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華やぐ時間

時の豊潤なイメージに惹かれて 。。。。

” グールド魚類画帖 ”  リチャード・フラナガン 著

2006-01-08 18:33:32 | ★本
英連邦作家賞受賞の作品  新聞の書評が褒めていたので予約して待ち 読み始めた
物語は長編に限る   長い話はとても好きだけど 前半は読みにくかったなぁ


訳者あとがき より抜粋。。。。。
オーストラリアのタスマニア州ローンセストンにあるオールポート美術資料館に、19世紀に描かれた
36葉の魚の水彩画が現存する    推定制作年は1832年、作者は英国から現在のタスマニアへ
流刑となった囚人ウィリアム・ビューロウ・グールド
1827年、グールドは衣服を盗んだ罪で7年間の流刑を言い渡される
当時イギリスでは産業革命が進み、手工業が機械化されて失業者が増大するとともに貧困層が拡大し
犯罪者の数も増えて刑務所は過密状態になっていた   政府は、その問題を解消し 植民地開拓の
ための労働力として使うため、 政治犯重罪犯のみならず 貧しさゆえに少量の食糧を盗むなどの
ささいな罪を犯した者まで、 大勢をはるか彼方の南海の植民地への流刑に処した

1827年12月、グールドは囚人輸送船エイジア号で現タスマニアに到着する
過酷な強制労働、鞭打ちなどの拷問、長期にわたる独房での監禁などが行なわれ、脱走者があとを
絶たず 脱走しても再び捕らえられるか、 逃亡中に死ぬか、 あるいは山賊となった
ロンドンではドイツ人石版画家の元で仕事をしたことがあり、 航海中は船上で士官たちの肖像画も
描いたグールドは、 この特技ゆえにほかの囚人よりも多少優遇されたのだろう
植民地外科医で素人博物学者ジェームズ・スコット医師に下男として仕え、同氏の依頼で地元の植物の
水彩画を描いた   その後 ウィリアム・ド・リトル医師に仕え、本書に登場する魚の絵も同氏の要請で
あった可能性が高いと思われる      晩年の数年間は、窃盗の罪で数回にわたり投獄され
1853年12月 酒に溺れ、極貧のうちにホバートで果てた

グールドが描いた魚の水彩画に出会ったリチャード・フラナガンは、 写実的に美しく描かれた絵で
ありながら、 妙に人間のような顔つきをしたその魚たちを見て、画家が自分を取り囲む残酷な世界の
なにかをこれらのイメージにこっそり持ち込んだような印象を受けたという
章ごとに一匹の魚をあて、その魚が描かれた経緯を語り、 絵の本当のモデルを明らかにするという
手法で小説を書くというアイデアが生まれた
この小説は、勝者が語る歴史を敗者の側から書き直した作品だと一応言えるにしても、
支配者側にも被支配者側にもある、 善と悪、美と醜、悲哀と欲望、寂寥と孤独を多重に描き、
汚辱にまみれたこの世界と人間の眩暈をおぼえるような姿を全体的に描き出すことに成功している

          ***********

本書の12枚の魚の絵はどことなくユーモラスな表情でかわいく 色彩に惹かれる
本当に赤は血の色、 セピアはイカスミと排泄物の色、 緑はアヘンチンキの色、 青は貴石を砕き、
紫はウニの棘をすりつぶして作った色なのだろうか
小説の感想としては 主人公グールドは へこたれず明るい
残酷な拷問  仲間が死んでいく様子  自分の独房に夜毎海水が満ちてきて死体と共に数時間
浮かんでいなければならない状況   看守に長靴でデコボコに蹴られながらも冗談を言い続ける
司令官の愛人と情を交わし 恋のように楽しい交流
海に囲まれたこの島から絶対に逃げ出すことが出来ず  囚人という身柄が不変であるとき
人はどう生きるのだろうと思いながら読んだ   囚人だけではなく 配属させられた役人たちとて 
辺鄙な島での隔離された状況は同じである
文字を読めて 絵心のある主人公ではあったけれど 空腹でやりたくもない単調な苦しい労働をして
いくだけの生しか 先にないとしたら  心の希望とか活力とか持てるものだろうか
むき出しの命そのものになって 規則も秩序も放って 自分の思うところへ突き進む
そういう登場人物たちで動物たちの檻の中のような物語だけれど 人間の愛おしさのようなものが
読後に残り  また再読してみようかなぁと思う 
                                

