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飛び出せ! 北の宇宙基地

北の地である北海道で、人工衛星の開発などを行っている 北海道工業大学 佐鳥研究室の活動日記です。

『ハイパースペクトル技術の可能性』 7.環境分野への応用

2007-03-17 13:40:32 | 佐鳥新の教授&社長日記
7.環境分野への応用

近年の異常気象は化石燃料の大量消費による大気中のCO2等の濃度増加は紛れもない事実であり、温室効果ガスの排出抑制の具体的な行動を定めたものが「京都議定書」である。ここでは先進国の温室効果ガス排出の抑制義務が国ごとに定められた。京都議定書では国内努力による削減に加え、より柔軟な発想で世界全体の削減を進めようというスキームが用意された(京都メカニズム)。その一つが排出権取引である。アナリストによればこの市場は2010年までに3兆円規模に達すると予想されている。

このような時代的ニーズにより、衛星からの森林を撮影したスペクトル画像を解析し、単位面積当たりのCO2固定量を算出する研究が電力会社などで行われてきた。(財)電力中央研究所ではタイのトラート州にあるマングローブの森林の衛星画像から葉面積指数(LAI)を測定し、CO2吸収量を評価する実験を行っている。解析例を図7-1に示す。最近の事例では、文部科学省「人・自然・地球共生プロジェクト」の一環として、温暖化予測「日本モデル」作成のために、陸域生態系を地上観測から人工衛星によるリモートセンシングまで広範囲に観測する研究を進めている。



図7-1 人工衛星画像を利用したCO2吸収量の評価例 (HPより引用)


 森林によるCO2固定量の予測には地上での正確な森林地図があればある程度評価できることから、㈱デジックでは「Live Forest」という森林管理用のソフトウェアを開発した。これは全国の森林組合で保有しているデータと航空写真から国内の森林地図を網羅したデータベースであるが、同社の中村社長によれば、2~3年にデータを更新するための費用が膨大であることと、森林組合で使用している地図の誤差は100m以上もあるなど精度が悪いことから、今後は安価な衛星画像への期待を高めているという(注:正確にはスペクトル画像が必要)。

もうひとつの応用として、不法投棄の早期発見に人工衛星を利用した研究事例がある。不法投棄は大きな社会問題でもあり、例えば豊島事件と呼ばれる土庄町豊島への約50万トンの廃棄物不法投棄事件ではその処理には10年間の年月と500億円の公費が投じられた。
循環型社会形成推進・廃棄物研究センターでは不法投棄の現場のスペクトルデータを地上で収集し、そのデータをもとにして衛星のスペクトルデータを解析することにより、不法投棄の現場を発見する実験を行っている。



図7-2 不法投棄現場でのスペクトル調査の様子 (HPより引用)



図7-3 不法投棄地点の衛星画像の例 (HPより引用)



『ハイパースペクトル技術の可能性』 5.食品分野への応用

2007-03-15 08:28:23 | 佐鳥新の教授&社長日記
5.食品分野への応用

食品の特徴的なスペクトルは主に近赤外域に現れることが知られている。近赤外法は1960年代に米国において盛んに研究された穀類の非破壊技術に関連して発展した技術である。当初、同法に関する研究は穀類を対象として水分、たんぱく質、脂質などの主要成分の迅速成分測定に関するものが主であったが、計測装置(ハード)及び解析方法(ソフト)の発展に伴い、測定対象品目は飲料、加工食品、青果物など色々な食品の他に、測定対象成分も主要成分の他、塩分、繊維、灰分、残留薬品など多様なものへと拡大した。

 近年、わが国の食文化は多様化する一方で、一般の消費者は、青果物、及び畜産物などの食に対する安全性に強い関心を持っている。とりわけ食材の鮮度や味覚情報、可視化あるいは数値化して簡単に知ることが強く望まれてきている。また、消費者においては品質管理や食品としての安全性の確認のみならず。生産および流通技術面で鮮度や風味などに関する情報を生かすことも必要になってくる。

 北海道工業大学の佐鳥研究室では、ハイパースペクトルカメラ(HSC)を利用した非破壊測定による分光スペクトルを用いて物理的な測定から、生鮮食品の鮮度評価を行っている。HSCを用いることにより、見た目に違いがなくても、数値的に判断することで食の安全・安心の客観的指標を与え、食品を等級化できるという利点につながる。

