代替案のための弁証法的空間  Dialectical Space for Alternatives

批判するだけでは未来は見えてこない。代替案を提示し、討論と実践を通して未来社会のあるべき姿を探りたい。

今月号の『現代農業』に私の書いたものが載りました

2008年11月06日 | 自由貿易批判
 今週発売された月刊『現代農業』(農文協)の12月号に私の書いた自由貿易批判の記事が載りました(332~337ページ)。興味のある方がいらっしゃいましたら是非、ご笑覧ください。来月号にも続きが載る予定です。
 『現代農業』が行う一連のWTO批判特集の一貫です。今月号の表題は「もはや時代遅れだWTO」です。いや、いいですね~。胸のすくようなタイトルです。そのような中に書かせていただけて光栄に存じます。私のブログを目ざとく見つけて、原稿を依頼して下さった編集部の皆様に感謝いたします。今月号では、村田武氏(愛媛大学教授)と私とで、それぞれの観点でのWTO批判を展開しています。

 WTOに引導を渡そうという、ここまで痛快なWTO批判を組むなんて、商業新聞では今のところ絶対に無理です。また、メジャーな月刊の論壇誌でもまず無理です。WTO批判やFTA批判は、ブルジョア・ジャーナリズムにとってはタブーですから。このような批判が可能であるとすれば、『現代農業』くらいのものかも知れません(ただし、共産党の『前衛』や『経済』など政党系の月刊誌を除く)。

 ちょっと、私の書いた記事の冒頭部分のみ紹介させていただきます。

****(引用開始)********* 

WTOの世界的誤謬をただす
―食料と環境のために必要なのは「関税引き上げ」―    関 良基

 本年7月上旬に行われた洞爺湖サミット。議長国である日本のマスコミ各社は地球温暖化対策で実りある成果を上げようと、温室効果ガス削減を主張する一大キャンペーンを繰り広げた。ところが、同じく7月下旬に行われたWTO閣僚会合。あれだけ温暖化対策で騒いでいたはずのマスコミ各紙は、農産物関税の引き下げ案を礼賛する社説を、相も変わらずステレオタイプに発していた。彼らがこれを矛盾と思っていないとしたら、絶望的に愚かであるといわざるを得ない。
 本稿では、日本のマスコミが地球温暖化対策を叫びながら同時に自由貿易を礼賛することが如何に矛盾に満ちているかを論証したい。
(後略)

****(引用終わり)***********

 いつものブログ記事なみに口は悪いですが、短い時間で書き殴っているブログ記事と違って、データは豊富に載せてグラフ入りで細かく論証しています。マスコミに対する批判は、活字だからといっておとなしくなったりましません。これは、もうどうしようもありません(苦笑)。

 思い起こせば私は、80年代後半のバブル経済の当時、どう見たって資本主義の害悪が一挙に噴き出たとしか思えない地上げの熱狂をしり目に「日本は豊かになった」などとマスコミが浮かれまくっていたころから、マスコミに対する不信感を抱くようになりました。当時の私はまだ高校生でしたが……。そして、このあいだの悪夢の郵政選挙で完全にキレてしまったのです。

 毎日新聞なんて、今頃になって「郵政民営化の弊害」を記事にしたりしていますが、郵政選挙の頃、同新聞政治部の岸井成格など、テレビに出まくって「今や日本の新聞はどこも郵政民営化支持なんですね。民営化は正しいんです。マスコミがそれを訴え続ければ小泉さんは勝ちますよ」なんてわめき散らしていたものでした。私はあの時の絶望感を絶対に、絶対に忘れません。

 毎日新聞が今になって宗旨変えするのであれば、岸井のようなアホな輩どもを紙面上で自己批判させるべきでしょう。そして、筆を折らせてどこかの閉職に押し込めるべきです。まあ、解雇するのもかわいそうなので……。そうしなきゃ時代に対するケジメなどつけられませんよ。同じ毎日新聞でも、たとえば西川恵氏などは、郵政民営化への反対論にも理解を示す見方も書いたりしていたのを思い出します。そういうまともな人々が、これからの論説の前面に出るべきでしょう。
 とにかく、マスコミが自己批判しない限り、私は彼らを叩き続けます。

 
 自由貿易の問題に関していえば、大学生の頃の私は、「GATTウルグアイ・ラウンド反対」を叫び続けました。ウルグアイ・ラウンドが、世界の環境と雇用をメチャクチャに破壊し、途上国では飢餓も蔓延させるだろうと確信していたからです。しかしそういう主張は、ほぼ誰からも相手にされなかった・・・・。
 そしてウルグアイ・ラウンドが妥結し、WTOが発足して13年が経過した現在、その事実は良識ある人々にとってはもはや明らかでしょう。愚かなマスコミを除いては。

 ウルグアイ・ラウンド交渉の頃だって、多くの人々がそう懸念して、各地で行動していたのです。日本では農協がその筆頭でした。しかし、日本のマスコミは、そうした良識ある人々に「保護主義者」のレッテルを貼り付け、こぞってウルグアイ・ラウンド讃美の提灯社説を書き続けたのです。ウルグアイ・ラウンドが、世界各国の雇用や環境や食糧事情に何をもたらすのか、誰も検証しようとはしませんでした。そして、今日の絶望的世界が創出されたわけです。

