私は、2011年4月14日に紹介した、東京在住の30代女性の手になる食べログ記事の反響の大きさを想像している。食べログは、「カカクコム東京」と言う会社が運営するグルメ情報サイトで全国展開しているためその影響力の大きさは「佐渡の翼」の比ではないからだ。あの記事を読んだ関西や首都圏在住で佐渡への旅行を考え、海鮮丼を食べたいと思っている人々の中には、このお店への来訪を避け、他の定評のある海鮮丼を提供するお店へと変更する人が出てくるかもしれない。佐渡島民にしても、2000円近くを支払うくらいなら、あの女性が「烏賊は美味しかったが後はそれほどでもなかった」と断じた丼を食べるよりはもっとコスパのいい他店に行こうと考える人が続出するかもしれない。価格に敏感な佐渡島民の事だ、そういう行動に拍車がかかる可能性は否定しきれまい。更には、毎年このお店のお料理を観光案内本に掲載している雑誌社やパンフレットを作成する旅行会社から、今後の掲載を見送らせて欲しいという申し出があるかもしれない。いや、そんな事前通告無しにいきなり非掲載となる可能性だってありうる。となると、あの食べログ記事はこのお店に一種の風評被害をもたらす可能性がありうると言う話になってくる。私はあえてこのお店を擁護したいと思うが、そのお店の一部のお料理だけを捉え、そのお店の真の実力とはかけ離れた評判がネット上を一人歩きするのはいかがなものだろうか?あの食べログのこのお店に対する口コミは2件だけだが、他の1件は絶賛する内容だ。だが、島内では良い評判はそれほど拡散しないが、風評(よくないうわさ)は島中に蔓延しがちだ。
では、このお店が、現実問題として客足に影響が出た場合、最後の手段としてあの記事を投稿した女性やそれを管理運営するカカクコム東京を相手取り、名誉毀損や信用毀損だとして訴えて勝訴する可能性はあるのだろうか?名誉毀損罪や信用毀損罪は親告罪なので、お店側が訴状等の書類を整え印紙代を支払えばいつでも告訴可能である。訴えるのにさほどお金はかからないが手間隙はかかる。最終的には裁判所の判断を待つ以外にはないが、私の見通しでは、単なる個人の主観や感想を述べただけのこの程度の記事では、両罪共にそれらを適用するのには無理があると思う。もし、勝訴の判決を勝ち取るような事があれば、その判例を根拠にして全国の食べ物ブログの管理人達はありとあらゆる飲食店主から訴えられるリスクに晒されるため、表現の自由が制約されかねない事態に陥る。裁判所はそういう社会的な影響を勘案した上での判決を下すので、まず勝訴の可能性は限りなく低いと思う。従って、お店側にはそうした行動に出る事に対する自制を求めたいと思う。もし提訴をすれば、マスコミが騒ぎたてた挙句、ネット上で「この程度の記事で客足が遠のき売上が落ちたと悲鳴を上げるようでは大した店ではないな」などと陰口を叩かれ、返って店の評判を落とし逆効果になりかねない。そんな事にエネルギーを割くよりも、三人もの人が同じ感想を抱いた海鮮料理のどこに問題があったのかを詳しく分析する方が先であろう。
では、別の法的手段を活用し、「カカクコム東京」側に記事削除を求める事は可能だろうか?「カカクコム東京」には、投稿された記事を検閲するシステムが整っており、その利用規約には「事実確認が困難な記述、例えば、スープの中にごきぶりが入っていたなどというそのお店の衛生面に関する記述」などは削除の対象と記載されているが、その他の個人の主観に基づく記述は削除対象とはならない。従って、送信停止処置を求めても食べログ側は応じない可能性があるため、最終的には弁護士に依頼し、記事削除の仮処分を裁判所側に申請すると言う実に金も手間隙もかかるし、お店の評判を落とすだけにしか過ぎない手段しか残されなくなる可能性が高いと思う。こうなるとこの最後の手段はもはや徒労でしかないので、このお店はそんな馬鹿な事はやらないだろう。
私は2008年10月にこのお店を訪問し、その年の12月に「観光案内本に紹介されているが、それほどでもない感じ、このお店は海鮮丼を食べるのに良い場所なのか」と、この女性と同趣旨の記事を投稿しお店側に警告を発した。結果的にその記事は削除されたが、その後ニ年間は客足が途絶える事無く経営は順調に推移したのかもしれない。しかし二年後に訪問した女性が奇しくも私と同じ感想を抱いた。と言う事は、この二年間もの間、海鮮丼の味に改良が加えられなかったのかあるいは改良を試みたが不十分だったのだろうか?訪問時期が10月と言う秋の観光シーズン真っ盛りな時期で一致しているのも何だか因縁めいている。何も知らない観光客は観光案内本に掲載されているから、あるいは旅行社が勧めるから美味しいのだろうと言う思いでこのお店に味丼を食べに来る。彼らは食べて黙って帰って行く。彼らの口に合わなければ二度と佐渡へ来なければいいだけの話だからだ。その不満を旅行社にぶちまけたところで、「美味しかったと礼を言いに来る人が大半だ」との理由から、旅行社の判断でそうした少数の不満はお店へ直接伝わる事は無かったのかもしれない。それが繰り返されてきたところで、2008年12月に、当ブログにその不満を代弁する形で佐ガット覆面調査員の投稿記事が掲載された。その記事を読んだ旅行社や島民からの指摘で慌てたお店側はその記事の削除に奔走したようだ。結果はお店の思惑どおりになったが、それは所詮対症療法にしか過ぎなかったのではないだろうか?このお店は、最初の自店への批判記事の封じ込めには成功したが、佐ガット覆面調査員の登場は後年の辛口記事出現の予兆でしかなかったようだ。鬱積した不満の一部は2009年にヤフーグルメに投稿される形で表面化し、そして2010年12月に東京在住のOLが食べログに辛口記事を投稿し、その内容は日本全国に拡散してしまった。福島原発の事故では初動時に放射性物質の放出を余儀なくされ、結果的には封じ込めに失敗したものの、放射能汚染水の海上への流出のくい止めには何とか成功した。しかし、原子炉本体の損傷部を特定し、その部を修理すると言う根本的な解決策が成されない限り人々の放射能漏れに対する漠然とした不安は解消しない。人の噂も75日で、時が経過すれば放射能汚染に関する風評被害は沈静化するかもしれないが、この漠然たる不安感は事故処理が収束しない限りいつまでも残る。このお店の2年5カ月間の一連の過程を見ていると、何だか原発事故処理の不手際と重なって見えてくるから不思議だ。
原発事故などによる風評被害は事故が収束すれば収まるが、一旦ネット上に流れた評判は永遠にネット上に垂れ流され続け、そして拡散していく。風評被害を生じさせないために、佐渡島民には冷静な行動を求めたいと思う。たまたま海鮮丼に関して辛口記事が投稿されたからと言って、このお店の他のお料理も同列だと軽々に論ずるべきではない。他人がどう言おうと、このお店を訪ねて美味しいお料理を食べたと思えるのならばそれで充分ではないか。このお店のお料理を美味しいと感じる人が大半だが、中には「それほどでも」と感じる人もいる。つまり万人に好まれるお料理などはあり得ないので、お店側はそうした辛口批判にいちいち目くじらを立てるべきではないし、利用する側もネットでの評判などに左右されるべきではなかろう。そしてお店側には今回の投稿を奇貨とし、観光客を落胆させないような海鮮丼作りにいそしんで頂ければと思う。