図5-1はHSC1700で撮影したキュウリの様子である。変化を際立たせるために、Rの波長域を反射率での変化の差が大きい730nmの波長に合わせてある。1日目は鮮やかな朱色であるが、鮮度が悪くなるにつれて、赤黒っぽくなっていくのが分かる。これは730nmつまりは全体的にも反射率が落ちていることを意味している。グラフを図5-2に示す。グラフから見ても鮮度に比例して反射率が下がっているのが分かる。



図5-1 キュウリのハイパースペクトル画像(擬似RGB表示)


図5-2 キュウリの分光反射スペクトル特性


同研究室ではプラムについても鮮度を数値化することができることが分かっている。一般的に、皮の薄い果実であれば同様な方法で数値化できる可能性が高いと言ってよい。

ハイパースペクトルカメラによる鮮度測定の技術は野菜や果物に限ったものではなく、肉や魚(切り身)にも応用できることが分かっている。詳細については2005年度の三浦理恵の修士論文を参照して頂きたい。

古くから知られる方法として、キュウリの場合にはブラックライトで紫外線を照射すると図5-2の近赤外域での反射率の変化を可視化することができる。鮮度が良いときには真っ赤に光るのに対し、冷蔵庫に保存するなどして鮮度が落ちてくると、劣化した部分が黒ずんで見えるのである。同様な方法で生卵の鮮度を評価できることが分かっている。その一例を図5-3に示す。


     左図:可視光写真      右図:紫外線照射時の写真
図5-3 紫外線照射による生卵の鮮度の可視化

2005年度の私たちの研究室の成果として、農業リモートセンシングで用いられるNDVIを光合成活性度の指標として用いれば、葉もの野菜の鮮度変化を追跡することができることを示した。2006年にはその技術を実用レベルまで向上させることに成功した(詳細については後の章で説明する)。日本光合成学会の幹事である東京大学大学院新領域創成科学研究科・先端生命科学専攻の園池公毅先生からは本装置が原理的に植物の光合成量を定量的に計測しているというコメントを頂いている。また鮮度保持の技術にも応用されるマイナスイオンという概念を世界で初めて創った権威者である東京大学医学系研究科の山野井昇先生からは、鮮度という目に見えない概念を数値化するという意義は、その関連分野を考えると計り知れない波及効果があるというコメントを頂いており、それを総括的に分析できるハイパースペクトル技術の潜在性を想起させる。

事実、この技術に対する問い合わせは、花き市場、農産物の収穫適期予測をこれまでの勘頼りから数値化できることへの期待による農協など農業生産者市場、スーパーマーケットへの保鮮フィルムや保鮮効果のあるパックを販売している業者および様々な効果をうたっている肥料メーカーが自社商品の効果を客観的に証明することへの期待からの新規市場が急速に成長し始めている。この技術は北海道新聞、読売新聞、日刊工業新聞等だけではなく、日本農業新聞、農経新聞、(社)農林水産先端技術産業振興センター(STAFF)のニューズレター、(社)日本施設園芸協会など専門誌に多数取り上げられた。

鮮度をモニターする別の手法として、西澤潤一らは東北大学農学部テラヘルツ生物工学部寄附講座でテレヘルツ波が農産物の水分含有量の可視化に役立つことを利用して鮮度に関する情報を非破壊的に試みた研究例がある。植物生理学への貢献は期待できるものの、システムが大掛かりであり実用化には不適であることなど課題を残している点は否めない。



『ハイパースペクトルの可能性』 4.農業分野への応用

2007-03-14 07:07:07 | 佐鳥新の教授&社長日記
4.農業分野への応用

農業にスペクトル技術を応用した研究は主に北海道を中心にコメや麦で1980年代後半から行われてきた。農業リモートセンシングの分野では正規化植生指数(NDVI)と呼ばれる指標が植物の活性度(光合成能力)を反映していることが経験的に知られている。
農業リモートセンシングでは、基礎データとしてまず圃場に植えられている葉の先端部のスペクトルデータを採取し、その位置でのタンパク含有量や収穫量などをサンプリング的に測定し、衛星画像から得られるNDVI値との相関を求めておく。その関係式を全画像に適用することにより、コメであればタンパクマップを、小麦の場合には収穫予測マップを作成する。人工衛星にはフランスのSPOTやアメリカのIKONOS、最近ではQuick Birdなどが使われている。

