顧客や取引先が理不尽な要求をする迷惑行為「カスタマーハラスメント」(カスハラ)。その対策を企業に義務付ける法案が国会提出された。安心して働ける職場環境の整備は企業の責任だ。対策を講じてカスハラ防止に努めたい。
関西空港で飛行機に乗り遅れた男性客が接客中の航空会社の20代女性社員に「金返せ。おまえを殺したい」などと迫り、返金できないと伝えた社員の顔に、激高した男は唾を吐いた、という。
大阪府警はこの社員を脅した恐喝未遂容疑で男を逮捕した。女性社員は相当な恐怖を感じたに違いなく、府警はカスハラとみて調べている。
これは一例にすぎず、顧客などが立場を利用して店員や公務員に暴力を振るったり、理不尽な要求をする事例は少なくない。
厚生労働省の2023年の調査では、企業の27・9%が過去3年間に従業員からカスハラの相談を受けていた。パワハラ、セクハラに次いで多く、医療・福祉、宿泊業・飲食サービス業など接客を伴う業種で目立つ。
法案は、カスハラを(1)顧客や取引先、施設利用者らが行う(2)言動が社会通念上許容される範囲を超える(3)就業環境が害される-の3要素を満たすものと定義。企業や自治体に対し、被害に遭った際のマニュアル作成や相談窓口設置など国が示す指針に基づいて具体策を講じることを義務付ける。
パワハラ、セクハラの防止対策はすでに法律で企業に義務付けられているが、カスハラ対策は規定されていない。東京都や群馬県は企業に対応を求める条例を制定、愛知、三重両県などにも条例制定の動きは広がっており、政府による対策強化は当然だ。
ハラスメントは従業員の心身に深刻な被害を与える場合があり、民間に限らず自治体職員も同様。離職につながれば人手不足に拍車をかけかねず、経営者らはカスハラに毅然(きぜん)と対応する責務がある。
顧客側も立場が逆になる場合があり得ることを考え、冷静さを失わないことが求められる。
ただ、顧客が訴える苦情や意見が正当な場合もある。安易にカスハラと考えると顧客の萎縮や排除を招き、企業経営に必要な声が届かなくなる恐れもある。トラブルを減らすには、カスハラか否かを見極める対話技術を磨くなど、研修を充実させることも必要だ。
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