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” 風味絶佳 (ふうみぜっか) ”  山田詠美 (えいみ)著

2005-11-26 18:11:10 | ★本
作家生活20年を迎えた山田詠美の短編集である  装丁は可愛いキャラメルの絵
わたしは本を読むとき たいてい あとがきから読んでいく
「・・・ とりわけ私が心魅かれるのは、人間のかもし出すそれである。
 ある人のすっくりと立った時のたたずまい。 その姿が微妙に歪む瞬間、
 なんとも言えぬ香ばしさが、私の許に流れつく。」 
この文章を読んだだけで 作者の豊かな言葉の情感が感じられて 物語への期待がわく 
「日頃から、肉体の技術をなりわいとする人々に敬意を払って来た。・・・」
この本は 肉体労働の男たちを主人公にした恋が6編収められている小説集である

間食・・・自分を高所恐怖症かもしれないと思う鳶職の男が年上の女と若い女を行き来する
     「落ちるのが恐い人は落ちないよ。 それに、下で退屈する人は、必ず登れる。」
     こういうことをさらりと言う変人扱いされてる仲間寺内に 自分の三角関係を話す
     「で、加代さんて人は、誰に可愛がられてるの? そう? でも、前にはいた筈だよ、
     加代さんをうんと可愛がっていた人。きっと、どこかで断ち切られてしまったんだろう。
     きみも溜まっていたから、 花ちゃんって人に行っちゃったんでしょ?」と寺内が言う      
     

夕餉・・・堅実な家庭を捨てて ごみの清掃作業員と同棲をする女 
     「好きな男に極上の御馳走を食べさせてやる  料理欲は私の愛の証し」 と言う
     「彼の体は、私が作るんだ。 私の料理から立ちのぼる湯気だけが彼を温める。」
     手際よく料理の下ごしらえをしていく描写に 作者山田詠美の料理好きを窺わせる
     「ゴム手袋をしているとは言っても、危ないものが沢山出されている。
     もしかしたら、彼の手にした一番危ないものは、私だったかもしれない。
     寄る辺ないひとりの女の人生を、 彼は、いつの間にか引き受けてしまった。
     私の心は、ますます彼に傾いている。 憐れみに肉体が加わると恋になる。 
     そこには、かけがえのない もの哀しさが生まれ出づる。 」
     「それまで、私は、自分の体がそうなるのを知らなかった。 
      きちんと下ごしらえをされれば、私の体だっておいしくなる。 
      欲しがられてると感じる。  なんだか泣きたい気持ち。 」


風味絶佳・・若い恋人がいる70歳の祖母と ガソリンスタンドに勤める20歳の孫のお話
      横田基地のそばでバーを営む祖母   若い頃アメリカ人と大恋愛をして
      捨てられたらしい祖母のアメリカかぶれした視点や言動がユニーク
      私の脳みその皺は、このキャラメルのおかげで増えた。 キャラメルが恋人。
      それでは恋人とはなんなんですか  必需品に決まってるじゃないの と祖母が言う
      好意を持っていたガソリンスタンドの女の子に振られた孫が叫ぶ
      「あんな女、もう顔も見たくねえよ!!」
      「良かったじゃないか、ようやくそういう人が出来て」と祖母が言う


