代替案のための弁証法的空間  Dialectical Space for Alternatives

批判するだけでは未来は見えてこない。代替案を提示し、討論と実践を通して未来社会のあるべき姿を探りたい。

パリ協定とWTO協定どちらを取るのか?

2021年01月24日 | 自由貿易批判
マクロン大統領が、ブラジルからの大豆の輸入制限という手段をとっても大豆の国産化を図った場合、ブラジルは「WTO協定違反」として、フランスをWTOに提訴することになるだろう(トランプ政権の妨害のおかげで、WTOの上級パネルは現在機能していないが)。WTOのこれまでの判例から判断すれば、ブラジルが提訴すればブラジルが勝ち、フランスは負けるはずである。  しかし、今世紀後半に炭素排出を実質ゼロにするというパリ協定を満たすためには、アマゾンをこれ以上破壊してはならない。  問題なのは、パリ協定とWTO協定のどちらが大事なのか、という点である。私たちはパリ協定を優先すべきであり、森林を農地転用して生産された作物や牛肉などを、もはやこれ以上輸入してはならないのだ。 . . . 本文を読む

ポスト・グローバル時代の構想 -ケインズのバンコールの復活

2019年01月06日 | 自由貿易批判
日本政府が頑迷なまでに自由貿易に対する原理主義的な信仰を維持し、それのみを守るために、他の米国の干渉をすべてを受け入れ、日本経済がもっていたすべての強みを失ってきたのが、プラザ合意以降の日本経済の流れである。貿易収支は均衡させるべきなのだ。たとえ、総量規制をしてもである。それさえ実施していれば、他のすべての米国からの干渉を跳ねのけることができたのだ。 元外務官僚の藪中三十二氏が番組の中で、「日本の仕事のやり方、あるいは最終的には生きざままで変えろと、こういうのが向こうの(アメリカの)要求だった」と語っていた。「生きざま」を否定されてでも、貿易黒字が欲しいのか? 日本は、貿易黒字を捨てて、「生きざま」を守るべきだったのだ。 . . . 本文を読む

トランプの保護貿易主義と温室効果ガス削減効果

2018年06月10日 | 自由貿易批判
アメリカの関税措置について非難合戦をするよりも、EUも中国も日本も、粛々とWTOのルールに従って対抗関税を課しながら、貿易不均衡の調整に動くべきである。 日本に関して言えば、トランプが自動車への保護関税を実施した場合、農産物に対抗関税を課して、財源を確保しつつ食糧自給率の向上を目指すべきである。そちらの方が未来に向けて希望が持てる。ついでに、アメリカからの圧力で今年廃止された種子法を、新法として、装い新たに復活させるべきであろう。地球温暖化対策としても効果的なのだ。トランプが「パリ協定から離脱する」と叫んでも、私が批判しようと思わない理由は、トランプの関税政策そのものが、国際運輸部門からのCO2削減につながり、ひいては国際的な温室効果ガス削減につながっていくであろうからである。 . . . 本文を読む

週刊エコノミストが自由貿易を批判的に検討する特集

2017年03月21日 | 自由貿易批判
私も「揺らぐ比較優位説 現実離れした自由貿易モデル 「新古典派」の過度な数学信仰」という記事を寄稿しております。興味ある方はご参照ください。今年は1817年にリカードが比較生産費説を提唱してからちょうど200周年の節目になります。この200周年の節目にリカード理論はかつてない批判にさらされている現状を述べ、古典派のリカード・モデルも、新古典派のヘクシャー=オリーン・モデルも現実からかけ離れた机上の空論であると論じています。  その上で「国際協調と自由貿易を堅持し、排外主義を抑制しよう」という言説が全くの誤りであり、現実には自由貿易こそが穏健な人々を絶望に追いやり、排外主義を高めている主因であると論じています。 . . . 本文を読む

