代替案のための弁証法的空間  Dialectical Space for Alternatives

批判するだけでは未来は見えてこない。代替案を提示し、討論と実践を通して未来社会のあるべき姿を探りたい。

ポスト新自由主義に向けた日本の税制改革

2020年12月09日 | 政治経済(日本)
 この30年間の新自由主義改革ですっかりガタガタになってしまった日本社会。
 いま日本が取り組まねばならない二大課題は、(1)拡大しすぎた格差を是正し人びとの暮らしを守ること、(2)温室効果ガスの排出ゼロを目指して産業構造とライフスタイルを根本的に変えていくこと、であろう。これは別段日本のみならず、人類が生き残りかけて取り組まねばならない二大課題である。

 菅義偉内閣は、意外にも2050年までに温室効果ガスの実質排出ゼロを目標とし、2030年代半ばにガソリン車販売禁止を打ち出した。菅内閣の他の施策は支持できずとも、これのみは支持する。安倍内閣時代、気候変動対策を一切放置してきてしまっただけに、菅内閣が前向きになったのはよいことだ。
 しかし菅内閣から格差を是正するような政策は出てこない。上記二つの政策課題を満たすために必要な税制改革を提案したい。

金融所得への課税率を40%に
 
 昨日の東京新聞(2020年12月8日付)の特報面で富裕層への課税強化を訴える記事を掲載していた。東京財団研究所の主幹である森信茂樹氏のコメントを紹介し、株式売却益など金融所得に対する税率が一律20%とされていることに対し、もっと税率を上げるべきだという提案をしている。その通りだ。
 手始めに、金融所得への税率を倍の40%にまで上げるべきだ。日本社会で何がいちばんおかしいのかと言えば、下のグラフがもっともおかしなことなのだ。
 すなわち日本人の所得税の負担率は、年収1億円までは上昇していくが、年収1億円で27.5%ほどの所得税負担率となり、その後、減少していく。何がおかしいといってもこれほどおかしなことはないだろう。この最大の原因は、富裕層の最大の所得源である金融所得への課税率が20%しかないからだ。1億円を超える高額所得者の所得税負担率が、30%さらに40%と上昇するようなカーブを描くようにせねばならない。そのためには、少なくとも金融所得への税率を40%にする必要がある。
 

出所)岡田 俊明「本当に消費税を増税していいのか」自治体問題研究所
 https://www.jichiken.jp/article/0121/

グッズ減税バッズ課税の原則 ―環境負荷が高いものほど消費税率を上げる

 私は消費税を廃止せよなどというつもりはない。むしろ消費税を使って生産と消費のあり方を持続可能なものに変えていくことを考えるべきだ。税制改革を通して、格差是正と環境危機の克服という二つの政策課題に取り組む意志を明確にするためには、消費税が一律10%というのを改めるべきである。
 気候変動を止めない限り人類に明日はない。バッズ(bads =環境に悪いもの)には課税、グッズ(goods =環境によいもの)には減税、この原則を徹底せねばならない。
 一例をあげよう。肉牛は大量のメタンを放出する。温室効果ガスの発生量で、牛肉は、豚肉の4倍、鶏肉の8倍である。アマゾンで起こっているように森林を燃やして放牧地を拡大しているケースも多い。牛肉は、地球環境への負荷では、あらゆるタンパク源の中で最悪の食材である。同じ肉でも、鶏肉に消費税を5%としたら、牛肉への課税は8倍の40%にしてもよいのだ。昆虫を食べれば温室効果ガスの排出はほとんどゼロだ。栄養価も高く、環境に負荷を与えず、温室効果ガスも出さない昆虫食は、地球を救うと考えられる。昆虫のような、環境にやさしい食材には無税でよい。
 温室効果ガスを出さないようなものには消費税をゼロにする。税制を通して、消費活動を持続可能なものに変えていく。そうすることで生活困窮者が困らいように配慮しつつ、環境破壊的な財とサービスを市場から締め出し、2050年の温室効果ガス実質排出ゼロに向けて社会全体を誘導していくことが可能になる。

 


 

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2 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
不公平な税制を正す為。 (山岸光夫)
2020-12-25 20:58:17
こんばんは。以前コメント・投稿したものです。
今回の記事はとても良かったです。

すいません。所得税全般の累進課税を引き上げて富裕層に多く課税して、貧困層・中間層を減税する。はたまた、法人税の累進課税を引き上げて、大企業に多く課税して、中小企業に減税するという意見が有りますが、先生のご意見は如何でしょうか。
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所得税・法人税改革 ()
2020-12-26 11:02:03
山岸さま

 コメントありがとうございます。所得税と法人税の改革についての私見を述べさせていただきます。

>所得税全般の累進課税を引き上げて富裕層に多く課税して

 これは全く賛成です。累進税制を強化して所得税の最高税率を中曽根内閣以前の70%にまで戻すべきと思います。

>法人税の累進課税を引き上げて

 国内の法人税をあげると企業が法人税率の安い海外に逃げていってしまい、それで国際的に法人税の引き下げ競争になってしまいました。
 まず世界で最低基準の法人税率を決めてしまうことが、喫緊にやらなければならないことと思います。私は世界基準の最低法人税率を30%と決めてしまうべきだと考えます。そうすると海外に逃げるインセンティブが消えます。
 このブログでは、2013年に書いた以下の記事で、世界最低法人税率30%を提起していました。
 https://blog.goo.ne.jp/reforestation/e/ea8594ae4b5b0bdca19340fbf34f8992

 その後、ドイツなどが提起し、OECDで実際に世界最低法人税率の導入が議論されています。以下の記事をご参照ください。
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO51956750Y9A101C1EA1000

 しかし、ここで議論されている世界最低法事寧率は15%ですから、全然話にならないくらい低いです。せめて20%から始め、いずれ30%にまで上げることを目指さねばならないと思います。
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