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第562回 人名いろいろ7 名字編-1

2024-02-09 | エッセイ
 シリーズ第7弾をお届けします。(文末に直近2回分へのリンクを貼っています)。
 今回のネタ元は、「名字の謎」(森岡浩 ちくま文庫)という興味深い本です。日本人の名字・姓(以下、「名字」)をめぐって、そのルーツ、珍しい名字など様々な話題が取り上げられています。名字にはそれぞれ由緒、由来があります。それらに十分敬意を払いつつ、珍しい名字を中心にご紹介することにしました。最後までお付き合いください。

★名字の数★
 日本人の名字って、どれくらいあるんでしょうか?著者は、10万から30万と推定しています。随分、幅があります。戸籍制度が完備している我が国ですが、利用にあたっては、いろいろ制約があり、それだけに頼ることはできないようです。また、新旧の字体(例:澤と沢など)や異体字(例:島と嶌など)、さらに、読み方で、濁る、濁らないをどうカウントするか、などの問題もあります。そのため、いろいろ苦労、工夫を重ねても、これだけ幅のある数字になるようです。ちなみに、韓国の名字は、270種類です。でも、金(キム)、朴(パク)、李(リ)、崔(チエ)の4つで約半分を占めるといいますから、同姓が多く、「慶州の金」のように出身地を付けて名乗るのが普通だそう。中国は、約1000種類です。日本の種類の多さが際立ちます。
 なお、著者による多い名字のベスト10は、多い方から順に、
佐藤、鈴木、高橋、田中、渡辺、伊藤、山本、中村、小林、加藤、(次点 吉田)となっています。なるほど、友人、知人の顔がいろいろ思い浮かびます。
★ユニークな名字がいっぱいの街★
 富山県西部、庄川の河口に新湊市という小さな市がありました。現在は合併で「射水市」となっています。こんな街並みです。

 人口4万人ほどの市ですが、江戸時代は、加賀藩の港町として栄えました。ユニークな名字、しかもいろんなジャンルのものが多いことで知られます。
 海、魚関係ではずばり「魚」のほか、「海老」「鯛」「魚倉(うおくら)」「波」「灘」など。
 食べ物だと、「米(こめ)」「酢」「飴」「菓子」「糀(こうじ)」のような例も。
 家屋まわりでは、「桶」「風呂」「綿」「瓦」「壁」「横丁」などがあり、
 動植物だと、「牛」「鹿」「鵜」「菊」「草」などの名字も。
 そのほかにも、「山」、「松」、「地蔵」、「音頭」、「旅」、「大工」など、驚くほどバラエティに富んでいます。これらの名字の多くが、射水市独自のもので、近隣の街では見られないといいます。商売の屋号などが由来ではないかと著者は推測していますが、なんとも不思議な街です。

★まるで判じ物ー月日そのままの名字★
 代表選手は、「四月朔日」さんです。「わたぬき」と読みます。昔は、4月1日になると、袷(あわせ)の着物から綿を抜いて、単衣(ひとえ)にした風習に由来します。富山県を中心に、日本海側に点在する名字だそう。「八月一日」と書いて「ほづみ」という名字があります。8月1日に稲の穂を積んで神様に供える行事が元になっていて、群馬県を中心に、関東に多い名字とのこと。かつての暮らしぶりが伝わってきます。
★50音順の始めと終わり★
 学校などではなにかにつけて、名字の50音順で、というのが普通でした。山田さんとか渡辺さんとかは、最後の方になるので、なんとなく気の毒に思ったりしていました。
 さて、その50音順ですが、さすがに「あ」ひと文字の名字はないようです。「あい」と読む「阿井」、「藍」、「愛」、「相」さんなどがが挙げられています。おっと、もっと前があるというのです。それは、佐賀県に実在する「最初さん」。なるほど~、著者に座布団1枚。
 終わりのほうだと、「わん」がつく名字があるのですね。椀田(わんだ)、湾野(わんの)、湾洞(わんどう)などが挙げられています。そして、著者があげる大トリが、「分目」(わんめ)さんで、千葉県市原市にルーツがあるそう。50音順で呼ばれるなら、間違いなく最後でしょうね。
★名字でナゾナゾ★
 先ほどの判じ物に似ていますが、まるでナゾナゾのような名字が実在します。
 「月見里」で「やまなし」と読みます。月見を楽しむには、山がないほうがいいから、という謎解きです。「小鳥遊」で「たかなし」と読ませます。鷹のような強い鳥がいなければ、小鳥たちも安心して遊べる、というわけです。
 極め付けは、「一口」という名字。「ひとくち」ではありません。出口が一つしかない建物から、人々が一斉に出ようとすると、こういう状態になります。そうです「いもあらい」と読みます。う~ん、これは参りました。

 いかがでしたか?同書からのネタがまだ少しありますので、いずれ続編をお届けする予定です。なお、直近2回分へのリンクは、<その5 海外編><その6 開高健編>です。合わせてご覧いただければ幸いです。それでは次回をお楽しみに。
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