将棋界の一番長い日 三浦弘行vs久保利明 2014年 第72期A級順位戦 その2

2019年12月06日 | 将棋・名局

 前回(→こちら)の続き。

 2014年の第72期A級順位戦、最終局。

 三浦弘行九段久保利明九段の一戦は、負けた方に降級の可能性がある、裏の大一番だった。

 序盤で三浦が主導権を握ったが、久保も往年の名作ドラマ「おしん」のように辛抱を重ね、じっとチャンスを待つ。

 

 

 

 

 後手の△64香に、もったいないようでも▲78角と手堅く受けておけば優位を維持できたが、三浦は▲56飛成

 これが、手厚く見えて疑問手だった。

 久保はすかさず、△51銀を取る。

 ▲同竜とも▲同成銀とも取れないから、先手は▲71成銀とせまる。

 そこで△24角と打つのが、ついに山頂にたどり着いたシーシュポスの放つ、起死回生の空中旋風脚だ!

 

 

 

 上下あざやかに利く攻防手で、振り飛車党でこんなが打てたら、負けても本望というくらいだ。

 ▲57角と受けるが、△71玉▲24角と、きわどい交差の後、後手は待望の△67香成。

 ▲同竜に△66金と押さえ、ここにきて、ついに形勢は逆転した!

 

 

 

 ずっと優勢を保ったままだった戦いが、たった1手の疑問手で、あっという間に食い破られる。

 これが将棋の恐ろしさで、三浦は真っ青になったことだろう。

 だが、順位戦はここからがまた長い

 しかも三浦弘行といえば、A級に昇ってこの方、最終戦で何度も絶体絶命ピンチを切り抜けてきた男。

 いわば、このA級順位戦最終局「将棋界の一番長い日」においては、玄人中の玄人という存在だ。

 ここで、ずるずると土俵を割ることなど、ありえないわけで、事実、将棋はここからまた、ややこしくもつれていく。

 ここから10手ほど進んで、この場面。

 

 

 

 ここで後手は△87飛成と、長期戦も辞さず戦えば勝勢に近かったが、強く△78飛成と踏みこんだ。

 するどい寄せだが、これが悪かったようで、またも形勢の針は三浦にふれた。

 以下、▲同金、△59竜、▲69歩、△78桂成から寄せにかかるも、これが危険極まりない手順。

 将棋の終盤で危ないのが、こういう

 「早く勝ちたい

 という、あせりの手。

 久保利明ほどの男が、この大一番で「勝ち急ぐ」という、もっともやってはいけない罪を犯してしまった。

 振り飛車ファンからすれば、「なにやってんだー」と頭を抱えるところだろうが、これはとても、久保を責める気にはなれない。

 真夜中の大激戦で、1分将棋となれば、すべてを正確に読み切るなど不可能。

 また、手順を追うとわかるが、これで先手玉は寄っているようにも見えるのだ。

 ▲78同玉に、△56角と王手して、▲88玉、△78金、▲98玉、△68金

 

 

 

 先手玉は一目受けなし

 となると、後手玉に詰みがあるかどうかだが、これがありそうながら△56角の利きや9筋もあって、スルリと抜け出す筋があるかもしれない。

 三浦は▲61飛から入る。久保は△82玉

 結論から言えば、この後手玉は詰んでいた

 ここで▲83金と打って、△同銀に▲73馬と捨てるのが好手。

 

 

 

 

 △同桂、▲83桂成に△同玉は▲81飛成として詰み。

 ▲83桂成△同角も、▲93銀と打つのが「逃げ道から王手」する詰将棋などによく出る手筋。

 

 

 

 

 △同香▲71銀△同玉には▲91飛成以下詰んでいる。

 だが三浦は、この手順を選ばなかった。

 極限状態で読み切れなかったか、それとも筋は見えていたが、踏みこめなかったか。

 となれば久保勝ちかといえば、これまた、そうとは限らないから、話は本当にややこしい。

 自玉に受けがなく、相手玉の詰みも見えない。

 なら、ふつうは負けとしたものだが、ここに最後のワザが残されている。

 特に玉頭戦だと、出てきやすい。

 つまりは「アレ」をしながら、敵のコレとかソレとかを、手に乗って全部「ナニ」してしまえばいいのだ。

 

  (続く→こちら

 

 


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