多角・無差別のGATT時代の原則に立ち返れ

2017年03月17日 | 自由貿易批判
各国の経済主権を侵害してまでグローバルスタンダードに従うことを強要するようになったWTOの発足後、国際協調は損なわれていった。二国間FTAが横行し、「無差別」で「多角主義」というGATT時代の原則は崩れていき、ついには排外主義が台頭するようになった。緩やかなGATT時代の貿易の枠組みで基本的に問題はなかった。関税は、国家の財源として、社会を安定化させるため、貿易不均衡を調整するため、必要なものであった。各国の関税自主権をはく奪し、例外なき関税化と関税率の削減を強要するようになったWTOの発足後、国際協調は損なわれた。中庸が失われたからである。 . . . 本文を読む

グローバル化の終わりの始まり ―イギリスのEU離脱に思う

2016年06月27日 | 自由貿易批判
グローバル化というのは、つまるところ1%の強欲大企業の経営者層が、さらに儲けるためには、関税も法人税もなるべく払いたくない、なるべく労働者への賃金も抑制したいというワガママを突き詰めていった結果、進んできたものだった。少しでも富の再分配の方向に舵を切れば、グローバル化ももう少し延命したかもしれないが、全くそれを実行する気配がないから、瓦解するのはやむを得ないだろう。今後、行き過ぎたグルーバル化の流れに歯止めがかかり、世界は国家主権を取り戻す方向に反転していくであろう。グローバル化の終わりが始まったのだ。 . . . 本文を読む

自由貿易・ブロック経済・TPPをめぐる安倍首相と朝日新聞の論理矛盾

2015年09月08日 | 自由貿易批判
「戦争の原因はブロック経済」として自国の責任を棚に上げるかのような発言をしながらTPPを推進しようという安倍政権の主張がいかにおかしいか、もう少し補足したい。朝日新聞をはじめとする日本のマスコミも基本的には安倍首相と同じ主張だ。朝日新聞の主張の変遷をたどりながら、その論理的矛盾を指摘しておく。日本のマスコミは、ついこの間までは「ブロック経済の惨禍を繰り返さないため」と叫んでWTOのドーハ・ラウンド推進を掲げていた。しかるに現在では手のひらを返したように、米中衝突を招きよせかねないTPPという危険なブロック経済を礼賛している。彼らが本来あるべき自由貿易論者ではないことは明らかであろう。 . . . 本文を読む

「戦争の原因はブロック経済」神話の虚構

2015年08月16日 | 自由貿易批判
どうやら安倍首相は「悪いのはぜーんぶブロック経済なんだもん。日本は悪くないんだもん」とでも言いたいようなのである。何と幼稚な理屈だろう。その上で「ブロック化なんかせず、開かれた自由貿易体制を推進すれば、世界は繁栄し平和になる」というノーテンキな結論を導きだすわけである。戦後70年談話にかこつけてTPP推進まで正当化しようというわけだ。やれやれ。TPPは、加盟国の内部と外部で関税率に差をつけるという、最悪の形態の差別主義的なブロック経済に他ならない。まさに戦争の原因にしかならない愚行である。安倍首相が、戦争の過去の教訓から「自由で、公正で、開かれた国際経済体制」で世界平和を推進するというのであれば、いますぐTPP交渉から離脱せねばならない。 . . . 本文を読む

農産物貿易自由化と農民層分解と家族農業

2014年10月22日 | 自由貿易批判
戦後の農地改革後の日本農業の場合、「本家」の自作農地は皆が維持したまま、個人の自発性に基づいて都会への人口移動が起こりました。農産物を例外として扱っていたGATT体制のもとで、日本は「コメは一粒たりとも入れない」と輸入自由化を阻止したまま、ゆるやかに農村から都会への自発的な労働力移動が起こりました。中国やインド、メキシコなどで起こっていることは、WTO加盟やNATA加盟という「ショック療法」の中で、農民が強制的に世界市場競争の荒波の中に放り込まれ、強制的・強圧的な形で無理矢理に農民層分解が進行されているという事象です。 . . . 本文を読む

