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ヴェルディ作曲の歌劇『アッティラ』。

2006年12月30日 22時58分09秒 |   歴史音楽の部屋

 

オペラの帝王ジュセッペ・ヴェルディの10作目のオペラ。
デヴュー以来ヴェルディは、19世紀の分裂状態イタリアで巻き起こっていた国土統一運動(リソルジメント)のブームに乗って、一貫して「愛国心」をテーマにした作品を書き続けていまして、このアッティラという作品がその一連の作品の集大成だと言われております。ヴェルディの愛国オペラと言ったら、イタリア第二の国歌ともいわれる合唱『行けわが想いよ、黄金の翼に乗って』のある3作目の『ナブッコ』が有名ですが、その後、同じようなヒットを狙って、『十字軍のロンバルディア人』、『エルナーニ』、『アルツィーラ』などの作品を送り出しているのです。可笑しいのは、古代バビロニアを舞台にしたナブッコもそうですけど、インディアンとアメリカ人の対立を描いた『アルツィーラ』や隣国の救国の英雄を描く『ジョヴァンナ・ダルコ(ジャンヌダルク)』などが、‘とっても愛国的’とされてなぜかイタリアで大いにウケたことです。ちょっとした所にさりげなくイタリア人の心をくすぐる歌詞やメロディを入れる事にかけて、ヴェルディはとてつもなく上手かったんですね。
ましてや今回のアッティラは、首都劫掠を阻止した教皇レオ1世を描いているのだから、その効果はあまりあるものだったでしょう。

ただ音楽は、のちの傑作『アイーダ』や『リゴレット』、『イル・トゥルバトーレ』等に較べると、いささか地味です。いやいやいや、「地味」という言葉は適当ではありませんね。むしろ「愛国心」を鼓舞する為に、音楽は力強さに満ち溢れています。吠え、叫び、猛り、暴力的な迫力の連続です。祈るような楽曲も無いわけではありませんけど、力強さに押し流され、なんだか全体的に一本調子な感じで、聴き続けるのが辛くなってきてしまいます。それが後期の六大オペラと違うところ。まだ、帝王も若かったということですね。ただし、全然悪い作品というわけではございませんで、印象には残らないけど聴き応え(観応え)はある、そんな素敵な作品です。むしろ私のように、「あらすじと題材・素材に関心を持って楽しむ」のが、一番良い鑑賞法だとも思うです。

ヴェルディは台本の優劣をとても重視するオペラ作曲家でした。
このオペラでも台本を巡って、とても複雑な紆余曲折があったのですが、それを眺めているとヴェルディが歴史的題材に対して持っていた覚悟をよく知る事ができて、とても面白いです。
当時のヴェルディには、とても信頼を寄せていた台本作者が2人いました。一人は複雑な歴史素材をコンパクトかつ派手にまとめることに長けたテミストクーレ・ソレーラ。もう一人が、ヴェルディの意向を良く汲んでそつなく書き上げる事が得意なフランチェスコ・マリア・ピアーヴェでした。両者はタイプが異なりますが、どちらも素晴らしい台本作家でありました。かつてヴェルディはソレーラの台本によりナブッコ、ロンバルディ、ピアーヴェの台本によりエルナーニというヒット作を飛ばしています。最初ヴェルディは、アッティラを素材としたオペラの製作をピアーヴェに持ちかけるのですが、当時作曲の依頼が立て込んでいた事もあって、まもなくピアーヴェに別の作品の台本を任せ、アッティラはソレーラの方にお願いすることにします。原作として選んだ『アッティラ、フン族の王』はドイツの劇作家ツァハリアス・ヴェルナーにより1808年に発表された長大な戯曲で、ヨーロッパ全体に大きなブームを巻き起こしていました。ただしこれはとても複雑な構成をもった作品で、今日の目から観ると長すぎて混乱と退屈する部分も多く、どうしてこの原作にヴェルディが目を付けたのかは、謎だとされているのだそうです。(この原作にはベートーヴェンもオペラ化を計画していた事が知られております)
で、原作ではヨーロッパ中をひっかき回したアッティラが最後にイタリアに攻め込むと、ローマの目前で教皇レオに押しとどめられてしまうという展開となっていたのですが、(つまり囚われたブルグント王女であったヒロインは、屈辱の内にアッティラと共にありながら、長い間大王と行程を共にしていくうちに最初抱いていた復讐心が次第に変容していく)、それはヴェルディと台本作者によって劇的緊迫性を得るように大幅に変更されます。ヒロインのオダベッラは蛮族の侵攻から故郷を守るために女ながら戦った勝ち気の女で、捕虜となってからも復讐の意思を何度も叫ぶほどです。原作では死んだ事になっていた彼女の恋人ヴァルター(オペラではフォレスト)も、オペラっぽくするために「実は生きていた」ことにし、アッティラ暗殺計画で活躍します。上記の変更はおそらく台本が書き始められた当初にヴェルディ側から指示された事だと思います。
確かにこれだけの変更だけで、長かった物語がコンパクトに収まり、舞台はあちこちに移ったりせず、事件が起こったアクィレイヤとローマ近辺だけでいいということになるのですから、「失われた故郷に対する熱い想い」「蛮族の野蛮な行為に対する文明人の抵抗」「引き裂かれた恋人同士のドラマ」などという分かりやすいテーマが作品にぎゅっと凝縮され、ドラマチックになったと思います。とりわけヴェルディはまだこの頃は「愛国心」を謳いたかったので、これでよかったんでしょうね。一方で、大陸全体をまたにかけたアッティラという古代の英雄のスケールの大きさと、「神の鞭」という側面は全く失われます。ま、ヴェルディの手を持ってしてもそんな壮大なテーマをオペラ劇で表現するのは無理でしょうけど。(原作の戯曲でそれが表現出来ているのかどうかは、読んだことないので分かりません)。アッティラはせっかくイタリアまで攻めてきて、イタリアの入り口のアクィレイヤを劫掠したのに、何の落ち度もないのに次の目標であるローマには進めぬという理不尽な展開。
ただ、その分の不足分は、台本作者の巧みな腕によって補完されることになっております。その点では、この戯曲のオペラ化を任されたソレーラはまことに適任でした。やはり、この人による偉大な英雄アッティラ大王も、とても存在感があります。ヒロインの恋人役だったフォレストは、ただ不誠実な恋人の理解できぬ言動を憤るだけの役なのですが、これを彼は伝説中にある「ヴェネツィアという世界一の至玉」を生み出した人と結びつけてしまったのです。さらに、ヒロインは舞台上ではとても力強く歌うパワフルなソプラノですが、物語の中のその行動にはいろいろと不可解な点が多く、それがただの「恋人に対する裏切り者」とはまた違って、つきぬけた感じの人物成形の奥深さを醸し出しているのです。


