原作は 昔むかしに一読したけど 若かったからか恋に縁がなかったからか する~っと読み終えたのかもしれない
こういう辛い物語を あのキラキラ輝いて 全身が弾けるような松たか子が どんなふうに演じるのだろう
日生劇場は ハレの日の観劇の場 という雰囲気で ロビーには華やかな和服姿の女性がいたりして
わたしがよく行く いくつかの劇場とは なんとなく客層が違って感じられた
数ヶ月前にゲットしたチケットは 舞台から7列目というラッキーな席だった
舞台装置は イギリスの荒野のような寒々とした風景の中に 大きな老木が立っているだけの設え
舞台上の左右には高段の客席を設えてあり その板壁には衣装や帽子などが掛かっている
この一場で 物語がどう場面転換していくのかと 期待が膨らんだ
客席の照明が暗くなるとともに 黒髪をひっつめに結った黒いドレスの松たか子が現われ 荒涼とした風景を見渡す
まっすぐ前を見つめる凛とした表情 すっきり清らかな立ち姿は 一目瞭然 そこにジェーン・エアが居る
両親を病で亡くし 意地悪な伯母の家に引き取られたのち ひどい寄宿学校へ入れられ・・という子ども時代を
大人のジェーンは 舞台の端で 回想しながら 語る
暗転を用いず 人物たちの動きの端で 出ではない役者や黒子たちによって テーブルやソファが運び込まれて
ロチェスター家の居間やジェーンの部屋になったりする
馬に乗った館の主人とジェーンが遭遇する場面は 照明の使い方が いかにも馬とぶつかったように見えて 巧みだった
この舞台は 台詞のところどころが歌になって語られるミュージカルなのである
子役の子ども 伯母さん 召し使いもが歌うのを聴きながら 世の中には声のいい人がいるもんだなぁと思う
きれいな歌声のメロディに乗せて語られると 台詞も聴き入ってしまう
ロチェスター役の橋本さとしは 上背のある風貌が憂うる雰囲気を醸し出していたけど ややサラリとし過ぎかな
松たか子の すっくと背筋を伸ばして語る様子は 辛い境遇にあっても 自分の信念に従って行動し生きるジェーンの
意志的な潔癖な心のありようを感じさせる
いつもながら 澄んだよく通る声は 台詞が聴き取りやすく 歌っても 言葉が はきはき聴きやすかった
人へ温かく歌う場面 ロチェスターとの情感あふれる思いで歌い上げる重唱の場面 澄んだ歌声は耳に気持ちよく 美しく響く
自分に迷ったとき 気弱になったとき ジェーンのように温かく揺るぎなく 信頼できる友人が傍にいてくれたら
わたしも 自分らしく 慎ましく 敬虔に生きていけそうな気がする