一般に衛星画像から圃場を切り出す作業が実際には手間がかかると言われており、ここでは2種類の方法を紹介する。北海道で最初にタンパクマップ作成において本格的な取り組みがなされたか上川地区では、当時既にGISデータが整備されていたことが有効に働き、各農家の圃場別に農業指導が出来るところまで試みられた(残念ながら補助金が切れたことを期にこの取り組みは終了した)。

現在でも実験が進められている空知地区では、まず水田に水張りをした直後に衛星で中間赤外画像を撮影し、水の存在する領域だけを同定するための地図を作成する。次に8月最終週に圃場を撮影してNDVIのマッピングを行い、予め作成しておいた圃場エリアの上にNDVI値を切り出して貼っている。

いずれの方法でもデータ解析に多額の人件費がかかってしまうことと、衛星画像が非常に高価であることと(IKONOSでは一枚あたり200万円程度)、撮影リクエストが通りづらいことが農業現場での大きな課題となっている。しかし、新潟の越路町のように吟醸酒用にコメのタンパク含有量をコントロールする技術として衛星画像を積極的に活用し、国産米では最も高品質といわれている魚沼産のコシヒカリの2倍の利益を上げているところもあることから、これらの課題が解決できれば農業リモートセンシングはこれからの精密農業には欠かすことのできない技術となることは間違いない。



図4-1 スペクトルデータから作成したコメのタンパクマップ
(提供:富士通北海道システムズ)



図4-2 小麦の生育情報マップ
画像から推定した小麦の生育状況(音更周辺)。赤は倒伏箇所、成熟の早い順から黄、緑、青で示す。(提供:北海道立中央農業試験場 安積大治氏)

ハイパースペクトルカメラを用いた研究としては、北海道工業大学の三浦理恵が2005年に北海道立中央農業試験場との共同研究により小麦の生育とスペクトル画像との相関に関する研究を行った。彼らは内部の子実の状態がある程度、葉の表面に影響が出やすいことに着目し、葉の特徴点を抽出することによって中の実の状態をある程度予測できるものと考え、ハイパースペクトルカメラ(HSC)を利用した小麦の葉の分光反射スペクトルの影響を調査し、窒素の施肥の違いによる、蛋白含有率、葉緑素、総重量などの小麦の子実との関係を定量的に求めた。

『ハイパースペクトルの可能性』 3.衛星搭載用ハイパースペクトルセンサー

2007-03-13 08:28:28 | 佐鳥新の教授&社長日記
3-1 リモートセンシング用ハイパースペクトルセンサー

 人工衛星に搭載するハイパースペクトル技術は従来のASTER、LANDSAT等の、マルチスペクトルセンサーと比較して波長分解能が細かく、多くのスペクトル情報を提供できることから、植生の活性度測定による農業分野で応用、資源探査、汚染状況監視等多くの分野で期待されている。この技術は経済産業省の宇宙分野での戦略マップにおいても重要項目として取り上げられている。




図3-1 経済産業省 技術戦略マップ(分野別技術ロードマップ)


ハイパースペクトルセンサーは、グレーティング、プリズムなど連続的に波長を選択できる部品を用いて分光することにより、連続的で波長分解能の高い画像データを得ている。ハイパースペクトルセンサーは航空機搭載用センサーとしてはAVIRIS、CASI、AISAなどが既に使用されており(何れも海外製)、国内ではパスコが2004年頃から研究機関を対象にAISA HawkおよびAISA Eagleのサービスを開始している。
衛星搭載用センサーとしては、2000年にNASAにより打ち上げられたEO-1に搭載されたHyperionおよび2001年にESAにより打ち上げられたPROBAに搭載されたCHRISがある。Hyperionは600-1000nmの60バンドと1000-2500nmの150バンドの2種類のセンサーを搭載した。一方、CHRISは400-1050nnの61バンドのセンサーを搭載した。




図3-2 ハイパースペクトルセンサー撮像概念図
(衛星リモートセンシング用ハイパースペクトル技術高度化の調査報告書より抜粋)




図3-3 マルチスペクトルとハイパースペクトルセンサーのスペクトルバンド比較
(衛星リモートセンシング用ハイパースペクトル技術高度化の調査報告書より抜粋)

近年では伊藤忠商事が中心となった情報収集衛星搭載用の大型かつ高分解能なハイパースペクトルセンサーを開発する動きがある。伊藤忠商事は株式の67%を所有する主幹企業となり、㈱イメージワン、㈱NTTデータ、㈱JSATらとコンソーシアムを組んで、2004年に企画会社として㈱ワールドスペクトラムを設立した。マルチスペクトルとハイパースペクトルの選択には賛否両論あるものの、国家も注目している技術であることは間違いない。

