くらげのごとく…

好きなことを考えてふわふわ漂ってるような
時間が心地良かったりする。
たとえ時間の無駄遣いだったとしても…。

化粧

2011年01月16日 | 観劇



井上ひさし追悼 こまつ座第92回公演
作:井上ひさし
演出:鵜山 仁
出演:平 淑恵
紀伊国屋ホール

その昔、渡辺美佐子さんが演じて話題になったという記憶がかすかにある。渡辺美佐子さんはTVドラマ「源氏物語」で六条御息所を演じているのがぴったりハマッていた。正直、恐い生き霊ぶりに、すごい女優さんだなあという印象を持った。

今回は、平淑恵さんで演出も若い鵜山さんだ。平さんは確か、大岡越前の奥さんだっけ?時代劇の貞淑な妻はどことやら、とても迫力があった。このお話、題名からして大女優のお話かと思ったら、大衆演劇の女座長のお話なのね。主人公、五月洋子の生き様が語られるのだけど、私は、井上ひさしさんの母への想いを感じた。あの笑いのない初期の小説、「49番目の少年」の世界を垣間見た。生き別れた母に会いに来る、売り出し中のスターは井上さん自身の様だ。で、形見のお守りの紐まであっていたのに、鬼子母神の場所が違うという落ちがある。そうか、このネタ、ムサシにも登場したね。「鏡が合って第18位」に奉られる小次郎がおかしかった。井上さんは小次郎にも自分を重ねたのかな。

「孤児院へ行きたくない」とぐずぐず言っているひさし少年に母は実に客観的な口調で言い放つ。「子を捨てる薮はあっても、自分を捨てる薮はない」と。この一言は爆弾だった。この爆弾をかかえて、井上さんは生きてきたのだなあと思う。偉大な作家はマザコンなんだなあ。寺山修司も石川啄木もかな。

化粧をしたり、落としたり、着物を着たり脱いだりしながら、なおかつ他の登場人物が存在するかのように一人で舞台空間を埋めていく。台詞量も膨大だしものすごいハードルが高いお芝居だ。演出も斬新で、重機音と共に、芝居のぼり旗が倒れ楽屋が壊されていく。最後は五月洋子が宙づりになっていた。ちなみに、大衆演劇の所作指導を沢竜二さんがやっておられる。うん、知る人ぞ知る、竜也くんのライバルね。プログラムにも登場しているのが何気に嬉しかった。

これから、このお芝居、全国を回る様だ。井上さん、天国でも忙しそうですね。