今日の東京新聞・本音のコラム欄は、文芸評論家・斎藤美奈子氏が「当主のご乱心」との題で、いろいろ皮肉って書いている。ずいぶん、思い切ったことを書くと思ったが、読んでいて、スカッとしたので、紹介したい。
当主のご乱心
斎藤美奈子
この国では数年の一度、与党軍と野党軍の間で天下分け目の戦が行われる。もっともこのところ与党軍の圧勝が続いており、城下の人々は悪政に苦しんでいた。
ことの発端は野党軍を陰から支えてきた連豪家の当主に芳野御前が選ばれたことだった。何を思ったか、就任早々芳野氏は野党軍の要である立剣家との協力関係を破棄するといいだした。
「妾(わらわ)は立剣家と同盟を結んでいる京算家が気に入りませぬ。京算と手を切らぬ限り、今後立剣に協力するつもりはないから、そのつもりで」
突然の心変わりに驚いたのは立剣家の重臣。
ま、まことか。京算と共闘しない限り与党軍に勝つことはできぬ。それは芳野殿とてご存じのはず。連豪は与党軍を利するおつもりか」
「歴史をさかのぼれば、連豪家と京算家はもともと犬猿の仲だった。とはいえ、今は非常時。同盟相手を好む好まぬといっている場合ではない。
「このままでは士気にかかわる。この際、連豪家を切るべきではござらぬか」と意見する家臣もいたが、戦のたびに兵の動員を連豪に頼ってきた立剣家にはそれもできない。その一方では、与党軍の地民家当主が芳野御前に秋波を送り、さらにこの内紛をひそかに歓迎している勢力もあった。新興の異芯家である。
決戦は半年後。剣呑な日々が当分続きそうである。
(文芸評論家)
当主のご乱心
斎藤美奈子
この国では数年の一度、与党軍と野党軍の間で天下分け目の戦が行われる。もっともこのところ与党軍の圧勝が続いており、城下の人々は悪政に苦しんでいた。
ことの発端は野党軍を陰から支えてきた連豪家の当主に芳野御前が選ばれたことだった。何を思ったか、就任早々芳野氏は野党軍の要である立剣家との協力関係を破棄するといいだした。
「妾(わらわ)は立剣家と同盟を結んでいる京算家が気に入りませぬ。京算と手を切らぬ限り、今後立剣に協力するつもりはないから、そのつもりで」
突然の心変わりに驚いたのは立剣家の重臣。
ま、まことか。京算と共闘しない限り与党軍に勝つことはできぬ。それは芳野殿とてご存じのはず。連豪は与党軍を利するおつもりか」
「歴史をさかのぼれば、連豪家と京算家はもともと犬猿の仲だった。とはいえ、今は非常時。同盟相手を好む好まぬといっている場合ではない。
「このままでは士気にかかわる。この際、連豪家を切るべきではござらぬか」と意見する家臣もいたが、戦のたびに兵の動員を連豪に頼ってきた立剣家にはそれもできない。その一方では、与党軍の地民家当主が芳野御前に秋波を送り、さらにこの内紛をひそかに歓迎している勢力もあった。新興の異芯家である。
決戦は半年後。剣呑な日々が当分続きそうである。
(文芸評論家)