くらげのごとく…

好きなことを考えてふわふわ漂ってるような
時間が心地良かったりする。
たとえ時間の無駄遣いだったとしても…。

伝説の瓢箪池

2012年02月17日 | 観劇

「下谷万年町物語」千穐楽から、脳みそがぐちゃぐちゃに掻き乱されて一週間が過ぎていった。
“穐”という文字にもお下の使いの亀がいる。そんなどうでもいいようなことまで気になってしまった。

唐ゼミ 下谷万年町物語
父の名をかたることなく

ネットの解説記事を読んでみたら、時代、思想、人、愛、エロス、郷愁…たくさんのことが絡み合っているこの戯曲の深さがますますわからなくなった。

食べるものもなくて尻にサフランの花を咲かすおかまたちは去勢されたものの象徴。警視総監の帽子は権力の象徴。
同じ男性器でも、ペニスとファルスでその意味合いが違ってくる。男根を奉っている神社なんかもあるし、昔からある割礼の儀式なんかもそういった意味合いがあるのかもしれない。

ふ~~っ、難しい。この戯曲、まるまる学問だね。まるで講義、かなり勉強のしがいあるものだね。

ま、そんなことはさておいて、なんか文ちゃんとキティは“大人になんかなりたくない”ピーターパンみたいだなって感じたり、昭和23年はもう二度と戻ってこないと確信したりした。

サフラン座の三人が中心の物語だけど、切なさという点ではお春も十分切ないし、白井にもかなり感情移入しちゃった。兄の恋人、キティを追い続けて願い叶わず、洋一を殺してしまう。金さん、すごかった。アングラの真骨頂、唐組みの生き字引という感じで確かな色彩を放っていた。今、振りかえると金さんはじめ、あのおかま軍団があったからこそサフラン座の面々が生きたんだなってひしひしと思えてくる。絶妙なキャスティング力、蜷川さんの手腕に脱帽だ。

ストーリーテラーの西島くん、過去と現在を見事に繋いでくれた。とても器用な役者というかアーティストでいろんな可能性がありそうだね。竜也くんとの相性もばっちりだから、また共演して欲しいな。やっぱり和物がいいのかな。シェイクスピアとかでも面白そうだけどね。

キティ瓢田は最高に美しくて悲しい女性、本当に美しいりえちゃんが演じることで光り輝いた。人形の家のノラもすごかったけど、さらに激しくて一途ではかなくて似合っていた。アイドル時代のりえちゃんの華々しい芸能人生を知っているから、波風を乗り越えながら女性として母として本当に強くたくましくなったと思う。今のりえちゃんが一番素敵だ。

竜也くんの洋一は本当に難しい役どころだよね。物語のキーパーソンで、洋一が登場すると場面が動く。ぶれない洋一が周囲を勢いよく巻き込んでいった。ムサシ再演あたりから、じわじわと大人の俳優に変わりつつある竜也君に蜷川さんはまた新たな課題を与えたのだろう。こういう役どころが今は必要で、次に何がくるのかが密かに楽しみになった。

カテコは池に落としたり落されたりでみんなはじけまくっていた。竜也君は蜷川さんを落そうとしてこずかれていた。西島くんの涙が初々しかったし、りえちゃんのばんざいに達成感がみなぎっていた。

最後、唐さんが、「サフラン座は終わりません、まだまだこれから続きます」みたいなことをおっしゃった。これは、どういう形かわかないけれど続編の構想があるのかなって思ってしまう。昭和23年から平成24年へ。この物凄い時代の変遷で新たに唐さんが何を書いてくれるのか興味津々だね。

ほら…、池のそこからまたあのベルが聞こえてきそうだ。


六本指

2012年01月15日 | 観劇

下谷万年町物語、2回目は、ビニールシート配布席~
水かぶりとまではいかなかったけど、水しぶきが飛んできた~。

間近にいる竜也くんのかっこよさにドキドキ
りえちゃんの美しさにドキドキ
西島くんの可愛さにドキドキ

六平さんの迫力にドキドキ
沢さんの熟練な味にドキドキ
大門さんのお春の切なさにドキドキ
大石さん、大川さん、らっきょさん、愛すべきオカマ軍団にドキドキ

終始、心拍数が上がりっぱなしだった~

そして、泣けた…
本当に大切な物はひとつでいいいんだってキティを説得する洋一に。
サフランの花をさした甲羅の割れた亀に。
死んだ洋一に語りかけるキティに。
池を探す文ちゃんに。