農家の視点では農業と工業の性質の違いは明らかである

2014年10月19日 | 自由貿易批判
 12434さんが、拙著『自由貿易神話解体新書 ―関税こそが雇用と食と環境を守る』(花伝社)の第3章と第4章の書評をコメント欄に寄稿してくださいました。再掲させていただきます。私が本の中で力説した農業と工業を一律に同じ基準で扱うことの愚に関して、農家の視点から見れば自明のことであるとして明快に論じてくださいました。ありがとうございました。 ****以下、12434さんの書評の引用***** h . . . 本文を読む

channel AJERでゲスト出演 「自由貿易神話を解体する」

2014年09月02日 | 自由貿易批判
 AJER(日本経済復活の会)のchannelAJERが運営する、政治経済専門Web放送サイトにゲスト出演してまいりました。私のテーマは「自由貿易神話を解体する」です。AJERのサイトは下記です。 http://ajer.jp/  その動画はyoutubeで一部紹介されています(下記サイト)。後半部分も含めた全部を観ようとすれば、プレミアム会員登録をしなければなりませんが、前半部分は視聴できま . . . 本文を読む

貿易自由化と総需要 

2014年07月04日 | 自由貿易批判
旧来の理論ではリスクを無視し、労働者は職種の間で途切れることなく移動できると想定している。ここでは完全雇用が当然と考えられており、グローバリゼーションによって解職された労働者は、すぐに生産性が低い業種から生産性が高い業種に移れるとされている。しかし失業率が高いときには、そして特に失業者の過半数が長期にわたって失業している場合は、そうのんびりとはしていられない。 . . . 本文を読む

リカード・モデルを前提としても必ずしも自由貿易は肯定できるわけではない

2014年06月29日 | 自由貿易批判
塩沢由典先生のコメントです:『リカード貿易問題の最終解決』で目指したのは、政策と切り離して、どういう状況のもとに貿易の利益が得られるのか、どういう状況では逆に不利益が生ずるのか、きちんと議論・分析する枠組みを作り上げることでした。たとえば、完全雇用が成立するなら、貿易は貿易をしない場合より、ひとびと(この場合、労働者)に利益があるが、ただ自由化するだけで総需要が増えないと失業が生まれることが証明できます。こうしたことは、リカード貿易理論の枠組みの中できちんと言えることです。 . . . 本文を読む

TPPは社会的共通資本を破壊する

2014年06月08日 | 自由貿易批判
新古典派経済学においては、市場均衡と最適な資源配分という信仰を正当化する目的に沿って、その都合に合うような数学モデルを構築してきた。それに対して宇沢の場合、新古典派モデルの現実との乖離を批判し、市場経済が生み出す受給ギャップの拡大という不均衡や、低所得者の増加による社会的不安定性という現実に存在する問題点を説明するために数学モデルを使ってきた。  宇沢は、農産物のような特質をもつ財を、市場機構を通した配分に全面的委ねてはいけない理由も数学的に説明している。農産物は生活必需性が高く、需要および供給面の双方の価格弾力性が低い。農産物は需要も供給も、工業製品に比べると相対的に硬直的で、価格変化に対してそれほど大きく変動することはない。宇沢は、生活必需性が高く需要および供給双方の価格弾力性が低いという特質を持つ財と、需要・供給双方の弾力性の高い財という二財を二つの生産要素で生産するという二財・二生産要素モデルの動学的考察から、両財を同列に扱って市場機構を通じた配分に任せると、最低限の生活を営むことのできない人口比率が増大し社会的不安定性に帰結することを数学的に示している。 . . . 本文を読む

国民国家を縛るスタンダードからグローバル企業を縛るスタンダードへ

2013年05月14日 | 自由貿易批判
 WTOのドーハランドやTPPで定めようとしてきたスタンダードは、国民国家の手足を縛り、国民国家の溶解を加速させるスタンダードであった。必要なのは、グローバル企業を縛るスタンダードなのである。これは、国民国家の諸機能を復活させ、生命と環境をはぐくむことを可能にするものだ。  グローバル競争を勝ち抜けと、ある国民国家が、別の国民国家を敵視するのはばかげている。国民国家同士がライバル意識でお互いに競い合う状態こそ、世界中から効率的に搾取したいグローバル企業群の思う壺だ。  国民国家群が手を携えて、グローバル企業に対決を挑むしかない。それができなければ、戦争の悲劇が繰り返されるだけであろう。 . . . 本文を読む