海の庭・・母と作並くんは幼馴染だ。 私の高校入学が決まるのを待って両親が離婚した時、
     母の実家に身を寄せることになった私たちの引越しの際の作業責任者が彼だった。
     あの引越し以来、30年ぶりに再会した彼は、たびたび、この家にやって来る。
     二人は、縁側に腰を下ろし、言葉少なにお茶を飲む。
     二人は、初恋をやり直しているのではないか、と推測する。  あの年齢だもの、  
     それなりの経験は積んできた筈だ。 それなのに、少年少女みたいな風情でいる。
     もっと、年相応の男女として振る舞ってはくれないものか。 
     ひとり身の寂しい女とそこにつけ込む男という構図の方が、まだ腑に落ちる。
     「作並くんは、昔のママが好きなんでしょ?」
     「おれが見てるのは、年取った今の彼女だよ。   おれの戻りたい場所を
     ちゃんと隠してる。  おれは、もう一度そこに辿り着きたいの。」
     「それって、やっぱ、初恋やり直すってことじゃん。」
     「大人が初恋やり直すって、いやらしくて最高だろ?」そうだったのか、と腑に落ちた。 
     二人は、子どもの純粋さを取り戻そうとしていたのではなく、 大人の淫靡さを
     作り上げようとしていたのか。


アトリエ・・排水槽清掃や貯水槽の清掃や設備のメンテナンスの仕事をする私は
      悲惨な過去を持つ麻子と出会い 同情し 惹かれ結婚する 
      「私は、一日を終えて、麻子と二階に上がって行く瞬間を心から愛しました。
      階段が軋む音は、前奏曲のように期待を抱かせます。」
      妊娠をきっかけに 麻子が壊れていく


春眠・・・章造が、大学時代に恋心を抱いていた同級生弥生は 章造の父親と結婚してしまう
     父梅太郎は 斎場総合メンテナンスの会社に勤務している  火葬の業務委託
     「親父は、弥生のこと全部解ってるって言うの?」
     「当たり前じゃん。 私が側にいるだけで、おとうちゃんには全部お見通しなんだよ。」
     「へえ、そんなに親父って頭良かったっけか。」「そういう時に使うのって頭じゃないんだよ。」
     弥生は、突然、父のかいた胡坐の上に倒れかかった。そして、膝頭に頬をこすり付けて言った。
     「にゃーにゃー」「こういうふうにしてると、色んなことが解って来るんだよ」
      親父たち、見るに耐えないと思わないか? と章造は妹に尋ねる
     「お父ちゃん、若い奥さんもらってタガが外れたのよ」と妹が答える
     「悪い意味で言ってるんじゃない。 弥生ちゃんに外してもらったのよ。
      お父ちゃん、 やっと本当の自分になったんだよ。」と妹が言う


本の中のいいなぁと思う文章を抜粋してたら きりがない
作者の人物たちへのあったかい視線を感じる  恋の真実がきらりと光っていて感激する
うんうん  そうだよね  そういう感覚だよね と思い当たる
愛したい人  愛されたい人  そのときの自分にとって最良の人との出会い
出会えた縁を大切にしたいと思う
        
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” ナショナル・ストーリー・プロジェクト ”  ポール・オースター著

2005-11-15 20:39:39 | ★本
この作家の本は ”孤独の証明”を読んだことがあり  映画では”スモーク”も観た
オースター自身のあらすじもドラマチックだなぁと思う 
いままた 書評が褒めるこの本を読んでみた

オースターは ラヂオ番組を受け持つことになり  リスナーから 実話の体験談を募集した
全米から4千通 集まったという   その中の180本を選んで編集した本である
それのすべてを読み 選び  月に一度5~6本を ラヂオで朗読する
ジャンルとして 動物 物 家族 戦争 愛 死 夢・・などに分ける
4千人余の普通の人々による体験談である  信じがたい展開  ありえない成り行き
みじめだったり 情けなかったり 人・物との必然の出会い 運命のめぐり合わせ
どこかの小説家が書く短編小説より よほど 不思議で感動する体験話がいくつもある
出会うべき人との出会い  あるべき場所へ落ち着く物たち  何に因って結ばれるのだろう

祖母が大事にしていた一揃いの食器のうち ティセットを引越しの際に紛失する 
母も悔やみ 孫娘の自分が十年余も時が立ってから たまたま出かけたフリーマーケットで
家にある同じ柄のその食器を目にするのである  
物との こういう引き合わせは 何篇も載っていた
紛失したと思っていた物に 何年 何十年も立ってから 出会う不思議
たまたま出かけた街で  ふだん行かない通りの小さい店で 大切な物に再び出会うのである