六本指とは…
サフランの花
権利書
ヒロポン

かつて息を殺して見たぎんやんまは帽子の中で渦巻いて腐っていく。

足踏みミシン、びりびりと鳴る曇りガラス、壁の匂い、町の匂い、汗の匂い…、私もそのわずかな名残を吸った世代だ。記憶のかなたに、そんな時代の破片が残っている。
終戦前後、悲劇の中にも、ものすごい生きる活力があった時代が神々しい。汗まみれ、泥まみれの中に、きらめきみたいなものがあった。

「いこう、文ちゃん」
洋一を背負いながらさし出す、キティの手に文ちゃんが手を伸ばす。
このラストシーンで、三人が一つになる。
やっと六本指が繋がった…。


古田新太 in KAAT

2011年12月25日 | 観劇



「ロッキー・ホラー・ショー」
脚本・作詞・作曲:リチャード・オブライエン
演出:いのうえひでのり
出演:古田新太、岡本健一、笹本玲奈、中村倫也、ROLLY、藤木孝 他
神奈川芸術劇場

清純なカップルがオカマのフランクに毒されちゃう~
フランクも宇宙人にやられちゃう~



ほい、正直、ストーリーなんてどうでもいいくらいぶっ飛んでいて楽しかった~
確かに舞台なんだけど、映像も駆使されているしロックミュージックがガンガンで、会場はコンサートみたいにのりのり~。気がついたら立ちあがって踊っていたわ~
「奥様お尻をどうぞ」からオカマづいている古田新太さん、今回も魅力が炸裂していた。やっぱり怪優だわ~。何気におみ足がきれいで、すね毛の処理とかなさったのかしら~。メイクもアフロヘアーも妙にハマッていた。岡本健一さんもミステリアスでいい味出してるし、笹本玲奈嬢の歌とお色気も見逃せないぞ~。

この新感線の空気の中に、来春、竜也くんが客演するのが想像つかない。古田さん、いろいろ仕掛けてきそうだし手強そうだなあ。歌や踊りは大丈夫かな?「今この時期にこのメンバーと…」って竜也くんはきっとまた言うだろう。うん、30代突入の記念作品だもんね。新感線の皆さまよろしくね~。



KAATのクリスマスツリー…
このごちゃごちゃ感は何?いろいろ並べすぎじゃないかい?
宮ヶ瀬からやってきたもみの木さんなんだね。


All My Sons

2011年12月24日 | 観劇

「みんな我が子」
作:アーサー・ミラー
演出:ダニエル・カトナー
出演:長塚京三、麻美れい、田島優成、朝海ひかる、柄本佑、陸大介 他
新国立劇場

ホームドラマのようなタイトルとは裏腹で、硬派で地味な作品だった。第二次世界大戦後のアメリカ、戦争の裏側で不正を働きながら富を築きそれを正当化しようとする父親と息子の軋轢や、罪をきせられた同僚の家族、長男の戦死の真相などが描かれる。

裕福で理想的一家が抱えていた闇を周囲の人たちが言わずと気付いていたのが恐い。必死の取り繕い、大義名分を並べながら今を守ろうとする父親に息子が真実を突きつける。そして、響く銃声…。父を死に追いやり打ちひしがれて自分を責める息子に、母親は「あなたは生きて」と説得する。衝撃的な幕切れにしばし呆然とした。なんかやりきれない気持ちになった。混沌としたあの時代、何が正義だか定かではなかった。日本も苦しい時代だったけど、戦勝国アメリカも苦しんだ。先日、イラク戦争終結宣言が出たけど、あれも何のための戦争だったのかよくわからない。たくさんの人が亡くなり、戦地から帰った兵士は職がないそうだ。なんか虚しい。

