くらげのごとく…

好きなことを考えてふわふわ漂ってるような
時間が心地良かったりする。
たとえ時間の無駄遣いだったとしても…。

組曲虐殺

2009年10月25日 | 観劇


作:井上ひさし
演出:栗山民也
出演:井上芳雄、石原さとみ、高畑淳子、神野三鈴、山本龍二、山崎一
銀河劇場

おっ、何気に出演者の名前に、三、二、一が並ぶってすごい~!

「ムサシ」に続く、井上センセの新作だ。「ムサシ」でかなり精魂尽き果てたと思いきや、さらに意欲がたかまった様で、これもまた緻密な脚本に仕上がっていた。話題の「蟹工船」の作者、小林多喜二の晩年を描く。ムサシに比べれば、近代の実在人物だし、資料もたくさんある。今の時代にリンクすることも多いから題材的には取り上げやすい面があったのではないか。

29歳で虐殺されてしまう多喜二だが、全体を通して重苦しい悲劇ではなかった。「どうして人は平等にパンが食べられないのか、どこかで誰かがパンを買うかねをくすねているのだろう」というプロローグの歌。子どものころにに抱いた疑問が出発点となり、やがて共産主義に身を投じ地下活動に入っていくのだが、彼を取り巻く人々は、心暖かくて愛おしい。懸命に彼を支えたり、慕ったりするのだ。

一途に、純粋に信念を貫き通し、突き進む生きざまが、突如、「虐殺」といった悲劇で切断されてしまう。わずか、数十年前の日本でこんなことが行われていたという事実が不気味だ。国家権力の前で個人の思想などはいとも簡単に握りつぶされる。ここでも、井上ひさし氏の“非戦”という願いが貫かれていた。心をカタカタと動かしながら、“おしくらまんじゅう”をして寄り添う人々。「僕が願っていたことはこういうことだった」と。

栗山演出と井上戯曲は、相性がいい。美術はシンプルで抑え気味、全編、ジャズピアニストの小曾根真氏が演奏する生ピアノの音楽が流れ、要所要所で歌が効果的に使われる。地味だけど抒情溢れる舞台になっていた。だから、同じ井上戯曲でも「ムサシ」が、より異質なもに思えてしまう。本来、こういう音楽劇が井上作品のあるべき姿である気がするのだ。初めから、「ムサシ」は海外を視野に入れていたということなのか。それとも、歌えない二人(藤原&小栗)に無理に歌わせず、芝居だけで勝負ということだったのか。来年、実際、海外でどう評価されるのか気になるところでもある。

井上芳雄くん、精力的に舞台に出演している。ストレートも板についてきて存在感が増していた。歌えるということは強力な武器だ。今回は、ミュージカルの時ような高音を出さず、低い声で歌うことが多く、多喜二の苦労や葛藤を表現していた。

妻になれなかった恋人役は石原さとみちゃん、かわいいよねえ。驚いたのは、歌がかなり上達してたこと。だって、「赤い疑惑」の勿忘草の歌は、竜也くんのギター同様、「へっ??」って思ってしまったもの。う~ん、かなり音程外れていたよね。それが、今回は、一応、外れずに歌っていた。出演者全員で歌うところが多かったからそれにも助けられていたけど、努力したんだなあって感心したよ。

ベテランの高畑淳子さんは久しぶりの舞台だそうだが、さすが、パワフルでいい味をだしている。たとえ、ブランクがあっても舞台出身者は底力がある。厳しい稽古を重ねたことが体にしみついて刻み込まれているからね。

銀河劇場の入り口前にはデカデカと「ANJIN」の看板が置かれていた。そろそろ稽古が始まるのかな。ホームーページで、英語をしゃべっている竜也くんがちょこっと出てくるけど…、まだまだ流暢ってほどではないよね。なんか、英語をしゃべることに照れてるし。竜也くんの日本語はとても美しいが、英語を伝えるとなるとまたニュアンスが違いそうだ。何気にハードルが高いぞ、これは。

ということで、12月から、またまたここに通うことになりそうだ。

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