<蛮族の大王アッティラとローマの将軍エツィオ>

★登場人物
アッティラ大王(バス)…ハンガリー平原を本拠とし、ヨーロッパ中を荒らし回ったフン族の大王。とりわけローマ帝国に与えた衝撃は計り知れなく、蛮族なのに“神の鞭”と呼ばれた。
オペラの設定は、イタリア北部の大都市アクィレイヤを陥落させた直後(452年)となっている。それはアッティラの死(453年)の一年前である。これはシャロンの戦いやカタラウヌムの戦いでローマ・ゲルマン連合軍に敗北したあとのこととなるが、オペラの中の大王のセリフは堂々としていて力強いし、仕草にも力があるので、揚々とした生涯の絶頂の中での死だということは分かる。彼に較べると、他の奴らはとても浮わついて見える。
しかし、フン族なのに劇ではなぜだかヴォータンを崇めています。
花嫁オダベッラ(ソプラノ)…本を見ると、「ニーベルンゲン伝説のクリエムヒルトと同一」と書いてある。「一族の仇を討つ為に蛮族の首領と結婚した豪儀な女性」ということですね。でも新婚の初夜でアッティラに大量に鼻血を出させて殺したのは、イルディコです。イルディコ=クリームヒルトでしたっけ? 原作の戯曲では、オダベッラはフン族とローマ軍が共同で滅ぼしたブルグント王国の王女ヒルデクンデということになっているが、オペラ化するにあたってあまりにも物語が入り組んでしまうので、ヴェルディは単に都市アクィレイヤの貴族の娘、ということにしたということです。
でも、ただのヒロインだったらいいんですけど、このオペラでのこのヒロインの行動はあまりにも常軌を逸していて、それが見所である。
騎士フォレスト(テノール)…アクィレイヤの戦士。このオペラの成立経緯を読むたびにヴェルディの手腕を見事だと思うのは、この騎士フォレストの存在である。あえてオペラの物語の舞台を北イタリアのアクィレイヤ近郊としたのは、このオペラがヴェネツィアで初演する為に書かれたからである。それに伴って原作では「恋人を蛮人に奪われた情けないブルグントの青年」という役割だったこの人物を、「フン族の侵攻から逃れて、海の中に町を作ってしまった伝説の人物」に置き換えてしまった。それにより、原作の「蛮族の王が文明世界に対する神の鞭として現れ、しかしその残虐な王はローマ法王に出会う事で神の鞭を受ける」という原作の物語は、「火の洗礼と神の祝福を受けて生まれ落ちた都市ヴェネツィアの誕生物語」に生まれ変わることとなるのです。
このオペラでの彼は、あまりにもわけのわからない行動をする恋人を「裏切り者!」となじることなのですが、なんだかかわいそうなけなげな役です。
ローマの将軍エツィオ(バリトン)…歴史上の将軍アエティウスのこと。実質上のこのオペラの主人公。アッティラと組んでブルグントを攻撃してヒルデグントを捕虜にしたのも彼だし、逆にのちにカタラウヌムの戦いで散々にアッティラを打ち破ったのも彼なのですが、どういうことだか彼はアッティラとタメ語で話せる無二の親友然として常に振る舞っていて、本当にこの人の存在がこの物語の鍵になっていると思う。自分より年下のローマ皇帝について悪態もついているし。(後に彼はその年下の皇帝に暗殺される)
有名なセリフ、「君(アッティラ)には世界を与えよう。だから私にはイタリアを残してくれ」というのがこのオペラ中、一番受けたそうです。
奴隷ウルディーノ(テノール)…ブリトン人の奴隷。どうして彼がフンの奴隷になっているか明らかではないのですが、物語序盤から彼は大王の忠実なしもべとして登場します。しかし中盤で突然、エツィオとフォレストの策謀でアッティラに毒を盛る役として、彼が抜擢されるのです。(その暗殺はヒロインのオダベッラによって阻止されます)。この頃のヴェルディは極限までセリフを削る事に熱心だったそうで、だからどうして彼が忠実な腹心役から変節したのかが明らかではありません。いいヤツだったのに。
老人レオーネ(バス)…その正体はアッティラのローマ掠奪を阻止したローマ法王聖レオなのですが、19世紀は劇でもオペラでもみだりにも法王を登場させてはならないと決まっていたそうで、劇では「ただの爺」として登場します。
で、彼が歌うのはただ一曲(+合唱)。そのセリフは「お前の鞭は人間に対してだけ効く。去れ、ここ(ローマ)は神の地だ」。かっこいい~