お芝居を見ながら、長塚京三さんは長塚圭史さんに、柄本佑くんは柄本明さんんいそっくりだなあ~って思った。だって親子だもんね。ベテラン勢と若手のバランスがなかなか新鮮で良かった。田島優成くんはいろいろ戯曲を勉強しているらしく、舞台人としてやっていく意気込みが感じられる。これから、ちょっと注目したい若手だ。

新国立劇場があるオペラシティは広くて落ち着いた空間だ。クリスマスツリーがきれいだった。




キネマの天地

2011年09月19日 | 観劇



作:井上ひさし
演出:栗山民也
出演:麻実れい 三田和代 秋山菜津子 大和田美帆 木場勝己 古河耕史 浅野和之
紀伊国屋サザンシアター

実は…、これ初演を観ている。私が見た初ストレートプレーはこれだったかも。当時、必殺仕事人で売り出し中の京本政樹が好きで…、その京様の初舞台(だったと思うんだけど)ということで日生劇場まで足を運んだ。まだ、働き始めたばかりだったから、給料も薄給で(ま、今もさほど変わりはないけど)、芝居のチケットはとてつもなく高かった記憶がある。

当時からもちろん井上先生は遅筆で、これも初日ギリギリだったらしい。京様が見れれば良かったから、作、演出なんてあまりよくわからなかったけど、なんと井上さんご本人が演出に関わっていたのね…。今からすれば貴重な舞台を観ていたんだわ~。キャストも豪華で映画と連動していたんだよね。加賀まりこさんとか夏木マリさんとかそうそうたるメンバーだった。だから…、アイドル的売り出しをしていた京様のお芝居が必殺とはまるで違っていて驚いたもんだった。ストーリーテラーな役だから台詞も案外多くて、かなりがんばってるなって思った。

あれからもう20数年もたったんだなあ…。再度めぐりあったキネマの天地は、地味ながらと~っても良かった。4人の女優が役柄にばっちりハマッている。看板女優たちの悲喜こもごも、虚勢を張りつつも影ではいろんな苦労を背負っている。犠牲にしたものもある。み~んなひと癖持っているんだけど、女優であろうとすることで一つになる。井上さんの役者や舞台に対する想いが感じられて、最後、売れない役者役の木場さんがそれをしっかり魅せてくれた。どんな作品でも木場さんは、井上さんのメッセンジャーだね。

 ♪虹の都光の湊 キネマの天地
 花の姿春の匂い あふるるところ
 カメラの眼にうつる かりそめの恋にさえ
 青春燃ゆる生命は踊るキネマの天地♪

蒲田行進曲の歌もまたいいよね。古き良き時代、蒲田撮影所、大船撮影所…、今はもうないんだよなあ。


プリンスロード

2011年08月21日 | 観劇

ささやかな“My夏休み”のお楽しみ第2弾は、帝劇100周年記念公演ミュージカル「三銃士」だよ~。主演はもちろん次代のミュージカル界を背負うプリンス井上芳雄くん。芳雄ファンのお友達と観に行った。



開演前にランチをしようと早めに帝劇前で待ち合わせをした。雨が降っていて肌寒いから地下に潜り込むと、楽屋前にたくさん人が行列している。もしや、これが入り待ちというものなのか?前を通る人に握手を求めたり、何かを渡したりしている人がいる~。今の人も出演者?関係者?としばらく興味津々で眺めていたら、芳雄ファンの友達が来た。「ほら、みんな誰か待っているよ、もしかして、芳雄ちゃんかもよ~」なんて話していたら、俄かに前方がざわつく。彼方から、チェックのシャツにリュックを背負った細身のお兄さんが、丁寧におじぎをしながらやってくる~。あまりにも普通のお兄さんで一瞬、誰?と思ってしまったけど友達は「芳雄ちゃんだよ~」とすぐわかったみたい。思わず、列後方に並んで、握手をしてもらっちゃった~。はあ、ほんとに好青年だわ~。とても腰が低くて、しっかり目をみて握手してくれた。もう育ちの良さがにじみ出ていたわ~。この行列こそ噂のプリンスロードだったのね。参加できてラッキーだった

