれません。
(殆ど覚えていた私が読んでもちょっと書きすぎと感じました)
この本読む人は解説後で読むことをお薦めいたします。

正直「殿さまの日」の後は読むのに若干の努力を要しました...。

各編感想など
○殿さまの日
天下泰平の江戸時代のとある外様小藩の殿さまの1日

上でも書きましたが名作です。
結末で勝負していないし。
作品絞ってこのレベルの作品だけ書くようにしていたら評価違ったんだろうなぁ…。

○ねずみ小僧次郎吉
ねずみ小僧の履歴やらなにやら。

「ねずみ小僧はこんな感じかなぁ」というのを想像して書いた感じの作品。
大名下屋敷の描写は「殿さまの日」の援用、結末はショート・ショート風

○江戸から来た男
「藩内に隠密がいるのでは?」という疑いから...。

スパイものショート・ショートをそのまま江戸時代にした感じ。

○薬草の栽培法
薬草の栽培法を研究するとして窮地に陥った藩士は....。

これまたショート・ショート風。
ショート・ショートとしてみると問題がエスカレートして「どうなっちゃうの?」というのがうまく書かれているような気がしますが、普通に現代のサラリーマンにしても成り立つような気がします。

○元禄お犬さわぎ
綱吉時代のお犬様相手に色々と...。

この時代を想像していろいろ考えたんでしょうがアイディア倒れのようにも感じました。

○ああ吉良家の忠臣
吉良家の家臣は、討たれた上野介の仇を討とうとするが....。

ワンアイディアで書かれているような感じもしますが、何とも言えない徒労感が好きです。
最後は結構物悲しいですし。
子どもの頃好きだったのを良く覚えています。

○かたきの首
敵討ちの若い姉弟に話しかけた男は...。

森鴎外の「護持院原の敵討ち」を思い出しました。
敵討ち大変だからこいうこともありかもねぇというワンアイディアで書かれた作品。

○厄よけ吉兵衛
信心深い長屋の大家吉兵衛の1日。

平和といえば平和な話ですが、いつの世も変わらないというシニカルな話でもあり...。
興味深い作品でした。

○島からの三人
ちょっとした罪で島流しになった三人は....。

ちょっとアイディアが陳腐かなぁ...と感じました。

○道中すごろく
できる勘定奉行の養子のゴージャスな敵討ち。

ゴージャスな敵討ちの描写が面白いですが、星作品読み慣れている人は冒頭で結末は読めてしまうかなぁ。

○藩医三代記
親から受け継いだ藩医の職を大きく伸ばし子に継がせ....。

これまた森鴎外の「カズイチカ」を思い出しました...。
アイディアのみで書いた感じで今一つ感心しませんでした。

○紙の城
文書方同心のアルバイトは...。

官僚化された組織の書類絶対主義を思いっきり皮肉っています。
江戸時代な必然性はないような気もしますが...これはこれで面白いですね。

ということで結構作品の出来不出来の差が激しい作品集と感じました。

星新一の時代小説集として発売されたのは本書と角川文庫で出ている「城のなかの人」の2冊と思いますが、そっちの方が平均点よかったかなぁという気もします。

そういう意味では紙の本で絶版になっているのもしょうがないような気もしますが、なにせ星新一ですから対象読者層を小、中学生と考えれば本書も時代小説入門としていい気もしますので是非復刊してもらいたいものですね。

とにかく最初の「殿さまの日」を読むだけでも十分価値のある本でした。

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