英連邦作家賞受賞の作品 新聞の書評が褒めていたので予約して待ち 読み始めた
物語は長編に限る 長い話はとても好きだけど 前半は読みにくかったなぁ
訳者あとがき より抜粋。。。。。
オーストラリアのタスマニア州ローンセストンにあるオールポート美術資料館に、19世紀に描かれた
36葉の魚の水彩画が現存する 推定制作年は1832年、作者は英国から現在のタスマニアへ
流刑となった囚人ウィリアム・ビューロウ・グールド
1827年、グールドは衣服を盗んだ罪で7年間の流刑を言い渡される
当時イギリスでは産業革命が進み、手工業が機械化されて失業者が増大するとともに貧困層が拡大し
犯罪者の数も増えて刑務所は過密状態になっていた 政府は、その問題を解消し 植民地開拓の
ための労働力として使うため、 政治犯重罪犯のみならず 貧しさゆえに少量の食糧を盗むなどの
ささいな罪を犯した者まで、 大勢をはるか彼方の南海の植民地への流刑に処した
1827年12月、グールドは囚人輸送船エイジア号で現タスマニアに到着する
過酷な強制労働、鞭打ちなどの拷問、長期にわたる独房での監禁などが行なわれ、脱走者があとを
絶たず 脱走しても再び捕らえられるか、 逃亡中に死ぬか、 あるいは山賊となった
ロンドンではドイツ人石版画家の元で仕事をしたことがあり、 航海中は船上で士官たちの肖像画も
描いたグールドは、 この特技ゆえにほかの囚人よりも多少優遇されたのだろう
植民地外科医で素人博物学者ジェームズ・スコット医師に下男として仕え、同氏の依頼で地元の植物の
水彩画を描いた その後 ウィリアム・ド・リトル医師に仕え、本書に登場する魚の絵も同氏の要請で
あった可能性が高いと思われる 晩年の数年間は、窃盗の罪で数回にわたり投獄され
1853年12月 酒に溺れ、極貧のうちにホバートで果てた
グールドが描いた魚の水彩画に出会ったリチャード・フラナガンは、 写実的に美しく描かれた絵で
ありながら、 妙に人間のような顔つきをしたその魚たちを見て、画家が自分を取り囲む残酷な世界の
なにかをこれらのイメージにこっそり持ち込んだような印象を受けたという
章ごとに一匹の魚をあて、その魚が描かれた経緯を語り、 絵の本当のモデルを明らかにするという
手法で小説を書くというアイデアが生まれた
この小説は、勝者が語る歴史を敗者の側から書き直した作品だと一応言えるにしても、
支配者側にも被支配者側にもある、 善と悪、美と醜、悲哀と欲望、寂寥と孤独を多重に描き、
汚辱にまみれたこの世界と人間の眩暈をおぼえるような姿を全体的に描き出すことに成功している
***********
本書の12枚の魚の絵はどことなくユーモラスな表情でかわいく 色彩に惹かれる
本当に赤は血の色、 セピアはイカスミと排泄物の色、 緑はアヘンチンキの色、 青は貴石を砕き、
紫はウニの棘をすりつぶして作った色なのだろうか
小説の感想としては 主人公グールドは へこたれず明るい
残酷な拷問 仲間が死んでいく様子 自分の独房に夜毎海水が満ちてきて死体と共に数時間
浮かんでいなければならない状況 看守に長靴でデコボコに蹴られながらも冗談を言い続ける
司令官の愛人と情を交わし 恋のように楽しい交流
海に囲まれたこの島から絶対に逃げ出すことが出来ず 囚人という身柄が不変であるとき
人はどう生きるのだろうと思いながら読んだ 囚人だけではなく 配属させられた役人たちとて
辺鄙な島での隔離された状況は同じである
文字を読めて 絵心のある主人公ではあったけれど 空腹でやりたくもない単調な苦しい労働をして
いくだけの生しか 先にないとしたら 心の希望とか活力とか持てるものだろうか
むき出しの命そのものになって 規則も秩序も放って 自分の思うところへ突き進む
そういう登場人物たちで動物たちの檻の中のような物語だけれど 人間の愛おしさのようなものが
読後に残り また再読してみようかなぁと思う