そんなこんなで浮足だちながらランチをして再び帝劇へ向かう。会場が暗転し壮大なオーケストラに乗っていよいよ開演だ。アレクサンドル・デュマの名作「三銃士」は愛と勇気の冒険物語。途中、浮かばれない女性たちが悲しかったけど、最後は正義が勝って、主人公が立派な銃士に成長してめでたしめでたし~ お話が単純明快で、楽しめるのもミュージカルのだいご味よね。

帝劇の舞台にあらわれた芳雄くんはまるでさっきとは別人で、所せましと動き回り、数々のナンバーを歌いあげる。動きもきれがあってかっこいいし立ち姿もきれいだった。こういうやんちゃな役もいいけど、彼はやっぱり王子様役の方が好きだな。次回は、栗山さん演出でミュージカル仕立ての「ハムレット」をやるみたいだ。蜷川演出のハムレットから8年くらいたつのかな?レアティーズからハムレットへ進化する芳雄くんを観てみたいもんだ~。

芳雄くんが次代を担う若手なら、山口祐一郎さんはもう大御所だね。彼の場面は空気がというか演出まで違う気がした。ひたすら濃い。すごい存在感。悪役を楽しんでいる余裕さえ感じたよ。

カテコも盛大、芳雄くんまた丁寧にご挨拶してくれた。この辺、竜也くんも見習ってほしいわ。最後は義援金募金で、瀬奈じゅんさん、今拓哉さんがキンキンキラキラ~のお衣装のまま募金箱を持ってロビーにご登場。はい、しっかり募金させていただきました~。

ひとりはみんなのために、みんなはひとりのために!

がんばろう、日本!


奥様お尻をどうぞ

2011年08月20日 | 観劇

森山周一郎さんのしぶ~い声で、耳元で囁かれ、ふと我に返りぶっとびたいようなタイトル。インパクトあるなあ。
はい、転職後、初めて仕事帰りに観に行った。まだ有給がないから、一応、平日の夜遊びは控えていたのよね。そろそろ慣れてきたし、お盆だしということでささやかなご褒美と決めつけて割引優待チケットをポチった。




「奥様お尻をどうぞ」
作・演出:ケラリーノ・サンドロヴィッチ
出演:古田新太 八嶋智人 犬山イヌコ 大倉幸二 入江雅人 矢十田勇一 平岩髪   山西惇 山路和弘
本多劇場

はあ、面白かった。結構、疲れていたんだよね。連日、プールだし、早番だったし、開演前にビールも飲んじゃったしね。でも寝る暇がないくらい笑えた。この何も残らないナンセンス感が不思議とレトロに感じられる。扱っているモチーフはそのものずばり「原発」「東電」でタイムリーかつ重たい“筈”なんだけど、ケラさん特有のブラックユーモアで軽~く皮肉っているぐらいで、結果何が問題でどう解決するわけでもない。途中、古田さんがアドリブのように「ねえ、くだらないでしょう、出たくなったら勝手に出てっていいんですよ~、トイレはあちら」なんて言うし、観客にスポットが当たって、「なんてお芝居なの~!」という声をかぶせるしで、この話は本当に終わるのかい?ってほどぐちゃぐちゃになる。果ては、「おもむろに」と唐突に役者が舞台から消えたりしながら、やっと最後はなんとか振りだしの原発ならぬ“屁発発電”にもどって着地するかなあ~~ってところで着地せずに終わっちゃった。ほら、私も何を書いているかわからなくなってきた。そんなお芝居だった。

印象に残ったのは、新太さんの女装とパンツから出てくるマシュマロ、大倉&八嶋&山路さんオールヌードのセクシーショット、蜷川さんの写真…。蜷川さんの前で「もう、いいかげんにせえ」なんて小道具を折らせるなんてブラックすぎる~。わけわからない「おもむろに」合戦の古田&大倉コンビの暴走も最高!この二人の天才的なけだるい空気感が劇場を包んでしまう。ほんと怪優、おばけ俳優だわ~。

チケット代は割引だったけど意外に高かったプログラム。収穫は、古田さんと小栗くんの対談が載っていて、竜也くんの話題が出てきたことかな~。竜也くん古田さんと飲んだらしい。そろそろ共演して欲しいもんだ。