平凡社の世界大百科より。

フラウィウス・アエティウス(391頃~454年)
ローマ帝政末期の将軍。高位の軍人を父とし,少年期から青年期にかけてを人質として西ゴートとフンのもとで過ごした。ホノリウス帝の死後は簒奪帝ヨハンネスを支持したが,425年フンの援軍を背景に帝室から恩赦とガリアでの軍指揮権を得て,西ゴートやフランクを破った。その後,人質時代に培ったフンとの友誼を利用して西ローマ政府の実権を掌握し,皇族以外では破格の名誉である3度のコンスル職(432,437,446)のほか,433または434年にはパトリキウスの称号と全軍司令官の地位を得た。ガリア貴族層を主たる支持基盤とした彼は,436年ころフンの援軍を得てブルグントに壊滅的打撃を与える(この戦いがのちに《ニーベルンゲンの歌》の素材の一つとなった)など,ガリア防衛に功績を残したが,ブリタニアからの援助要請にこたえることはできず,またアフリカもバンダルの手に落ちた。451年にはローマとの敵対政策に転じたフンの西進を,西ゴートとの連合軍を率いてカタラウヌムの戦で撃退した。453年アッティラ王の死でフンの勢力が瓦解すると,ウァレンティニアヌス3世はアエティウス除去を決意し,454年9月謁見中にみずからの手で彼を殺害した。

レオ1世 (在位440~461年)
ローマ教皇。イタリアのトスカナ地方出身。キリスト教界におけるローマ司教座の首位権確立に努めた人物で,<大教皇>と称せられる。ローマ帝国西部の教会政治に関しては,445年アルル大司教ヒラリウスの越権行為に関連して,時の西帝ウァレンティニアヌス3世にローマ総大司教座の優位性を確認させた。帝国東部の神学論争にも介入し,448年コンスタンティノープル総主教あての手紙でキリスト両性論を表明し,エウテュケスの単性論を退けた。この手紙はエフェソスのいわゆる盗賊教会会議(449)では無視されたが,カルケドン公会議(451)においては正統教義として認められた。この公会議は同時にコンスタンティノープル総主教座に名目的にはキリスト教界第2の,実質的にはローマと同等の権威を付与したが,レオはこの決議第28条に対しては激しく抗議した。彼はまた,452年にはフン王アッティラを説得してイタリアから退却させ,455年のバンダルのローマ市略奪に際してはとにかくも市民殺戮とローマ市炎上を防ぐなど,世俗面でも活躍した。96編の説教と,若干の偽作を含む173通の書簡が残っている。

ジュセッペ・ヴェルディ作曲
歌劇『アッティラ』

(1846年作曲)

◎DVD◎
リッカルド・
ムーティ指揮、
スカラ座管弦楽団&合唱団、1991年
サミュエル・レイミー…(アッティラ大王)
ジョルジオ・ザンカナロ…(ローマの将軍エツィオ)
シェリル・ステューダー…(アッティラの花嫁オダベッラ)、
カルーディ・カルドフ…(オダベッラの恋人フォレスト)
(イメージ・エンタテインメイント、1991年) 


◎CD◎
ランベルト・
ガルデッリ指揮、
ロイヤル・フィルハーモニー管弦楽団、1972年
ルッジェーロ・ライモンディ…(アッティラ大王)
シェリル・ミルンズ…(ローマの将軍エツィオ)
クリスティーナ・ドイテコム…(アッティラの花嫁オダベッラ)、
カルロ・ベルゴンツィ…(オダベッラの恋人フォレスト)
アンブロジアン・シンガーズ
フィリップス-ユニヴァーサル、2001年) ¥4,600


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