好きな本を読もうとある店に入る  込んでいて 見知らぬ男性と相席になる
話が弾んで 再会を期してその本を贈り 自分の電話番号を書いて渡す
その本を彼は電車の中で 居眠り中にコートごと盗られてしまう
互いの連絡手段が失われて数年後 男性がバカンスで外国へ遊びに行く
女性は勉強で外国へ行き 再びあの好きな本を読もうと買い求め 喫茶店に入る
店内が込んでいて 通された相席のテーブルに あのときの彼が座っていたのである

こういう話が わんさと載っている   出会いの不思議  結ばれる必然
あるいは 眠っていて夢でみた事が やがて自分や他人に 同じように出来事として起きる不思議

読み終えて 生きることに感動もするし 謙虚にもなるし 視野も広がる 
でも 今のわたしは なぜか 自分にガッカリ  自己嫌悪になりそう   なんで? 
  

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書評  『 いつか どこかで 』 アニータ・シュリーヴ

2005-09-09 20:08:34 | ★本
某誌に この本へのお奨め書評が載っていた
読んでいて タイトルのこの本には食指が動かなかったけれど 
書評を書いた翻訳家 鴻巣さんの文に共感するところがあり 丸写しで載せてみる

・・・略・・・
舞台は90年代初め。  ロードアイランドで不動産業をやっているチャールズと
ペンシルヴァニアの農場主の妻ショーンが再会し 31年前の初恋が再燃する。
お付き合いは文通から再開する。    ・・・・略・・・

手紙には、「間」の魔術がある。 投函した時から、テストの答案を提出したようにそわそわし、
相手の意図を正しく汲めただろうか、的外れなことを書かなかっただろうかと気を揉んで、
採点(返信)が返ってくるのをじっと待つ。         
たがいに家庭をもつふたりは、密かに届く手紙のことばを一語一語暗号でも解くように読み、
時には書き過ぎて後悔し、祈り、また次の連絡を待つ。      ・・・略・・・

これぞ恋愛ではないか。ほんの十年かそこら昔には、こういう風景が映画や本の中にあった。
待つ時間を失ったことで、わたしたちがなくしたものは確実にあるとつくづく思う。
わたしは、『いつか、どこかで』に、恋愛小説の原風景を見る思いすらする。

歳月を経て変わらない夫婦などいないだろう。  しかしそこには、年とともにほどよく
「枯れていく」夫婦と、 それとなく「腐食していく」夫婦の二通りがあるようだ。
ショーンに言わせれば、彼女の結婚生活は「それとわからない程度に、ごく微かに腐食して」
いるという。    なるほど、腐食の徴を感じる場面は、どちらの夫婦にもあった。
ひとつは、ショーンが上梓したばかりの詩集の上に、夫が何気なくワイングラスを置いて、
表紙を汚してしまうシーン。   もうひとつは、ある朝、チャールズが台所にいる妻に、
出がけのキスをしに行こうとするが、 そのわずか「七歩か八歩の距離を進むことが
自分にはもうできない」と感じるシーン。  長く連れ添っていれば、すれ違いぐらいある。
しかしこれらの場面は、夫婦がある「一線」を越えてしまったことを暗示する何かを
感じさせた。   こういう描写がシュリーヴは巧い。   ・・・略・・・

            鴻巣友季子(こうのす・ゆきこ  翻訳家・エッセイスト)

          * * * * 

手紙の「間」を この頃の電子メールのやり取りに置き換えることもできる
待つ時間は手紙やメールに限らず  いつもわたしをそわそわと落ち着かなくさせる
楽しみであり希望でもある  焦燥であり絶望でもある  杞憂であり深刻でもある
それでも わたしは待っている  待ち続けていたい
    



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 ” トルストイ民話集 ”  トルストイ 著

2005-06-18 00:13:12 | ★本
宗教性 道徳性に富んだ短編が12話 収められている
”イワンのばか”をはじめとして どの物語も子どもの頃に
お話として一度は聞いたことがあるような気がする物語ばかりである

