白瀬集落の次が和木の集落、その次が馬首集落である。この集落の地名は文字通り「馬」の伝説に由来している。以下はその伝説である。
「その昔、馬首に五平という百姓がいて、この家が有する(馬)はすばらしい名馬で、昔から「名馬には角がある」といわれているが、この馬にも人間の小指ほどの角が生えていた。この噂は佐渡のみならず越後までひろがり、これを伝え聞いた越後の博労がやってきて大金で買い取っていった。その後、五平は寂しい日々をすごしていたが、ある朝、売ったはずの馬の鳴き声で目を覚ました。馬は五平を慕って、はるばる海を泳いで帰ってきたのである。しかし、越後の博労がやって来て、馬を連れ戻した。それから数ヶ月もたったある日のこと、海岸に馬の死骸が打ち上げられていたが、それは五平の馬だった。馬は五平を慕い、前と同じように泳いできたが、途中で力尽きておぼれた。この名馬の角は今も五平の子孫の家に残っている」
とまあ、赤泊の永来母牛の馬版のような伝説だが、真偽のほどは定かではない。この馬首の集落は小さな集落だが、一歩路地裏に入ると、そこかしこに可愛い庭先があったりして、何とも微笑ましい。午前9時近くになって、雨合羽を着込んだおばさんが自転車に乗り新聞の束を運んできた。それを郵パックサービスを取り次ぐお家へと運び入れ、「御願いします」と言った。多分、集落の人々はこの時間帯になると三々五々、購読する新聞をこのお家に取りにやってくるのではないだろうか?