「よいかサンチョ、人並み以上のことをしなければ人に優ることはできないのだぞ。今われらの身に、たてつづけに降りかかっている嵐は、まもなく荒天がしずまって、われらが順風に帆を上げるようになる前兆じゃて。なぜと申すに、良いことも悪いことも、そうそう長続きするはずはないのであってみれば、われらにずいぶんと悪いことが続いた今、良いことがすぐ近くに来ておるに決まっているからじゃ。だから、わしに起こった災難をそんなに悲しむでない。別に、お前にはかかわりのないことなのだから。」
(『ドン・キホーテ 前篇(一)』セルバンテス作、牛島信明訳、岩波文庫、2001年)