<汚染の現場から>前編
発がん性が疑われる有機フッ素化合物(PFAS=ピーファス)を含む汚染水が外部に流出したとして、米軍横田基地(東京都福生市など)に国や自治体が、PFAS問題では初めて立ち入りし、20日で1カ月。その後、具体的な動きはなく、本格的な調査を求める声が強まる。東京・多摩地域の地下水汚染は基地が原因なのか—。原因究明に向けた課題と、先行する他県の米軍施設周辺の汚染の現場を探った。(松島京太)
発がん性が疑われる有機フッ素化合物(PFAS=ピーファス)を含む汚染水が外部に流出したとして、米軍横田基地(東京都福生市など)に国や自治体が、PFAS問題では初めて立ち入りし、20日で1カ月。その後、具体的な動きはなく、本格的な調査を求める声が強まる。東京・多摩地域の地下水汚染は基地が原因なのか—。原因究明に向けた課題と、先行する他県の米軍施設周辺の汚染の現場を探った。(松島京太)
◆日米地位協定により日本側が自由に調査活動できない
「撮影禁止。録音禁止。ここで見たものと聞いたことは、日米両政府の合意がなければ公表できません」。米軍横田基地の第5ゲート前で昨年12月20日朝、防衛省職員が20人ほどの自治体職員に、くぎを刺した。
8月のPFAS汚染水の流出事故後、自治体などが要請を続け、日本側の横田基地への立ち入りがようやく実現した。国や都、周辺自治体の関係者が基地内で米軍から説明を受けたが、防衛省職員の忠告は、日米地位協定により日本側が自由に調査活動できないことを物語っていた。
2024年8月のPFAS漏出事故 昨年8月30日、米軍横田基地内の消火訓練エリアにある貯水池のPFAS汚染水約4万7000リットルが豪雨の影響で漏出。一部が雨水溝に流れ込み、基地外へと流出した可能性が高いと米軍が初めて認めた。横田基地では2023年までにPFASの漏出事故が8件発生しているが、米側は基地外への流出を認めていない。
米軍が案内したのは、基地内北東部の消火訓練場と漏出元とされる貯水池。米軍関係者によると、貯水池には消火訓練で使われたPFAS成分が含まれる水がためられていた。2023年11月時点の米軍の調査では貯水池の水から、国の暫定指針値の約32倍に当たる1リットル当たり1620ナノグラムのPFASが検出された。
◆「進展は一切ない。何の意味があるのか」
立ち入りで米軍は「汚染水の一部は焼却処分した」と説明。自治体職員からは「本当に処分したのか」「なぜ残っている水の濃度を測定しないのか」と質問が相次いだ。米軍側から明確な回答はなく、滞在時間は1時間ほどにとどまった。基地関係者が振り返る。「話を聞いて帰っただけで、子どもの遠足みたいだ」
今後、地位協定に基づく環境補足協定による公式の調査として、貯水池のPFAS濃度を測定することになっている。ただ具体的な日程や手法は不透明なまま。ある自治体担当者は「進展は一切ない。しかも水の濃度を測るだけで、何の意味があるのか」と語る。
8月の漏出以外にも、基地周辺への汚染の原因と疑われることがある。消火訓練での散布だ。東京新聞が入手した米軍の2008年の訓練記録写真では、複数の消防車両が出動し、広範囲に泡消火剤がまかれる様子が写っていた。泡が場内のアスファルトをはみ出して土部分に到達したり、アスファルトの切れ目に染み込んだりしている状態も確認できた。
◆「日本側は米軍に詳しく確認する必要がある」
2009年に作成された訓練関係の内部文書によると、訓練では通常、消火剤を散布した後、訓練場の洗浄や消火剤の回収などはせず、そのままにしている運用が記載されている。
横田基地広報部は「現在の訓練では泡消火剤を使用していない」などとし、事実関係や消火訓練の実施期間について回答を避ける。PFASに詳しい京都大の原田浩二准教授(環境衛生学)は「消火訓練も土壌を通じて地下水に影響を及ぼした可能性がある。使用期間や頻度などを日本側は米軍に詳しく確認する必要がある」と指摘する。
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