どの話も平易な語り方で読みやすい
聖書の言葉は耳に馴染みがないけれど 物語の形で語られるとわかり易い
欲の深さは何のいいこともない とわかる
状況を変えて きっとわたしもそのような似た行動をしているのだろうと思う
傍観者として 他人の行動はその言動の善悪がよく見えるものなのだなぁと思う
物語の中で主人公の人生・因果応酬がさっさと語られてしまうと 
人の一生の時間って かくも短いものなのだなぁと思う
時は大切なものである と 時間にも思いがいく

”洗礼の子”より
・・彼がわが身を忘れて、心を浄めたときに、はじめて他人の心をも浄めることができた
・・彼が死を恐れなくなって、神のうちに自分の生活を見いだした時に、かたくなな心が折れた
・・彼の心が燃えだして、初めて他人の心に火を移したのであった

好きな二編は  ”愛のあるところに神あり ”  ”二老人 ”
凍えている人 力なく不自由している人へ  自分の出来ることで手伝う主人公
自分の持てる物を損や得や惜しむ気持ちは無く 衷心から他人を我が事のようにもてなす主人公
人間の善の心がよく見渡せる

わたしは丸ごと全部 善でありたいとは思わない
情けない部分のほうが大であるけれど  
ときには明確に少しでいいから  わたしの中にも善があると確信してみたくなった


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” 格闘する者に○ ”  三浦しをん 著

2005-06-15 21:49:55 | ★本
就職活動中の女子大生可南子が主人公  出版社 漫画雑誌の編集者が希望なのである
就職試験の会場で 筆記試験の記入の仕方を説明する出版社の担当試験官が言う
「カクトウするものに○をしてください」 
へ? 該当するものに丸をしてください・・の間違いジャン と主人公は思う

のほほんとした政治家の実父  毅然とした継母  頭脳優秀な弟
可南子が付き合っているのは 年齢60代後半の書道家西園寺さん
この西園寺さんとの交流が 川上弘美の【センセイの鞄】より好きだなぁと思う
物語は展開が早く 文章にスピードがあるので さっさと読ませる
漫画のような雰囲気でもある
ただ やはりこの作家らしく 情景描写の惹かれるところもちゃんとあった

    ****

私は新宿のビル群が好きだ。 あの無機質なようでいて繊細さを兼ね備えたビルたちが、
毅然と、しかし身を寄せ合って夕闇の中に浮かび上がり、真珠のような窓の明かりを
纏っているのを電車から眺めるとき、私はとても寂しい気分になる。

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 ” 私が語りはじめた彼は ”  三浦しをん 著

2005-05-16 23:14:30 | ★本
女性作家の連作短編集である
村川という大学教授がいて数人の女性と関係を持つ  短編の主人公は次々と代わっていく
村川の妻 再婚相手 娘 息子  まわりの人々が村川のせいで過剰なものを内に抱えてしまう
それを何らかの形で解決し あるいは解決できないまま呑みこんでいく小説である 
村川の息子の話”予言” と 村川と一時付き合う女性の夫の話”残骸”に惹かれた

”予言”の主人公の男子高校生の話し振りがいい
”残骸”は特に文章がいい  何度も戻って読み返し 味わってしまう
子どもも生んだ妻が自分の父親を「パパ」と呼ぶ 
「あなた」という私への呼びかけも 幼稚園児が夫婦ごっこをしているようで毛穴がざわめく
いつまでもおままごとの延長線上で日々を送っているようなこの妻を愛おしく感じることも
事実なのだ  小学生の娘に「今週なにか困ったことはなかったかい?」と尋ねる
「ママが毎朝いれてくれるお紅茶 とっても熱いのよ 飲むのが大変なの」
娘の悩みは紅茶の温度なのか 私はくすぐったいような困惑を覚えた
紅茶の温度で悩む暮らしを送っていると妻のような女ができあがるのだな と妙に納得した
夕方家に帰り着いた私は 玄関先で言い争っている妻と見知らぬ女性の会話から 
妻が村川先生と関わりのあることがわかってしまう

