民間の空襲被害者への救済が厳しい状況に追い込まれつつある。国会の会期末まで2カ月を切ったが、厚生労働省の抵抗で自民党内がまとまらず、ほぼ完成している法案提出のめどが立たない。高齢の被害者らが期待を寄せるのが就任前に面談した石破茂首相。戦後80年の政治決断を待っている。(橋本誠、大杉はるか、森本智之)
◆「厚労省がやってくれない」「追い詰められている」
「差別なき戦争被害者の救済を」。全国空襲被害者連絡協議会(空襲連)は19日、他の戦争被害者の3団体と共同で、横断幕を掲げ、休日の銀座をパレードした。夏日を記録したこの日、高齢となった参加者は汗を拭いながらゆっくりと歩みを進めた。
東京大空襲で母と2人の弟を亡くした河合節子さん(86)は花を手に「戦後80年、まだ解決していない問題があります」と呼びかけながら歩いた。終了後、「沿道の人たちはポカンとしてましたが、何か問題があるのかなと思ってもらえたら」と話した。
大空襲で両親と3人の姉を亡くした永田郁子さん(89)は出発地点で「腰が痛くて、長く歩けない」と語った。「戦後80年でも厚労省がやってくれない。邪魔をしないで何とかしてほしい。私たちには戦後は終わっていないですよ。みんないろんな思いを抱えながら亡くなっていく。せめて区切りを」と述べた。
空襲連などはこの前日にも、救済を求める記者会見を開催。23日には国会内で集会を開いた。「法案が動かず、もう待てないところまで追い詰められている」(空襲連の運営委員)との危機感からだ。
◆節目の年、期待は高まったが…
戦後80年の節目の今年、救済法成立に期待が高まったが、厚労省は反論のための文書を作成。苦渋の決断で外した「遺族」が救済対象になると主張するなど被害者感情を逆なでする内容で、会見では「時間稼ぎでは」との質問も出た。だが、自民党厚労族らへの根回しに使われ、高い壁になっている。
院内集会であいさつした、空襲連共同代表の吉田由美子さん(83)は直前に厚労省の反論の内容を聞き、「悔しくて悲しくて『これは国のいじめです』と(あいさつの文言を)書き直しました。失礼かもしれないけど正直な気持ちです」。3歳で孤児となった。救済法を求め、運動の先頭に立ってきたが、共に闘った仲間の多くは世を去った。「国の方にはこれまで『何とか理解してほしい』と頭を下げてきたけど、ばかみたいですよね」と寂しそうな表情を見せた。
ぎりぎりの状況で、空襲被害者らが期待を寄せるのが、石破首相だ。
◆「登山なら9合目まで到達」という状況なのに
空襲連と協調する超党派議連の福島伸享副会長(無所属)は、登山なら現在は9合目まで到達しているとして、「あとの1合は必ず解決できる。石破首相の判断に期待したい」と強調。松島みどり事務局長(自民)は「私も首相には『戦後80年、石破首相という組み合わせの中でしか決められない』と申し上げ、8月14日までの決断を待っているところです」とのメッセージを寄せた。
平沢勝栄会長(自民)は法案提出に向けた動きが停滞していることを陳謝した上で「残された最後の最後で追い抜くこともできる。何としても近いうちに結果が出るように全力で取り組むことをお誓いする」と語った。
◆「国民を守るのが国家の責任」と語った石破氏
首相就任1年前の2023年10月10日、石破氏は衆院第2議員会館で空襲連の7人と面談した。前出の河合さんは「結構気さくに、すぐ近くでお話ししたんです」と振り返る。
空襲連のメモや出席者の証言によると、石破氏は、戦時中の国民に対し、空襲を受けても避難を禁じて消火を義務付けた防空法に疑問を呈し、「防空法で多くの人々が亡くなった」と指摘した。防空法は、空襲の被害を拡大させたとの指摘があり、国の責任を問う根拠の一つになっている。石破氏はその上で、民間人の被害が大きかった理由の調査が必要との考えを示したという。
さらに「市民を死なせては...
残り
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