この日はものすごく暑い日で夜になっても30度から下がらない。笑ったあとは、下北のよどんだ空気を吸いながら、明日も仕事だ~と帰路についた。夜も更けて帰りついた我が家もまだ33度あった。保冷剤を首に巻いて扇風機をつけて爆睡…。


リタルダンド

2011年07月31日 | 観劇



若年性認知症を発症した主人公を中心に、夫婦愛、親子愛、兄弟愛、友情を描いたヒューマンドラマ。観ているうちに自然に涙腺が決壊した。

G2さん演出で、鋼太郎さんで、音楽劇って珍しい組み合わせじゃないかな。共演の一路さんをはじめ東宝ミュージカル系の方々が出演、素晴らしい歌唱力で盛り上げる。鋼太郎さんも演技はもちろん、歌でも大健闘。そういえば「時計じかけのオレンジ」でも歌ってらした。これからはミュージカルもやるのかしら~?ますます幅を広げているなあ。

ピアノの生伴奏による劇中歌がどれもこれも良い。とてもきれいなメロディーで悲しい物語だけど心が洗われた。愛情によって結ばれた人と人との絆の強さに感動した…。

本日は千秋楽。カテコで鋼太郎さんが客席にいらしたG2さんを舞台の上へ導かれ、キャストから一言ずつ挨拶があった。何気に鋼太郎さんがボケた場面で仕掛けているらしく、他キャストは団結して対峙しているらしい。確かに皆さん、笑いそうになった場面があった。チームワークもばっちりの実力者ぞろいの座組に、G2さんも何度観ても鳥肌が立つとおっしゃっていた。

それにしても…、いろいろな演出家と組んで、多彩な面を発揮する鋼太郎さんの底知れぬパワーは凄いなあ。
余談だけど伊礼さんが演じていた部下の名前が“藤原くん”で、発言が“昭和”な人というのが何気に気になった~。


2011年07月30日 | 観劇

  

作:井上ひさし
演出:栗山民也
出演:市川亀治朗、永作博美 他
新国立劇場

観劇したのは少し前のことだが、私にとっては、身につまされる部分もあり、衝撃作だった…。
同じく井上ひさしさんの初期の作品である「たいこどんどん」の裏バージョンのようにも思えた。地方から江戸へ向かう「たいこ」に対して、「雨」は江戸から地方へ向かう。「たいこ」の清之助は夢を見続ける本物の若旦那だが、「雨」の主人公徳は拾い屋から紅花問屋の主人になりすまそうとする。「たいこ」には希望が見えるけど、「雨」は破滅だった。

徳は似ていると言われた紅花問屋の“主人”になるために、必死に方言を覚え、今までの人生をひた隠し嘘を重ねていく。周囲に翻弄されながら、嘘がばれないために罪を犯し、いつしか本当の自分を見失ってしまう。そして、そこに利権が絡んだ政治の罠が仕掛けられる。知らぬうちに、本物の“主人”に仕立て上げられて、気付いた時は死罪にされてしまうのだ。必死で装ってきたことを暴露し、どんなに違うと叫んでも救うものは誰もいない。

偽の夫と知りつつ…、口裏を合わせ、淡々と白装束を着せていく妻が恐ろしい。罪とわかりながらも、夫と店と自分の故郷を守ることが彼女の正義なのだ。命果てた徳を憐れみ母のような微笑みを浮かべながら懐に抱く姿がまた恐ろしかった。

数年前、職場を異動になった時のことをふと思い出した。トップから、前の職場のことを持ち込むなと言われた。そういうことで人間関係がぎくしゃくするからというのだ。果たしてそうだろうか?そんなんで人間関係は崩れるだろうか?だったらなんで異動なんかさせたんだろう?お互い良いところは情報交換しあって高めていけばいいのにと疑問を感じつつも、私は、保護色になった。やっぱり…、受け入れて欲しかった。ここの仲間と上司と上手くやっていきたかったから、すべて従おうと覚悟を決めた。だけど…、ちょっとしたトラブルがありそれを全て自分のせいにされた。私としては、忠実に従っただけなのに…。ま、融通が効かず上手く処理できなかった点は反省しなきゃいけないけど…、こんなに一生懸命やっているのに裏目に出てしまったことがショックで受け入れられるどころか溝が出来た。

