思い出の釣り・これからの釣り

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ドライフライのハックルの真実(天然ハックルの色割合)

2019-02-17 21:03:56 | ハックル/Hackles
毛針に使うハックルで一番優先されるもの。ダンを模したドライフライであれば水面に高く乗るための固くて密にバーブが生えたハックルが機能面で重要でしょうし、ウェットフライであれば、ヘン、或いはソフトフェザーの鶏のハックルの柔らかさが重要かも知れません。しかし、それにも増してハックルの色を選ぶのが毛針を巻く際にまず最初に釣り人が行う事だと思います。以前、数あるフライ・パターンをキチンと巻くために英国の伝統的なハックルの色の呼び方を基本にした15のハックルの色の区分を載せました。シングルカラーでは、ホワイト、クリーム、ジンジャー、レッド、ブラック。バイ・カラーでは、バジャー、イエロー・バジャー、ファーネス。バードでは、クックー、クリール、グリッズル。ダンでは、ダン、ブルーダン、ラスティーダン、ハニーダン。その他左記どれにも当て嵌まらないものはオフ・カラーとした分類です。ファーネスにはコッキー・ボンデュも含む等、更なる細分化も出来ますが、取り敢えず、フライパターンを間違いなく後世に伝えていくための色の区分です。


しかし、ブルーダン、ハニーダンは殆ど見ることが出来ませんし、レッド(茶色)はどこでもお目にかかる事が出来ます。また、最近はブラックを見ることが難しくなっております。ブルーアンダルシア、白色レグホン等、鶏の種類と色が一体化しているものは別にして、通常の鶏のハックルの色の割合はどんなものなのでしょうか。
ハックル研究のバイブル、The Book of the Hackleの108ページに1936年よりハックル商を営んできたSam Harris氏が寄稿した、1970年代以前英国が中国から買っていたハックルケープの色の割合の概数が載っておりますので、下記ご紹介致します:

Red: 26% (上の写真の様な茶色のハックルを英国の伝統的な呼び方ではレッドと言う)
Light Red: 6%
Chocolate: 2%
Ginger: 4%
Pale Ginger: 1%
Black/Red (not furnace): 12%
Furnace, Cochy Bondhu,
Greenwell: 3%
Cree: 12%
Grizzled: 4%
Badger: 4%
Light Sussex: 4%
Natural Black: 2%
Nondescript: 6%
White, Cream: 9%
Rejects: 4.9%
Duns: 0.1%
--------------------------------
Total: 100%


最初の写真は、当方が以前入手した戦前から戦中にかけての英国のお医者さんの毛針用マテリアル・コレクションの中で見つけた手製のハックル見本。上の写真は更にその一部で、レッドの中でもブラックがリストや基部、先端に乗ったもの。


ゲーム・コック。ハックルの形がそれ以外のものに比べ良い。

上で紹介のハックル色のざっくりした統計では、色の濃淡はあるものの、レッドで46%、クリー(とありますが、これはクックーでは?)12%、ホワイト、クリームが9%、後は数%程で、ダン系統に到っては0.1%しか有りません。つまり自然の鶏のハックル色は、ご先祖であるジャングル・フォウルの色、レッドが圧倒的で後は米国で言うグリズリーとホワイトが続くと言うもの。これは自然の鶏のハックル色なので、毛針用に飼われる鶏の場合とは必ずしも当てはまらないでしょうが、釣り人が珍重するハックルは極めて少数の鶏からしか取れない事が見て取れます。


これはレッド以外のハックルの見本。


Pale Blue Cockのブルーのリストとハニーの色は中々お目にかかれないもの。


但し、色は良いのですが、シェイプとバーブの硬さがドライフライ用としては今ひとつ。Frank Elder氏がBaigent博士のハックルを「色は素晴らしいがシェイプと硬さがダメ」と評した事が思い出されます。


Cream。ペイル・ジンジャーが先端に乗っております。


White Furnace。これは基本分類ではオフ・カラーでしょうが、芯黒・先黒の面白いもの。


これもWhite Furnaceと記載されているもの。これはイレギュラーなバジャーと分類しても良いかも知れません。


Sam Harris氏の語るハックル・ビジネスの過去の発展はとても興味深く、更に現在でも世界のフェザー・ダウン業界を仕切るポーランド・ユダヤ系の人達が如何にその地位を築いたか等、以前ハンガリーにいた際、国際フェザー・ダウンビジネスの一端を知る機会を得た事もあり、なる程というお話もあります。
さて、Harris氏曰く、戦前の英国のハックルケープの供給源は鶏肉市場で、市場では鶏のケープを鈍いナイフで切り裂き、ケープの裏には新聞紙を貼って色に関係なく一枚1ペニー程度で投げ売りしていたそうです。


このジンジャー・ハックルケープの裏側には正に新聞紙が貼られ、鶏肉市場からやってきた事が分かります。


これは、同じ様に新聞紙を裏に貼ったハックル・ケープですが、米国ジェネティック・ハックル全てを遡ると行き着く、元祖Harry Darbee氏の作ったハックル・ケープ(私は所有しておりません、念のため)。Darbee氏のオリジナル・ハックル・ケープは米国では好事家が血眼になって探すそうですが、オリジナルである事の裏書きがこの新聞紙。Darbee氏は英国人と同様にケープを処理していたのでした。

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2 コメント

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嬉しくて涙が出ます! (Kebari and Fly)
2019-02-19 00:44:58
和式毛鉤でも、芯黒先黒等と説明してもご理解を得られず、そこに斑入りがとまでなりますと田舎の毛鉤程度がそこまで拘っていたのかとされていました(笑)戦前の釣本は、その点を説明されていたのですが何時の間にか茶・黒・白の単純な記載がほとんどとなり、有ってもリストが黒のファーネス迄。未だにグリーンウェルの正式な説明を見た事が有りません。ましてハニーダンともなりますと・・・(笑)
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蓑毛のこだわり (budsek)
2019-02-19 23:36:50
Kebari and Fly様
コメントを頂き大変ありがとうございました。
「蓑毛で誘って胴で食わす」という格言を貴ブログで拝見致しましたが、毛鉤にとり斯様に重要な部位である蓑毛への拘りは世の東西、田舎・都会、関係なくあるのだろうなと想像出来ます。グリーンウェルは芯黒、先黒、蓑毛の色はペイル・レッド~ジンジャーの間?コッキーボンデュは芯黒、先黒に蓑毛の色はレッド?いやいや、コッキーボンデュは蓑毛の槍型の先端部分が黒じゃなければダメ。などなど、名前はあっても実際に誰もが納得する色のコンビネーションは、お手本になる蓑毛/ハックル自体が少なくて、確立に至っていないと思っております。ハニーダンは芯がブルーダンでバーブの先端にかけてハニー(薄い色からレッドに近いものまで)と定義されておりますが、これはレッド系のハックルよりも更に希少。欧州の老釣り師の言に、昔はドライフライを巻くのにインドコックのハックルを数枚使ったが、それで全体的に色々なニュアンスのあるハックルの色を合わせ持つ毛鉤が作れた。今のジェネティックはハックル一枚で巻けるのは良いが、単調な色のハックルにしかならない、というものがありました。実にハックルへの拘りを感じさせる言だなあと感じ入りました。これからも宜しくお願い致します。
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