国際テロ組織アルカイダの指導者ザワヒリ容疑者が米中央情報局(CIA)に殺害された。バイデン米大統領は「戦果」を誇るが、報復の連鎖も懸念される。過激派組織「イスラム国」(IS)も勢力を伸ばしており、米政権は中東外交戦略の見直しが必要だ。
ザワヒリ容疑者はエジプト人で医師。アルカイダの創設メンバーで、二〇〇一年の米中枢同時テロの立案に関与したとされる。首謀者ビンラディン容疑者の死亡後、最高指導者の地位を継いだ。
米政権はザワヒリ容疑者が潜伏していたアフガニスタンの首都カブールの住宅街で無人機のミサイル攻撃で殺害したと発表した。
同国の実権を掌握するタリバンと米国は二〇年、米軍の完全撤退と引き換えに、タリバンは国際テロ組織に領土を使わせず、保護もしないことで合意した。
ただ潜伏先は首都の官庁街に近く、タリバンが知らなかったとは考えづらい。容疑者をかくまっていたとしたら、タリバン政権に対する国際社会の承認に悪影響を及ぼすことは避けられまい。
一方、米国の軍事行動も合意に反する。米国がロシアのウクライナ侵攻を主権侵害と批判しながら自らもアフガンの主権を侵害するのは二重基準にほかならない。
さらに米国の作戦には唐突感もある。アルカイダは近年、弱体化し、ザワヒリ容疑者もイスラム世界では「過去の人」。イスラム過激派対策としては効果が薄い。
バイデン氏は七月、サウジアラビアのムハンマド皇太子と会談した。サウジとイスラム過激派との関係や同皇太子の人権侵害などを理由に会談には批判もあったが、原油増産の要請を優先させた。
しかし、成果は乏しく会談は失敗と評された。中間選挙が迫り、失地回復へ著名なザワヒリ容疑者を標的にしたのではないか。
現実の脅威はザワヒリ容疑者と反目し、アフリカのサハラ砂漠以南で勢力を伸ばすISだ。ISはイラクなどでも再び活動を活発化させており、動向が懸念される。
イスラム過激派の制圧には、影響力を持つイランやトルコなどイスラム諸国の協力が不可欠だ。米国はこれらの国々との関係修復に優先的に取り組むべきである。
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