村川は哀れで愚かな男だ  
もしかしたら彼は この世のどこかに不変のものがあると信じたいのかもしれない
彼は 変わってしまうことの中に さびしさや繊細な美しさがあることを知らない

多くを望んでなんになる どんなに一生懸命選んでも カーテンなどいずれは色あせる
暮らしていれば 調和のとれた家具にも埃がたまる
今度の出来事で私に根ざした苦しみも困惑も そのうち溶けて薄れゆく
私は妻に愛の言葉を囁いたりはしないだろう 迸るような情熱もなく 淡々と日々を過ごすだろう
愛でもなく 打算でもなく。  花を咲かせては散らし 葉を繁らせては落とす植物のように
気の狂いそうな繰り返しの中で生きていく  いつか変化をやめるそのときまで。
それだけが 私の選んだことなのだ   すべてはいずれ 土に還る。

               *****

いくつか 文章を抜粋してみても 物語の香りは伝えきれない
視線 文体 物語の組み立て方がいい  気持ちの書き方がうまい
ほかの本も読んでみようかな





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” クライマーズ・ハイ ” 横山秀夫 著

2005-03-10 21:14:00 | ★本
クライマーズ・ハイ・・・
普段冷静な奴に限ってね、脇目もふらず、ガンガン登っちゃうんだ
興奮状態が極限にまで達しちゃってさ、恐怖感とかがマヒしちゃうんだ・・・

主人公悠木は群馬の北関東新聞社に勤めている40歳の記者
友人の登山家安西のこと 悠木の家庭のこと 新聞社内の派閥争い
日航ジャンボ機が御巣鷹山に墜落した事故などが身辺に起きる長編

男同志の気遣い方 家庭での男の居場所 上司達との確執 部下への目線
なによりも新聞を作っていく煩悶・過程の熱気をビンビン感じることが出来た
編集部内には大勢の人間が一緒にいるのに独りで仕事をしている男のイメージがある  
寝不足 大きな決裁 さまざまの場面で悠木はいつ爆発するかとはらはらさせられる
人が真剣に仕事に向き合うというのは こういう在り様なのかと思う
二度三度 臍をかむ・・と思う場面がある  読みながら熱くなってしまう
悠木ならではの判断の仕方・決裁  よくも悪しくも周りの人間へ波紋が広がる
右を選んでも左を取っても他人を巻き込み 悠木は悶々とする

家庭が温かいわけでもなく 恋する女もいない 趣味として何かを手に取ることもなく
友人や部下と談笑する場面もない悠木の多忙な日常で この人はどうやって何によって 
自分の心を寛がせるのだろうか と思う

真空の部屋の中に閉じ込められているかのような独りの時間を 私は孤独とは思わない
きっかけは我が身から出た錆としても 激しい悔恨に胸を叩いて叫び出しそうになっても
独りで深く存在の井戸を降りて行くことは孤独とは思わない
悔いの渦の中で膝を抱え蹲って浮上できる時を待ち続けるだけ
この独りの時に私の傍には何があればいいだろうか
今思いつくのは しんしんと心に沁み入る音楽  好きな音楽に無心に包まれたいと思う
浮上は新生の時再生の時  大切な人と生きたくて浮上する

悠木の物語を読みながら 生きていく ということに涙がこぼれた


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”躑躅(つつじ) ”  『竹の秋 』  吉田知子著& 思うこと

2005-02-15 21:11:13 | ★本
闇の底にいるような気分が好きなのです。これ以上這いあがれない、いいえ、
這いあがることなど夢にも考えてはいけないのです。  そろりそろりと
そのへんをうごめく。 それは大方何ミリという範囲でしかないでしょう。
ながいこといると闇にも色があることが見えてきます。
淡紫、空色、赤茶、鼠。 闇の色など美しいといってもしれているけれど
中にはきれいな闇を持つ人もいるのです。私の闇は何色か。できれば浅黄色。
そのしんにぼうっと光るものを秘めた色であってほしい。
自分の闇は自分には見えぬ。