以上をまとめると、リモートセンシングの分野におけるハイパースペクトル技術は現時点では基礎研究の域に留まっており、実用化レベルの事例は未だ見当たらないが、これからの活用が期待される。


3-2 ハイパースペクトルセンサーの技術動向

AVIRIS、CASI、AISAなど航空機リモートセンシング以外の用途としてハイパースペクトルセンサー単体でも幾つか販売されている。例えば、数年前からJFEテクノリサーチ社がフィンランドのSpecim社のハイパースペクトルセンサーImSpector(380-2400nm帯のラインセンサー)を、2006年から株式会社アルゴがNASAのスピンオフ商品としてUV100E(紫外)、VNIR100E(可視-近赤外)、SWIR(近赤外)の 3種類のハイパースペクトルカメラの販売を開始している。国産品では2004年5月に北海道衛星株式会社(北海道工業大学の大学発ベンチャー)が株式会社エイティーエフと共同開発し、従来の5~10分の1のコストでハイパースペクトルカメラHSC1700を完成させた。

 ImSpectorは日本国内の印刷業界で塗装ムラの検出用センサーとして相当数使用されたと聞いている。NASA仕様の製品は2000~3000万と非常に高価であることから、国内ではあまり普及していない。HSC1700は北海道工業大学、北海道大学、北海道立農業試験場らが基礎研究に使用し、学術的成果を上げている。HSC1700には全国の企業が注目し始めており、2005年~2006年の2年間だけで数十の企業や研究所から問い合わせがあった。そのうち数社が佐鳥研究室と共同研究(実験)を行い、ハイパースペクトル技術の認知度は徐々に上がりつつある。


『ハイパースペクトル技術の可能性』  2.ハイパースペクトル技術とは

2007-03-12 17:19:12 | 佐鳥新の教授&社長日記
2.ハイパースペクトル技術とは

ハイパースペクトル技術とは、分光器と画像を組み合わせたデータを扱う技術であり、画像の各ピクセルで成分分析されたデータを2次元画像として視覚的に表現することができる。ハイパースペクトルの研究は1980年頃から少数の研究者により研究されていたが、大容量のデータを扱うことから、その価値が注目されたのはインターネットの普及によりパーソナル・コンピュータの処理速度が急速に向上した1990年代後半頃からといえる。ハイパースペクトル技術は主としてリモートセンシングの分野の技術として発展してきたが、一方、ハイパースペクトルという名称は使っていないものの、同様な技術は、惑星探査用光学センサー、医療、バイオ、食品分野など多方面の分野でも独立に研究されてきた。そこで本論文では、分光スペクトルと画像処理を組み合わせた技術を“ハイパースペクトル技術”と定義し、これらを分野横断的かつ総括的に扱うことを試みる。

『ハイパースペクトル技術の可能性』

2007-03-12 17:15:14 | 佐鳥新の教授&社長日記
今日から『ハイパースペクトル技術の可能性』を連載する。


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1.宇宙開発のスピンオフとしてのハイパースペクトル技術

 2003年4月に北海道内の有志と共に北海道衛星という農業リモートセンシング衛星の打ち上げを旗印に立ち上げた時からスタートした。このプロジェクトの目的は民主導の新しい宇宙産業の創出を目的とする事業であり、『宇宙産業創造プロジェクト』と命名されている。宇宙産業創造プロジェクトは21世紀以降の宇宙時代を迎えるための準備として位置づけられている。小型衛星の開発だけではなく、それと同時進行で衛星プロジェクトに必要となる資金確保のためにスピンオフ事業を立ち上げている点が、国内の他の小型衛星プロジェクトとは大きく異なっている。2006年9月23日に打ち上げられた北海道初の超小型衛星『HIT-SAT』の成功は本プロジェクト実現に向けての大きな弾みとなった。 

 北海道衛星1号機にはハイパースペクトルカメラという特殊な分光カメラが搭載される。2003年から北海道工業大学と道内企業との共同研究により開発に着手し、2004年5月に製品化に成功した。ハイパースペクトルカメラはリモートセンシング以外の分野、例えば農業、食品、自動車業界(ITS)、化粧品、医療、バイオなど幅広い分野での応用が可能であり、ハイパースペクトル技術を軸として分野横断的に新しい学問体系を構築できる可能性がある。

