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第561回 ちょっぴり驚きの英国史2

2024-02-02 | エッセイ
 続編をお届けします(文末に前回分へのリンクを貼っています)。英国出身のフリージャーナリストであるコリン・ジョイス氏の「驚きの英国史」(NHK出版新書)から、あまり知られていない歴史上のエピソードをお届けします。前編ともどもお楽しみください。

★長弓へのノスタルジー
 「イギリスの法律では、自由な身に生まれた男性は日曜日に必ず弓矢の練習に行かないといけないんだ」(同書から)と真面目に信じているイギリス人がいるというのです。「長弓」と呼ばれるご覧のような武器です。

 そういう法律が存在したのは事実で、何世紀にもわたってフランスとの戦いを有利に進め、勝利にも貢献してきました。法律が効果を発揮するようになったのは、14世紀のエドワード3世の時代からです。長大なだけに軽い甲冑なら遠くからでも射抜く威力があり、高い命中精度を誇ります。ただし、使いこなすには日頃から練習に励み、扱いに習熟しておくことが欠かせません。そのための法律、というわけです。そして、その効果は、1332年に宿敵スコットランドを打ち破り、その後のフランスとの100年戦争でも、いくつかの重要な戦いを勝利に導くことなどで実証されました。
 その後、一旦廃止されたこの法律は、16世紀のヘンリー8世の治世になって再び施行されています。よほどイギリス人の心性にマッチするようです。さすがに19世紀ともなると、銃、大砲などの火器が戦争の主役となって、時代の趨勢に合わなくなり、法律は廃止されました。それでも、その存在を信じる人がいる理由を、著者は「もしかするとイングランド人は、この武器にノスタルジーのようなものを感じつづけているのかもしれない」と書いています。イギリスが強かった時代への郷愁ですかね・・・・ちょっと頬が緩みました。
★クリスマス休戦
 ヨーロッパを舞台にした第一次世界大戦は大変な消耗戦でした。当時の戦争は、数百万の兵士が悪臭を放つ塹壕に身を潜めて銃撃しあう、というのが主流です。お互いの塹壕を隔てる幅数百メートルのエリアは「ノーマンズ・ランド(中間地帯)」と呼ばれる泥んこの土地が広がっています。5ヶ月近く、こんな状況の中で戦っていたイギリス軍とドイツ軍に意外なことが起こったのは、1914年12月のことです。
 前線にいた両軍の部隊がいくつもの場所で殺し合いをやめ、プレセントを交換し、クリスマス・キャロルを歌い、ノーマンズ・ランドでサッカーの試合までしました。この自発的な「停戦」に驚いた将校は、敵と親しくしてはならないという命令を厳しく下し、このような「出来事」は、この時限りでした。
 きっかけは、ドイツ兵が塹壕で歌っているクリスマス・キャロルがイギリス軍に聞こえたことだと伝えられています。「とくにドイツ語の「きよしこの夜」が聞こえたことが、「敵」も同じキリスト教徒だと気づかせることになったといわれる(もう少し正確に言うなら、敵も同じ人間だと気づいたということだろう)。」(同)
「同じ人間だとの気づき」を人類が共有していれば、その後の、そして今も続く戦争はなかっただろうに、と私などはつい考えてしまいます。
 さて、このエピソードを、著者は、いかにもイギリス人らしくクールにこう締めくくっています。「歴史的な観点からすれば、クリスマス休戦はそれほど重要なものではないかもしれない。しかし、イギリス人は、この戦争のなかでは最も「正気」だった時間として大切に記憶している。」
★スコットランドへの気遣い
 英国は、イングランド、ウェールズ、スコットランド、そして北アイルランドの4つの「国」から構成される連合王国です。著者はイングランド出身なので、イングランド中心の話題が多くなっています。そのことに気を遣い、スコットランドがイギリスの発展に果たした役割に1章を割いています。
 政治の世界では、1900年以降、4人の首相を輩出しています。学問の分野では、アダム・スミスの「国富論」が、経済への理解を変え、人々の生活に大きな影響を与えました。
 著者は英国人の1日を追いながら、スコットランド人の発明が、いかに日々の暮らしに貢献しているかを紹介しています(発明者名は一部省略しました)。朝食には、「マーマレード」が欠かせません。雨が降っているので「レインコート」を着て「自転車」で駅に向かいます。乗るのは、いささか時代遅れですが「蒸気エンジン(ジェームス・ワットが発明)」で動く列車です。オフィスでは、郵便に貼ってある「糊つき切手」に目をやり、初めて「商品化されたタバコ」で一服します。さて、終業時刻となり、妻に「電話(グラハム・ベル(てっきり、アメリカ人だと思ってましたけど、スコットランド人だったんですね(芦坊))して帰宅です。家では娘が「テレビ(ジョン・ロギー・ベアードが発明)」を見ています。息子は「宝島(ロバート・スティーブンソン作)」の読書に夢中です。
 う~ん、イギリス人に限らず、私たちも大いにお世話になっている、というのがよくわかりました。
 いかがでしたか?なお、前回の記事へのリンクは<こちら>です。合わせてちょっぴり驚いていただければ幸いです。それでは次回をお楽しみに。
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