A PIECE OF FUTURE

美術・展覧会紹介、雑感などなど。未来のカケラを忘れないために書き記します。

memorandum 048 真実

2012-03-07 23:44:23 | ことば
 まったく執着から離れきるためには、単なる不幸だけでは十分ではない。慰めのない不幸が必要である。慰めがあってはならない。これといってかたちに表せるような慰めが少しでもあってはならない。そのとき、言葉に言いつくせぬ慰めが、ふりくだってくる。
 負い目をゆるすこと。未来にどんな代償も求めずに、過去をそのままに受け入れること。今ただちに、時間を停止させること。それはまた、死を受け入れることでもある。
 「かれは、神のかたちであられたが、おのれをむなしうして……。」この世から脱して、むなしくなること。しもべ(奴隷)の本性を身にまとうこと。時間と空間の中で自分の占めている一点にまで小さくなること。無になること。
 この世の架空の王権を脱ぎ捨てること。絶対の孤独。そのとき、人はこの世の真実に触れる。

シモーヌ・ヴェイユ『重力と恩寵―シモーヌ・ヴェイユ『カイエ』抄 (ちくま学芸文庫)』田辺保訳、筑摩書房、1995年、27ページ。