これ以上墜ちないということが私を安心させている。 それはよいことでは
ないかも知れないのです。 どこまで行っても水平の世界しかないとすれば
どう変わりようもないのですから。
  
私は闇が好きです。選んでその中にいるのです。そうです、そう思っている
けれども本当はよくわかりません。それは好きだったり選んだりすることが
できるものなのでしょうか。しかたがないので好きなふりをしているだけなの
かも知れない。

           * * * * *

人の闇と自分の闇を比べるつもりはないけれど  わたしに闇はあるのか
表の楽しさに気を取られて 見ないフリをしているのかもしれない
浮わついたココロをパチンッ と叩かれたときは好機到来の時   
自分の想いを垂直に ゆっくり深く深く潜行させて降りて行くとき
忘れていた事々を思い出し 忘れていたい数々の悔いがまとわりついて来る

人のきれいな心に触れたとき 澄んだ空気の広々とした景色を目にしたとき
子どものまっすぐな瞳にみつめられたとき  やわらかい笑顔をもらったとき
わたしは同じ目線でいられるだろうか  新生を思うのはそういうとき
せめて わたしの闇の底には澄んだ湖が小さくあってほしい
水面を揺らす少しの風があり どこからか仄かに光が射している
聴こえてくる音楽は  バッハ  エンヤ  サラ 。。。。
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諸富祥彦の本より 抜粋 & 思うこと

2005-02-09 20:37:37 | ★本
【人間の心・魂は 時によっては明るさや光よりも暗さや闇のほうを好む
だから”ピカピカの癒し”や”輝く私”を目指す必要はない
むしろ暗闇が持つ意味を大切にしていこう
どうしていいか途方に暮れる日々 悶々としながら徒に時間ばかりが過ぎていく・・・
そんな一見無駄な時間 苦しいばかりの時を過ごすことが 人間の心や魂の成長には不可欠のように思うのです
この人生 この世界で起こるすべてのことには意味がある
健康や幸運ばかりではない 慢性の病 障害 死 不幸 争い 衝突 離婚 別離 憂鬱・・・
こうした否定的な出来事にも何か大切な意味があり それとしっかり関わることで私たちの魂は耕され 人生が豊かになっていくのである 】

     ********************

人を性善説・性悪説で考える論があるけれど この頃人間の本質 常態について思う
人間は喜怒哀楽の感情で言えば 哀の状態がゼロ点なのではないかと思う
たいてい なんだか寂しく心細く なんとも不安で欠落感ばかり見える
大切な人と居てもどことなく哀  
人の常の感情7割ほどがマイナーな思いで ときどき喜と楽の3割がやって来る

生きることは楽しく喜びに満ちている・・と思うのではなく 孤独で寂しく不安な心が常態と思えば いっそ穏やかでいられる
たまに遭遇する喜と楽が ひときわありがたく貴重に感じられて 嬉しい




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楽しかったなぁ・・・ ” 家守綺譚 ” 梨木香歩 著 

2005-01-26 12:59:13 | ★本
物語の雰囲気とよく合っている本の装丁が きれい    

大部でなくとも 久しぶりに物語らしい本を読んだ

世の中がのんびりしていた時代の京都 一軒家・・・  住んでみたくなる

身のまわりが こんなふうな日常なら 独りもいいもんだ

読後に 主人公・綿貫の哀しさのようなものが じんわり伝わってくる

一人でいる静かな時 ぱらぱらと 数ページ読んで楽しみたい物語だなぁ


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 やっと読めた・・・  ” 看守眼 ”  横山秀夫 著

2005-01-25 17:11:07 | ★本
新聞の書評が褒めていたので 図書館に予約し 数ヶ月待って やっと読むことが出来た

”半落ち ”の作者・・・   わたしは はじめて読む作家

よく人間を見てるナァと思う

登場人物たちのココロの流れも共感できるし  こういう人 いるかもしれない・・などと思わせる

ふだん あまり本を読まない男性も この作家の本は好む・・・かもしれない

もう一冊 なにか読んでみたい気がする
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