過去を捨てて、新しい自分になって生きて行こうした徳が他人事とは思えなかった。そして、世の中にはそんな必死さを逆手にとって落し入れようとすることが多分にあるものだ。冷静になってちょっと客観視すればいいのだろうけど、一度、走りだしてしまうと止まれなくなる。気がついた時はすでに遅かったりする…。
 
自分を偽っちゃいけない。そこまでして上に媚びる必要もない。どこへ行ってもいろいろあるけれど、あの頃に比べれば、とても自由になれた気がする。白装束を着せられる前に、自分であることを見失わないようにしなければね…。

「だっちゃ、だっちゃ」の東北弁の永作博美さん、ポーカーフェイスの妻がハマっていた。最初からわかって突き進もうとする凛とした強さや、それに乗ってきた徳を包み込む母性もあって、鈴木京香さんとは正反対の違った魅力を感じた。ラストシーン、紅花畑の中に無言で立ち尽くす村人の姿が、中央に抗う福島の人達に重なる。「たいこどんどん」で津波を演出した蜷川さんに対して、栗山さんの切り口もずしんと強く心に響いた。


たいこどんどん

2011年05月05日 | 観劇



作:井上ひさし
演出:蜷川幸雄
音楽:伊藤ヨタロウ
出演:中村橋之助、古田新太、鈴木京香、宮本裕子 他

はあ、ラストやられた~。蜷川さんに、いや井上ひさしさんにかな?山形出身の井上さんの作品には東北の街がよく出てくる。だから、生きておられたら今回の震災にはきっと胸を痛め、様々な行動を起こしておられただろう。その遺志を蜷川さんが継いだのかもしれないね。

大棚の道楽息子、若旦那の清之助と太鼓持ちの桃八はひょんなことから、江戸を追われ、東北をめぐり歩く。途中、罠にはめられ、山賊に追われ、挙句の果て梅毒になりと命からがら9年ぶりに江戸に帰ってくると…、もはや、若旦那の実家はなく江戸は東京になっていた…。「これから、どうしたらいいんだ…」と絶望する清之助に桃八が力強く言い放つ。江戸がなくなっても江戸者は江戸者だ。これからも変わりなく生きていけばいい。

江戸の街に大波が押し寄せる。響き渡る赤子の声、再び、庶民は立ちあがる。蜷川さんお決まりの演出だけど、ものすごいダイレクトなメッセージだよこれ。文明開化の波、震災の大津波…、いずれもこの国で穏やかに生きていた庶民のことなぞ関係なく、もう否応なしに押し寄せた。全てを奪われ右往左往するしかなかった。

井上さんが言っておられる。庶民は、もやは世の中の主体ではく客体なのだと。これからはそういう客体としての生き方に切り替えた方がいい。

今回の震災で、日本は世界のメディアから国家は駄目だけど国民は褒められた。なんか因果関係を感じる。井上さんはすでにわかっておられたんだね。日本国民は客体としての生き方をすでに始めている。だってそうせざるを得ない、政治状況だものね。

一貫して流れてくる、「Day dream bileiver」と「Amazing grace」





“ずっと夢を見ている”は清之助、“奇跡を起こそうする”のが桃八なのかなあ。あまりにも悲しい“驚異”を現実に体験してしまっている今、日本人としての生き方が改めて問われている。

橋之助&新太コンビ、油がのりきっていて安定しているなあ。この難しい戯曲をよくぞここまでという感じで素晴らしかった。二人に食らいついていく京香姉さんもあっぱれ。この人、ほんと、女優として生きているんだね、なかなか肝がすわっていた。これ、最初は勘三郎さんがやる予定だったんだよね?原作通りの年齢設定でいくと、勘太郎&竜也コンビでもいけそうだなあなんて思っちゃった。そしたら、京香姉さんの役は吹石さん?それじゃあ、啄木になってしまうやん。はい、ろくでなし啄木もWOWWOWで放送だよ~。あのピンちゃんに再会できるなんて楽しみだなあ。