 ちなみに大学生当時の私がどのような主張をしていたか、手前ミソですが私の卒論から引用させていただきます。大学教授からは徹底的に嫌われてパージされまくった卒論です。
 WTO発足以前の1994年2月に私が提出した卒論は『フィリピンにおける森林消失の歴史と構造 -熱帯林消失の本質論-』というものでした。その趣旨は、世界の熱帯林破壊の二大要因は「自由貿易」と「途上国の累積債務危機」であり、この二つの背後にあるGATTとIMFという二つの機関をどうにかしない限り、熱帯林の保全はあり得ないと結論するものでした。その論文の「あとがき」には以下のように書かれています。

****(引用開始)******** 

(前略)
 第三世界では、IMF・世界銀行・GATTという三つの国際権力に対する批判が日増しに高まってきています。この論文で、自由貿易に対する批判のトーンが強いのは、おそらく、昨年12月のウルグアイ・ラウンドの妥結に対する私自身の危機意識の現れです。
 私にはIMFという国際機関は、「先進」国の高利貸し(銀行)に雇われて、第三世界諸国の首を絞めて恫喝をかけ、タンスの扉をこじ開けて借金を取りたてていくヤクザのようにしか見えません。また、GATTという国際機関は、あらゆる地域的個性を破壊して、「先進」国の独占企業体が作った画一的な製品を世界中に強制的に売りつけるための、押し売り連合のようにしか見えないのです。「先進」国に住んでいると、こういうイメージは持ちにくいかも知れませんが、第三世界に住む人々の気持ちを、私なりに代弁するとこういう事になります。
 そして、そのような現実を見ることなしに「国際貢献」などという空文句だけが一人歩きしている現在の日本のあり方に強い危機感を抱かずにはおれないのです。

 さて、最後になりますが、「今すぐIMFやGATTを解体しよう」と言ってみたところで、それこそ空想的な空文句に過ぎないでしょう。私は現実的な打開策として、以下の点を指摘しておきたいと思います。
 京大経済研究所の佐波隆光さんは、80年代に、レーガノミックス、サッチャリズム、中曽根路線などのマネタリズムが台頭して、地球規模での貧富の格差がとてつもなく拡大した点を指摘し、地球規模での失業対策や経済不均衡の是正を目標とする「グローバル・ケインズ主義」という概念を提示しています。(佐波隆光『これからの経済学』岩波新書、pp.18-19.)
 私には、この概念を具体化していくことが、当面はかなり有効なのではないかと思われます。

****(引用終わり)**********

 今から15年近くも前に書いたものですが、基本的に今と主張は変わっていないです。しかし、こうして見ると佐波さんも、あの当時から「グローバル・ケインズ主義」と言っていたのですからエライ経済学者ですねー。

 あれから15年。ようやく「グローバル・ケインズ主義」の必要性が実際に叫ばれるようになりました。ああ、長い道のりだった……。
 日本の思考停止マスコミの中からすら「グローバル・ニューディール」なんて声が出るようになったのです。しかし、アメリカやイギリスでそうした声が大きくなったので、彼らはそれに追従しているだけ。日本のマスコミが自分のアタマで考えてそう結論したわけでは全くないところが、情けないことこの上ないのです。だいたい、ついこのあいだまで「ケインズは死んだ。ケインズ主義からの脱却を」なんてキャンペーンを威勢よく張っていたのはどこの誰たちでしょう? 自分たちの過去の発言に責任もとれないなんて、「恥を知れ、恥を」と言いたいです。あんたたちのそのキャンペーンのせいで、何の罪もない、死ななくてもいい人たちが、みすみす自殺に追い込まれていったんだよ。

 そういうオバカな人々は、また同じ間違いを犯すでしょうよ。やれやれ……。どうして彼らは、米英の権威にひたすら追従するしか能がないのか。
 「クルーグマンはエライ」とか「オバマでチェンジだ」なんてノーテンキに讃美していたら、オバマ政権のしたたかな外交にやられて、日本はハチャメチャにされますよ。オバマであれ、誰であれ、日本に必要なのは脱米なのです。
   
コメント (2)    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« NHKの「世界食糧危機」の感想... | トップ | オバマ政権といかに対峙すべ... »
最新の画像もっと見る

2 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
ウルグアイ・そして減反 (モリー)
2008-11-07 20:30:23
ウルグアイ・ラウンド以降、農協は減反の為に田んぼを潰し、郊外商業施設に土地を提供した。潰した田んぼは米作り以上の収益を農家と農協にもたらした。しかし全ての郊外店がうまくいく理由はなく、撤退されては困る農家・農協は追加融資を続け、足りなければ農協の特別融資部が更に貸し出した。今、農林中金の経営が問題になっているが、あそこのお金は各地区の農協で余ったお金が集まったもの。それだけお金のある農協本体の融資条件内容がどうなっているのかはわからない。そもそもお金の必要な農家には貸さず、国内農業の育成にではなく、米国の輸出経済を助けているような農林中金、日本の農家を殺しているようなものだ。
返信する
モリーさま ()
2008-11-08 01:03:38
 コメントありがとうございました。農林中金、本当にお金の使い方知らなくて困りますねー。
 農協系金融の資金こそ、このブログで論じているエコロジカル・ニューディールのために使いたいものですが……。
返信する

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

自由貿易批判」カテゴリの最新記事