物語は長編に限る 長い話はとても好きだけど 前半は読みにくかったなぁ
訳者あとがき より抜粋。。。。。
オーストラリアのタスマニア州ローンセストンにあるオールポート美術資料館に、19世紀に描かれた
36葉の魚の水彩画が現存する 推定制作年は1832年、作者は英国から現在のタスマニアへ
流刑となった囚人ウィリアム・ビューロウ・グールド
1827年、グールドは衣服を盗んだ罪で7年間の流刑を言い渡される
当時イギリスでは産業革命が進み、手工業が機械化されて失業者が増大するとともに貧困層が拡大し
犯罪者の数も増えて刑務所は過密状態になっていた 政府は、その問題を解消し 植民地開拓の
ための労働力として使うため、 政治犯重罪犯のみならず 貧しさゆえに少量の食糧を盗むなどの
ささいな罪を犯した者まで、 大勢をはるか彼方の南海の植民地への流刑に処した
1827年12月、グールドは囚人輸送船エイジア号で現タスマニアに到着する
過酷な強制労働、鞭打ちなどの拷問、長期にわたる独房での監禁などが行なわれ、脱走者があとを
絶たず 脱走しても再び捕らえられるか、 逃亡中に死ぬか、 あるいは山賊となった
ロンドンではドイツ人石版画家の元で仕事をしたことがあり、 航海中は船上で士官たちの肖像画も
描いたグールドは、 この特技ゆえにほかの囚人よりも多少優遇されたのだろう
植民地外科医で素人博物学者ジェームズ・スコット医師に下男として仕え、同氏の依頼で地元の植物の
水彩画を描いた その後 ウィリアム・ド・リトル医師に仕え、本書に登場する魚の絵も同氏の要請で
あった可能性が高いと思われる 晩年の数年間は、窃盗の罪で数回にわたり投獄され
1853年12月 酒に溺れ、極貧のうちにホバートで果てた
グールドが描いた魚の水彩画に出会ったリチャード・フラナガンは、 写実的に美しく描かれた絵で
ありながら、 妙に人間のような顔つきをしたその魚たちを見て、画家が自分を取り囲む残酷な世界の
なにかをこれらのイメージにこっそり持ち込んだような印象を受けたという
章ごとに一匹の魚をあて、その魚が描かれた経緯を語り、 絵の本当のモデルを明らかにするという
手法で小説を書くというアイデアが生まれた
この小説は、勝者が語る歴史を敗者の側から書き直した作品だと一応言えるにしても、
支配者側にも被支配者側にもある、 善と悪、美と醜、悲哀と欲望、寂寥と孤独を多重に描き、
汚辱にまみれたこの世界と人間の眩暈をおぼえるような姿を全体的に描き出すことに成功している
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本書の12枚の魚の絵はどことなくユーモラスな表情でかわいく 色彩に惹かれる
本当に赤は血の色、 セピアはイカスミと排泄物の色、 緑はアヘンチンキの色、 青は貴石を砕き、
紫はウニの棘をすりつぶして作った色なのだろうか
小説の感想としては 主人公グールドは へこたれず明るい
残酷な拷問 仲間が死んでいく様子 自分の独房に夜毎海水が満ちてきて死体と共に数時間
浮かんでいなければならない状況 看守に長靴でデコボコに蹴られながらも冗談を言い続ける
司令官の愛人と情を交わし 恋のように楽しい交流
海に囲まれたこの島から絶対に逃げ出すことが出来ず 囚人という身柄が不変であるとき
人はどう生きるのだろうと思いながら読んだ 囚人だけではなく 配属させられた役人たちとて
辺鄙な島での隔離された状況は同じである
文字を読めて 絵心のある主人公ではあったけれど 空腹でやりたくもない単調な苦しい労働をして
いくだけの生しか 先にないとしたら 心の希望とか活力とか持てるものだろうか
むき出しの命そのものになって 規則も秩序も放って 自分の思うところへ突き進む
そういう登場人物たちで動物たちの檻の中のような物語だけれど 人間の愛おしさのようなものが
読後に残り また再読してみようかなぁと思う