このような観点からスペクトル技術が応用可能な研究事例を集め、ハイパースペクトル技術の全体像を俯瞰することにする。






『学ぶ心』

2007-03-07 22:23:33 | 佐鳥新の教授&社長日記
今日読書していた本のしおりに書いてあった松下幸之助氏の言葉が印象に残ったので紹介する。


『学ぶ心』  松下幸之助

学ぶ心さえあれば、万物すべてこれわが師である。
語らぬ医師、流れる雲、つまりはこの広い宇宙、
この人間の長い歴史、
どんな小さなことにでも、
どんな古いことにでも、
宇宙の摂理、自然の理法がひそかに脈づいているのである。
そしてまた、人間の尊い知恵と体験がにじんでいるのである。
これらの全てに学びたい。


読書メモ(レーザー応用光学)

2007-03-06 22:25:36 | 佐鳥新の教授&社長日記
書 名:レーザー応用光学
著 書:小原 實  神成 文彦  佐藤 俊一
出版社:共立出版株式会社





第1章 フォトリフラクティブ効果と位相共役光学

・LiNbO3結晶などを使ってレーザーの非線形効果を起こすと、位相共役波と呼ばれる不思議な光が発生する。

・位相共役波はあたかも時間を戻しているかのように振舞うことから、時間反転波とも呼ばれている。

・この効果をホログラフィックメモリーに応用すればDVDなどのディスクメモリーの10倍以上の容量を記録することができると考えられている。


第2章 超短パルスのフーリエ光シンセサス

第3章 パルス圧縮光学

・パルス幅とスペクトル幅の不確定性原理による時間波形の広がりを持った状態をチャープ(chirping)という。

・チャープを利用すればパルスの時間波形を広げることができるので、ピークパワーを低く保つことができ、それを利用したチャープパルス増幅はフェムト秒増幅手法の常套手段。

・パルス圧縮の原理: プリズムペア、回折格子ペア、グリズムペア


第4章 高強度超短パルスレーザの科学的応用

・レーザーによる電子加速(加速器への応用)。プラズマ中に高強度のレーザーを入射し、レーザーの強度振幅波によって生じるポンディロ・モーティブ力により電子を相対論的速度まで加速することができる。


第5章 スクイズド光の発生と応用

・KNbO3結晶を用いて2次の光パラメトリック発振により、真空の捩れのような状態を実現することにより、ゼロ点振動よりもノイズの少ない状態を作り出すことができる。これをスクイズド光という。

・スクイズド光を利用すればノイズの無い光通信システムを構築できる期待がある。


第6章 レーザーによる微粒子のマニピュレーション

・物体が周囲とは異なる屈折率を持つ場合、必ず光の屈折が起こるが、その時に光の曲がった方向とは反対方向に反作用を受けることになる。これをうまく使うことによって微生物や細胞を光ピンセットのように非接触で操作することが可能となる。

・光ピンセットで赤血球をトラップした事例など

・生体に応用する際のレーザーによる細胞へのダメージに関する注意事項:パルスレーザを使う場合には2光子吸収では温度上昇によるDNA構造への障害が起こることがあるので要注意。


第7章 レーザーの医学応用

・眼底治療への応用
 浅い場合にはヘモグロビンの吸収率が高い577nmが良く、眼底深部の治療には光侵入長の長い630nmが良い。

・近視治療への応用

・皮膚科・形成外科領域の治療への応用
・近赤外分光による代謝機能計測
 酸化ヘモグロビンと脱酸化ヘモグロビンでは600~800nmでは吸収スペクトルに差が生じることを利用して生体組織の酸化度を知ることができる。但し、信号強度が微弱であることから、検出方法に課題が残る。

・蛍光分光による病変部の特定
 NPe6という物質を投与すると、この物質は主として腫瘍や脂肪組織に集中する性質がある。これらの病変部組織を664nmの光で励起すると、670nmにピークを有する蛍光を発する。この性質を利用して内視鏡などで観察すれば病変組織の発見につながる。


第8章 レーザー冷却

・レーザーを連続的に吸収させることにより原子の運動量を減少させ、冷却させる手法。

・ドップラー冷却

・サブドップラー冷却

・偏光冷却

・サブrecoil冷却

・ラマン冷却


第9章 レーザーマイクロプロセシング

・光造型への応用など